ある猫の話
ある猫はいつも飼い主の足元を歩き回っていた。飼い主が大好きだったのだ。飼い主の足の臭いが好きだったのかもしれないが、とにかく大好きだったのだ。
時々、その飼い主は、その猫をうっかり踏んづけたりしていた。それでも、その猫は飼い主の足元を歩き回るのをやめなかった。
そんな日々を、その猫は飼い主と過ごしていた。
ある日、猫がいなくなってしまった。飼い主は「腹が減ったら帰ってくるだろう」と玄関先にエサを置いてやった。
それから数日経ったが、それでも、猫が帰ってくることはなかった。飼い主は、流石に心配して近所を探し回ったり、近所の掲示板に張り紙を出したりしたが、それでもやっぱり、その猫は見つからなかった。
そんなある日、飼い主が庭の洗濯物を取り込もうとしたところ、見たことのない靴下がそばに落ちていた。猫のデザインの靴下だった。
「どこから飛んできたんだろう?それも新品のようだし。子供のいたずらだろうか・・・」
飼い主は不思議に思ったが、とりあえず部屋の中に持ち帰った。隣の家の人のものかもしれないと思い、ご近所さんにも声をかけて靴下を見せたが、誰のものでもなかった。
飼い主は、その靴下に商品のようなタグがついていたのと、新品のように見えたので、持ち主を探すのを諦めて、自分で履くことにした。
よくよく見てみると、それはあの猫に似た靴下だった。
それから、飼い主は大切にその靴下を履いては、あの猫のことを思い出すのだった。
蠍凛子
「表現・創造すること」は人間に与えられた一番の癒しだと思っています。「詩」は、私の広い世界の中のほんの一部分です。人生には限りがある。是非あなたの形で表現してみてください。新しい世界に出会えます。