パチン!と鳴らすは……
猿 魔法使い 市場
私がはじめて魔法を見たのは街の初等科学校に通いはじめたころ、母に連れられて行った市場でだった。市場には色とりどりの野菜や果物が売られており、中央にある広場では旅芸人がさまざまな芸を披露していた。
私はそのなかで一際目立つ格好をした魔法使いを見つけ、母を引っ張り、連れて行った。
魔法使いは私を近く呼び寄せると、檻に入った猿を指差し、
「いまからこの猿に魔法をかける。私が指を鳴らすと猿は笑い出すぞ」
と言った。そして魔法使いは猿を指差し、
「パチン!」
魔法使いが指を弾く直前、檻の中の猿がパチンと指を鳴らした。
その瞬間、猿は魔法使いに、魔法使いは猿に変わってしまった。
猿は驚く私を見てこう言った。
「魔法使いは人間だけだと思うなよ」
魔法使いになった猿は笑いながら通りの向こうに消えていった。
僕は笑った。
「どんな夢を見てるんだろうね」
猿は檻のなかで両手を叩きながら笑っていた。
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