見出し画像

田近夏子個展「二度目の朝に」インタビュー【中編】

この記事は田近夏子個展「二度目の朝に」のために事前に行われたインタビュー記事【中編】です。

【作家】田近夏子(写真家、以下T)
【聞き手】篠田優(写真家、Alt_Medium共宰、以下S)

〔作家プロフィール〕
田近夏子 / TAJIKA Natsuko
1996年生まれ、岐阜県出身。
2019年東京工芸大学芸術学部写真学科 卒業

2018年に開催された塩竈フォトフェスティバル写真賞に於いて大賞を受賞。
2020年自身初となる写真集『二度目の朝に』を塩竈フォトフェスティバルより刊行。

【前編】はこちら→

=========

作品について

S:しばらく写真集の制作について話ましたが、ここからは少し作品について聞かせてください。
この作品ではかなり切り詰められたモチーフを繰り返しているように思います。例えば水に関する写真が多くでてきますよね。これはお風呂場と関係があるのでしょうか。

T:お風呂場、湿気っぽい、その感じを出したくて。

S:端的に水が写っている川、雪、水滴と同時に直接的にそれらが写っていない、例えばシーツのシワなんかも波のようにも見えるというか水を想起させる部分がある気がします。

T:それはすごいイメージしてセレクトしました。ページのシークエンスとしてもそう見えるように配置したところがあります。

S:あと植物も頻出しますね。これは個人的に好きだからですか?

T:好きです。いつも目を引く対象ですね。

S:湿気、水、水っぽさ、これらによってこの写真集が一つのトーンでまとまっているのは重要な気がします。
白とグリーンとブルーといった全体として自然物の色がほとんどを占めている中で、お風呂場のタイルに使われているピンク色は象徴的かつ、印象的なものとしてあらわれてきます。これはある意味では「死」みたいなものと結びついているお風呂場の写真だけれど、画面の印象がピンク色だとポップに見えるところが面白いです。水をくむ手桶もピンクですしね。

画像1

T:あはは、実はトイレもピンクなんですよね。(笑)

S:これはもちろんそのために作っているわけではありませんが、けれども不思議な、ただ、とても良い効果を結果的に出しているような気がしました。
植物のように、自然物や自然現象は昔から好きなんでしょうか?それとも写真のモチーフとして好きなのですか?

T:自然物はいつまでも見ていられるので好きです。写真を始めてからモチーフとしての魅力も合わさってもっと好きになりました。

S:海の写真はないですね。

T:海の写真はない……あ、あります。海は、富山の方に行って、これは海ですね。

画像2

S : あぁ、これ、このテトラポッドが後ろにあるのは海なのか。川だと思っていました。

T:川の方が多いですね。これはため池かなぁ。

画像3

S:これは印象的な土手というか、側面の肌、レンガのような瓦みたいなものが印象的ですね。しかしこの写真がラストに来たのはどうしてでしょうか。印象深いというか、鑑賞者の目をすごく引くと同時に、特別、何か物語を感じさせる写真でもないような。

T:お風呂場の写真を最初と最後からひとつ前に入れて、その後に一枚置いたのは、ここで終わりじゃなくてその先があるっていう意味がありました。そうすることでもう一度最初から読み直せる、繰り返し読むみたいな行為をしてもらいたかったんです。

S:写真集の内容が循環するような構造になっているということでしょうか。

T:そうです。

S:本の構成から、その写真が必要だったわけだし、全てつながっているんですね。
ある意味ではこの作品については、もともと特定のエンディングがない形で最初から考えられていた。本の形にすれば必ず最後のページはあるんだけれど、その中では特定の終わりがあるわけではない。

T:そうですね、ストーリーとしては終わりじゃないというか、いわゆる始まりがあって終わりがあるというわかりやすい物語があるわけじゃない。物語の形式をしているけれど予定している物語があるわけではないので、わかりやすい起承転結があるわけでもないんです。

S:だけどそこには本という形が適しているというか、この形にすることでこの作品が完成する、ある種のまとまりを得るという思いがあると同時に、それは起承転結で終わってしまうようなものではなくて循環していくようなもの……。つまり何か答えが出るものではないってことですね。

T:そうです、それです。(笑)

S:終わりがないということは、この本自体が構造としてある種の日常みたいなものを示していると思います。無目的という意味で日常を撮りましたという人もたまにいますが、田近さんはそうではなく、これは本の中で「日常っていうもの」を意識的に構成しているんじゃないかなと思いました。もっと言えば、日常というか、日々というか、生きていくということについて。
これは写真集にある写真の中でも印象的で、特徴的なことなので聞きたいのですが、この両親が写っている写真には特別な思い入れがあるのでしょうか?

画像4

T:百合に囲まれていますが、これは何気なく撮ったつもりだったんです。

S:場所もそうですが、被写体との距離感も特徴的だと思います。
またこの写真には本に出てくる被写体が持つそれぞれの色や要素が入っている気がしました。白はシーツや足元の雪、青は川や水、植物のグリーン。またある種バスタブを想起させる花の色。また色だけでなくはっきりと顔を読者側に向けているカットはすごく少なくてこれともう一つくらいだけど、特にこのカットは被写体の存在がむき出しだなと思いました。これは両親への想いあって入れたのでしょうか?

T:両親なので、何かしらは思いはあったとは思います。
家族といえど、近すぎない関係性であることが現れているのかもしれません。でも撮ったときはなんとなく、ちゃんと記念写真を撮っておきたいなって思ったんです。

S:そうなんですね、記念写真か。なるほど、わかりました。

【後編へ】

===

Alt_Mediumではスペース利用者を随時募集しています。
卒業制作の学外発表や、個展、グループ展などを計画されている方はどうぞこの機会にご検討ください。
展覧会開催ははじめてという方から、ベテランの方まで幅広い作家様にご利用頂いております。
展覧会についてご不明な点がございましたらお気軽にご相談ください。

*学割、早割等各種割引もございます。

〔ギャラリー詳細〕
http://altmedium.jp/

***

【お問い合わせ】
Alt_Medium
〒161-0033
東京都新宿区下落合2-6-3 堀内会館1F
TEL:03-5996-8350
E-mail:inquiry@altmedium.jp

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?