2分0秒小説『君を傷付けた光』
直接伝えるべきだと思う。でもそんな勇気は無い。だから手紙にした。僕の本当の想いを、君に知って欲しい。
指先に小さな結晶――紅茶の湯気に着色された午後の陽を受けて、微かに暖色に寄ってはいるんだろうけど、それでも毅然とした緑の色を保って――僕の指先で輝いている。
瑪瑙の様だ……。
腹話術師の口で思った。声には出していない。僕には不思議だった――どうしてこんな物が美しいんだろう。
暗い地底で粗土が宝石に変わるように、僕の肺腑で醸された気が結晶となったんだ。
微かに透明で、質量が有るような無いような――でも僕には、その美しさが億劫だった。いつまでも指先に留めておくべきではない、そう強く思った。それはもっとも祈りに近い感情だった。
棄ててしまいたかった。行方知らずにしてしまいたかった。だから僕は、指先にバッタの力を込めて結晶を弾いたんだ。力いっぱい。
まさかそれが、誰かを傷付けてしまうだなんて、想像もしていなかった。僕の出した光、予想以上に尖っていて、鋭利で、そして汚れていた。
「痛い」
小さな悲鳴、頬を押さえ涙ぐむ君。
まさか――。
僕の爪弾いた鼻くそが君の頬を撃ち抜くだなんて――。
ごめん。
君を傷付けて。
ごめん。
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「ちょっと!誰か来て!佐藤さんが過呼吸で倒れちゃったの!」
佐藤さんの背中をさすりながら山根さんが叫んでいる。佐藤さん、手紙を握りしめたまま苦しそうに天を仰いでいる。
「僕のせいだ……」
僕の大きすぎる思いが、彼女の理解を超えてしまった。彼女の平穏な午後を、笑顔を粉々に破壊してしまった――そうだ!光を探そう!力いっぱい爪弾いた光、瑪瑙のような結晶。この世界のどこかに飛んでしまったけど、まだ消えてはいないはずだ。
それを見つければ、それを見せれば、彼女の心を少しは癒すことができるかもしれないその時に僕は、不器用に笑ってこう言うだろう――。
「ほら、見つけたよ」
って。
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