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創作童話 おばあちゃんの三面鏡

「おばあちゃん、いるかな」
もえこはおばあちゃんの部屋のふすまをそうっと開けました。
やっぱりおばあちゃんはいませんでした。
おばあちゃんがいつも座っていたざぶとんがぽつんとそこにあるだけでした。  

もえこはまだおばあちゃんのにおいのするその部屋に入っておばあちゃんのざぶとんにすわりました。すぐそばに三面鏡がありました。
もえこはおばあちゃんの三面鏡が大好きでした。だってママのと違って鏡が3枚もあるからです。 鏡はもえこの背丈くらいありました。
おばあちゃんはいつもこの三面鏡の前で着物を着ていました。
もえこは三面鏡の前に座って鏡の扉を開きました。
 そして右手で右側の鏡をつかみ、左手で左側の鏡をつかみ顔をはさんで中をのぞきこみました。
右の鏡の奥にも左の鏡の奥にも何人ものもえこが重なって見えました。
もえこは両側の鏡をパタパタと開けたり閉じたりしました。
するとまるで万華鏡のように鏡の中のたくさんのもえこが動きました。
                                                                                 
笑って見るとたくさんの笑顔のもえこが重なり、口をへの字にすると悲しそうなもえこが重なって見えました。
何度もそうしているうちにふと奥の方に何かが見えました。

「おばあちゃん!」
おばあちゃんは座ってお裁縫をしているように見えました。
けれどももえこが鏡に顔をくっつけて言ったので鏡が曇ってしまいました。
もえこはあわてて鏡をこすってもう一度のぞきこみました。
鏡の奥の方でおばあちゃんが何か縫い物をしています。

「おばあちゃん!もえこだよ!」
けれども今度はもえこの涙で目の前が曇ってしまい見えなくなってしまいました。
もえこは涙をぬぐいもう一度鏡をのぞきこみました。
今度はおばあちゃんがこっちを向いています。
「おばあちゃん、どこへ行っちゃったの?」
おばあちゃんはやさしい笑顔でもえこを見つめているだけでした。
          
「おばあちゃん!今度もえこは幼稚園のおゆうぎ会で〈おやゆび姫〉をやるんだよ。また見に来てほしいな」
去年おばあちゃんは一番前の席で見ていてくれました。
「でももえこはつばめの役なんだ~ おやゆび姫やりたかったなぁ」
もえこはしょんぼりして言いました。

すると遠くの方からなつかしい声が聞こえてきました。
『つばめはおやゆび姫を助ける大切な役だよ』
「え?!」
けれどもそのとたん鏡の中のおばあちゃんは見えなくなってしまいました。

 翌日、もえこはまたおばあちゃんの部屋に来て三面鏡をそうっと開けました。
三面鏡には3人のもえこがうつっていました。
もえこがのぞきこんでももえこしかいませんでした。
「おばあちゃん!もえこ、つばめの役がんばるよ!見ていてね」

もえこはそういうと三面鏡の前でつばめの役の練習をしました。
棒につけた紙でできた羽をバタバタさせて踊りました。
畳の上ですべって羽が破けてしまったり歌を間違えてしまったりしましたが、夢中で練習しました。
すると三面鏡の奥の方から『ふふふ』と言う笑い声が聞こえました。
もえこは
「おばあちゃん、ありがとう」
そう言って三面鏡をそうっと閉じました。

 おゆうぎ会の当日、もえこが目を覚ますと枕元につばめの衣装が置いてありました。
背中は紺色の光沢のある布でお腹は白くなっていて羽根を広げる袖もついていました。
「ママ〜これ!ありがとう」
「あーそれならおばあちゃんが亡くなる前に作っていたものよ」

              おわり

おばあちゃんの三面鏡に映った万華鏡のような aimaruさんの作品を見出し画像にさせていただきますました。ありがとうございました🥰


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