記事感想:CBRE U.S. Cap Rate Survey H2 2022

1.CBRE U.S. Cap Rate Survey H2 2022記事について

CBRE U.S. Cap Rate Survey H2 2022がリリースされました。
https://www.cbre.com/insights/reports/us-cap-rate-survey-h2-2022

この記事をもとに、2022年の米国不動産キャピタルマーケット及び2023年以降のアウトルックについての概観をしたいと思います。

今回紹介するCBRE以外にもJLLなどは定期的にこうしたキャピタルマーケットについてのレポートを出しており、これをざっと見るだけで海外不動産マーケットの概要がわかるので、例えばUSリートに投資している方が実物マーケットについておさえたり、またゲートキーパーや機関投資家のオルタナティブ投資担当者が海外不動産ファンドに投資する際の情報収集をしたいときに、参照するのがおすすめです。

なおこういう英語記事ですが、流石に全部英語で読むのはしんどいし時間がかかるので、①ブラウザ翻訳かけてざっと読む→②図表関連部分やその他気になった部分の英文を読むようにするとスムーズに行くと思います。
個人的に日本人が「文章をざっと見てだいたい何が書いてあるかを把握する能力」は、日本語文章と英語文章で体感100倍くらい違うと思うので、Poor English Speakerが"英文のまま読まねば"と強迫観念をいだきながら英文を読んで疲弊するくらいなら、どんどん翻訳して読めばいいんじゃないかと思います。

2.記事の大まかな内容

  • 2022年の利上げを反映し、H1 2022からH2 2022でキャップレートは60bpsほど上昇。特に2021年で高いパフォーマンスとなっていたIndustarialとMultifamilyアセットで顕著に上昇。

  • 2023年前半もキャップレートは上昇を続けると見られるが、CBREは2023年後半には国債金利もキャップレートもピークを迎え、2024年には下落開始すると見ている。すなわち2023年はいいエントリータイミングとなるかもしれない。

  • 5つのインサイト

    • bid-ask spreads for properties(売り手と買い手の目線の差)が拡大しており、取引量が低迷している。

    • Cap rate decompression(キャップレート低下圧力の解消)が続き、アンケートでは2023上半期に更に25bps上昇する予想。

    • 引き続きIndustrialセクターとMultifamilyセクターがパフォーマンスを牽引すると思われる。これらのセクターはパイプライン(潜在的供給量)は潤沢であるものの、需要は強くファンダメンタルは堅調。

    • 今後2年間、オフィスを中心にローンがデフォルトする物件が出てくるマーケットとなる。

    • ホテルADRがコストのインフレを上回り、ホテルパフォーマンス上昇に寄与。

  • レンダーは慎重になっており、オフィス セクターの平均 LTV は今後 6 か月で低下すると予想。低い質のオフィスでリファイナンスできずデフォルトする可能性がある。

  • アセットタイプ別論点

    • オフィス・・・低迷が顕著。オフィスREITは低迷。賃貸需要が全面的に低下しており、今後は築年数が古く質の低いオフィスへのローンはますます制限され、質への逃避が起こるとみられる。

    • Industarial・・・引き続き好調。今後アセットのハブとなる都市は、Florida and Nashvilleなど南部成長都市、Savannah and Norfolkなど東部港湾都市、Reno, Phoenix and Central Washingtonなどコストの低い内陸部となると思われる。

    • 住宅・・・引き続き好調だが、住宅ローンの上昇によりキャップレートをローン金利が上回るような状況で、今後もこの状況が続くかもしれない。賃料は今後数年間で低下する見込み。

    • リテール・・・ポジティブ。Regional Mallを中心に需要は強い。

    • ホテル・・・一時COVIDで傷んだが、ADRの上昇によりgross profitは改善。企業がコラボレーションのためのグループ旅行(要は企業合宿や国際カンファレンスなど?)のニーズが強い。

3.コメントと補足

  • 現在の状況は記事で触れられている通り、利上げによりデットコスト及びキャップレートが上昇し資産価格が低下し続けている。

  • ただしまだファイアーセールによりキャッシュを確保するというようなリーマンショックの暴落のような状況ではないため、売り手はたたき売りをしないし、また買い手は安く買いたいので、必然的に売り手と買い手の目線の乖離が上昇し、取引量の減少、すなわちマーケットが低迷している状況。要するにFEDはいつ金融引締めをやめるか?が焦点。

  • 以下グラフを見ると、2020年に6%くらいあったイールドギャップが、FEDの容赦ない利上げにより、2022下期には2%くらいに圧縮され、投資妙味が著しく下がっていることがわかる。

  • コロナ直後から「レジとロジを買え」というのが共通認識で、現にこの2つのアセットタイプは2021年の金融緩和時に著しくNAVが上昇した。しかし2022年の利上げに伴い上がりすぎたNAVが現在下がり、キャピタルゲインが派手派手にマイナスを記録している状況で、コレを見ると「もうレジとロジはそろそろダメなのでは?そろそろ落ちまくったオフィスのディストレス取得のフェーズではないか?」と考えてしまうが、どうやらまだまだレジとロジが強くオフィスは弱いという状況はまだまだ継続する模様。

  • オフィスについては日経記事(米銀破綻、中堅行のオフィス融資に市場警戒 REITも苦戦)にも出ていたが(SVBとは関係ないと思うが…)、全般的に苦戦しているようだ。

    以下主要US-REIT銘柄の1年間の株価推移を比較すると、物流REITのプロロジス(PLD)、個人用ストレージREITのパブリックストレージ(PSA)、通信インフラREITのアメリカンタワー(AMT)などと比べると、オフィスREITのボストン・プロパティーズ(BXP)のパフォーマンスは低いようだ。
    なおアレクサンドリア(ARE)はオフィスREITだがメディカルオフィスという医療特化型オフィスなのでBXPほど低くはない模様。

    オフィスは落ちすぎたのでそろそろ参入か…?と思いつつ、やはりオフィス需要の弱さはまだまだ続き、これからダメなオフィスでデフォルトが出てくることを考えると、まだ様子見が妥当だろうか。

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