「子宮に沈める」

「子宮に沈める」という映画を視聴した。

※ネタバレ含みます。

▶︎あらすじ


最初の20分ほどは、ほとんど会話がなく、
3歳と1歳くらいの子どもの世話をしている
様子が流れていた。

カットの撮られ方が不思議で、人の顔を映していなかったり、
焦点をあわせないようにしたりしていたのが印象的だった。

ある日から、母親が帰ってこなくなり、弟のお世話をする姉。
3歳の彼女なりに、弟をあやして、
ミルクもつくっていた。
外に出たくてもドアがガムテープでしまっており、
外に出られない状態であった。
テレビもつかず、部屋はゴミ屋敷になっていた。
途中から、弟が反応しなくなっていた。

久しぶりに戻ってきた母は、
無言でお湯を溜め、娘を溺死させ、
死んだ息子の頭にビニールをかぶせた。
とても見ていて苦しい気持ちになる映画だった。

▶︎ネグレクト 「大阪2児餓死事件」

これは、虐待の中でも、「ネグレクト」とよばれる育児放棄にあたる。

この映画を見て、児童虐待について調べてみると、
この映画の元になった事件があった。
それは、2010年の7月30日に起きた
「大阪2児餓死事件」である。

▶︎彼女の生い立ち

三姉妹の1番上として生まれた。
彼女の両親は仲が良くなく、
母親が帰ってこないことも多かった。
両親は彼女が7歳のころに離婚。
父の再婚相手も、連れ子がおり、
三姉妹のことは可愛がってくれなかった。
中学生では、夜遊びを繰り返し補導されていた。
また、お金がなくて、援助交際を行っていた。
しかし、高校生の頃に、知人のもとで、
愛情を注いでもらって、落ち着きを取り戻す。

そして、結婚し、2人の子どもを授かる。
しかし、子育てに疲れた彼女は、
子どもを家において夜遊びを始める。
また、不倫もしていた。
不倫が夫にバレ、離婚が決定。
金銭的にも精神的にも苦しくなる。
そこで、大阪市のホストクラブに通いつめるようになる。

そのような生活が続き、
3歳の娘と1歳の息子を50日間も家に放置し餓死させた。
彼女には、懲役30年の実刑が下されている。

▶誰が悪いのか?

最初にこの事件の内容だけを聞くと、彼女が”悪者”という
考えに至ると考える。
しかし、彼女だけが悪いのだろうか?
子どもの泣き声が聞こえていたのに通報しなかった
アパートの住民。
彼女を支援する必要があったのにしなかった彼女の両親。
通報を受けたこども相談センターの対応。
アパートの住民を把握していない管理人。

私は、彼女だけではなく、周りの大人にも責任があると考える。

▶心理鑑定をした西澤さんによると



彼女の心理鑑定をした西澤哲さんは、彼女が、
" 良い奥さんになるよりも良いママになりたい ”
といったことに注目した。

「自分が満たされなかった子ども時代を穴埋めしたく、
乳幼児期の自分を満足させたいからだという。」

また、彼女が娘に重ねている可能性を示している。
子どもたちを置き去りにしたとき、我が子を人から
隠し通したことにもつながる。
誰からも放置されている我が子を受け入れられないのは、
誰からも放置されていた幼い自分自身を直視できないということである。

だからこそ、男性から愛されている自分をSNSや
ブログに乗せることで、自分を表現していたのだと考えられる。

一度だけ、彼女がブログにこう書いている。
「もっともっとまわりを信じて、自分の信頼できる人に
泣きついてみるのもひとつの手段だと思う。」

安定していたころは、生き延びるためには、人に頼ることが
必要だということが認識できていることがわかる。

また、彼女は「投影同一視」といえる状態だったのではと西澤は語る。
娘を幼児期に寂しい思いをしていた自分を重ねていた。
娘と自分を重ねているため、娘の孤独を認識することは、
幼い頃の自分自身に直面することであったのではないか。

実際、彼女は、裁判で孤独な子ども達を見ているのが
辛かったと繰り返し述べている。

▶非正規雇用の女性たち


1990年以降、非正規雇用が増加している。
母子家庭の就労は難しく、
平成23年度の平均年間就労収入は、181万円である(厚生労働省)。
また、離婚は女性の貧困につながる。
子どもと過ごす時間が少なくなり、肉体を追い込み、
最終的には、精神的にも影響が出ることは確かである。

このような状態の母子家庭は、今でも多いのが現状である。

【彼女の場合】
解離的な認知操作の末、記憶を飛ばし、その場をやり過ごす
ことが苦しみからの逃げ方だったのではないだろうか。

育ってきたなかで、性に関して「嫌だ」「違う」「できない」
という拒否の言葉を奪われてきた。
つまり、風俗の仕事は、彼女にとってダメージの大きなもの
であったと考えられる。
そんな時、ホストに優しくされたら、その魅力に取りつかれる
のは目に見えている。
彼女は、困難なことがあるとホストといることで
その現実から逃れていた。

実際、毎日新聞が行った調査によると、
出生届がでているのに乳児検診を受けず、行政が所在を
確認できない0~3歳児は、日本に355人いた。

非正規雇用が多くなり、勤め先が短期間で変わったり、
自身の親との関係が希薄化する。

保健福祉部子ども家庭課の担当は、
「いなくなった子ども達を探すのは、1つの自治体では無理。
ネットワークがなければ。」と地域の連携の重要さを明言している。

▶まとめ

人は、自尊感情が弱まると、自己主張ができなくなる。
この事件は、安定している時は、周りに助けを求めることが
できた彼女が孤立し、自分と向き合うことができなくなり、
最終的にネグレクトに繋がったと考える。
だからこそ、早めの介入が必要となる。

子ども達を置き去りにするのも、守れるのも大人なのである。

▶私たちにできること

これらを踏まえて、私たちにできることは、
2つあると考えられる。

1つ目は、この児童虐待について知ることである。
この内容に興味をもって、問題視されている
社会問題に目を向けることが大事である。

また、虐待かも?と思ったら
児童相談所虐待対応ダイアルにかけることが
有効である。
番号は、189(いちはやく)であり、通話料は無料である。
かけることにより、近くの児童相談所につながり
専門家が対応するような仕組みになっている。
この通告・相談は匿名で行うことができるため、
通告・相談した人の秘密は守られる。

通報することを躊躇しないでほしい。
その電話一本で、子ども達が救われるかもしれない。

【参考文献】
緒方 貴巨 (2013年)映画「子宮に沈める」
杉山 春(2013年)「ルポ 虐待ー大阪二児置き去り死事件」




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