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エジプトで草サッカーをした


今から約30年前の私が19歳のとき、大学を1年休学してエジプトに行きました。語学留学などの目的がとくにあったわけではありませんが。

私が初めて歩いた外国の街は、エジプトの首都カイロでした。何もかもが物珍しくて、毎日夢中で歩き回りました。見たことがない食べ物を見つけては、おっかなびっくり食べました。

よく食べたのは、平焼きパンというのか、丸くてざらざらしたパンのサンドイッチです。中が空洞になっているので、半分に切って具を中に入れます。店先に並べられている具の種類は多様で、これとこれを入れてと指さしすれば、サンドイッチの完成です。珍しいところでは、羊の脳みそのフライなんかもありました。白子のような食感で意外とおいしかったです。

今でも、海外での一番のたのしみは街歩きです。知らない街をぶらぶら散策し、気になったものをつまみ食いするのが、観光名所をめぐるよりも好きです。歩きまわって、その街の地図を自分の中で感覚的に会得するのも、私にとっては大事なことです。

エジプトには2ヶ月ほどいましたが、ほぼ毎日サッカーをしていました。ぶらぶら歩いていると、都会でも田舎でも、必ずどこかでサッカーに興じている人たちがいます。子どもはもちろん、大人が草サッカーをしているのも珍しくありませんでした(平日でも)。たいていフルコートよりは小さい、人数も11人よりは少ないミニサッカーです。

私は小学から高校までサッカーをしていたので、サッカーをやっている人をみつけると必ず座り込んで様子をみていました。

エジプト人の草サッカーを観ていつも関心するのは、皆真剣なことです。公式戦でもなくお遊びのサッカーなのですが、そしてあまり上手でない人も混じっていますが、誰もが激しくボールを奪い合っています。そしてゴールが見えたらシュートを打ちます。日本の草サッカーだと、お遊びだからと軽くプレイしている人が多いと思うのですが。

そのように座って観ていると、必ず誰かが声をかけてくれます。東洋人の風貌なので目立つということもあるのですが、声をかけられなかったことは一度もありません。人見知りで自分から声をかけるのは苦手な私ですが、エジプト人は私の殻をときに無遠慮にがんがん壊してくれます。

エジプトの草サッカーのレベルは、なかなか高いです。技術的にうまい人も多い上にパワーもあり、そして勝つことに貪欲です。ブラジルには行ったことがありませんが、負けず嫌いで有名なブラジル人と通底するものがあるのだと思います。

19歳とまだ若く体力はありましたし、サッカーの練習は今までずいぶんとやってきたので、「おい、おまえうまいじゃないか」と褒められることもありました。私も毎回汗だくになり、真剣にプレイしていました。

サッカーが終わると、これまた決まって「うちに寄って飯食っていけ」と誘われます。そこまで甘えてはいけなかったのかもしれませんが、世間知らずな私は社交辞令であるのかどうかもよく考えず、ほいほいと付いて行き、何度もごはんをごちそうになりました。

私は箸を持参していて、日本ではこんな棒きれ使って食べるんだよと、実演していました。そんなもの使って食べたら面倒だろ、手で食べたほうが楽だし早いだろうというのが、よくある反応です。すると私は、何か適当なおかずの皿を手にとり、箸でものすごい勢いでかき食らいました。行儀が悪いとされるかき箸ですが、ほら、箸でも早いだろと得意気な顔をすると、笑ってくれるのです。

私の英語は片言、アラビア語は挨拶程度しか話さず、言葉での意思疎通は難しいものがありましたが、でも心を通わせることはできていたと思います。サッカーに言葉はいらないし、食事もよろこんで食べれば、相手もよろこんでくれていたように思います。

エジプトでは本当にたくさんの親切をいただきました。はじめての海外だったというのも大きな要因でしょうが、エジプトほど思い出の多い国は他にないのです。

そしてエジプトに限らずですが、今まで旅先でいただいた親切はまったく返し切れていません。親切の負債超過状態です。

日本で草サッカーをして、もし座って観ている旅人風の人がいれば、必ず声をかけることにしよう。外国人でも日本人でもいいや。一緒に蹴ろうよ、そしてその後、一緒に飯食おうと。



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