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「大したことではない」の肝

以前、日本語教師になるよりもずっと前に一緒に仕事をしていたYさんは
お父さんの仕事の関係で幼少期をビルマで過ごしたそうだ。
ミャンマー、と名前が変わる前後の軍事政権下の国で育ったという。

いつもフリルのスカートで、夏には日傘。
上品なお嬢様、といった感じの見た目で
大人しく静かな人だった。
余計なことは殆ど話さない。
いつも冷静に周りを見回して、何かあれば静かに寄って来てサポートしてくれる。
ただ、興味を持ったことに対してはとことん追求する。
そんな感じの人だった。

ある時、同僚がミスをしてしまい、職場がパニック状態になった。
「どうしよう!」を連発する同僚達に対してYさんが口を開いた。

「命に関わることではない、
命に関わらないことは大したことではない」

まだ20代の後半の若者が発した、
落ち着き払ったこの一言。

不思議と職場も落ち着きを取り戻し、ミスもうまく撤回された。

こういうセリフは皆がどこかで発し、
どこかで耳にする。
だけど、私が聞いたYさんの言葉はあれ以来ずっと心に残っている。

客観的に見れば大変なこと、困難なことに出会っても
あまり慌てなくなった。

「大したことではない」の後に何が続くのか。
それは人次第であると思う。
その時によっても違うだろう。

けれど、心の構えとして
慌てずに立ち向かえるようになったのは彼女の言葉があるからだ。

「目の前で戦車に轢かれる人とか見ちゃうと、平和が当たり前の世界で何を慌てることがあるんだ?って思っちゃって」
と彼女は言っていた。

そんな彼女の言葉が私に与えてくれたものは大きい。


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