初恋の先輩へ。人生初のカミングアウト
あれは16歳の初夏。少し汗ばむ季節のころだった。
あの頃の僕は、
目の前で行われる暴力から逃れようと必死で、
それでも、
日常の中で楽しみを見つけていたように思う。
戸籍訂正済のトランスジェンダー・新生光です。
はじめましての方はこちらの自己紹介記事をご覧ください。
今回のnoteでは【人生初のカミングアウト】と題して、
僕の初めてのカミングアウトについて書いていこうと思います。
それではどうぞ。
出会い
中学生になった僕はソフトボール部に入部した。
本当は野球部がよかったんだけど、
「女子はソフト部だろ」と顧問の先生に言われてへそを曲げていた。
僕が通っていた中学の野球部は割と強くて練習もハードだったので、
上達しそうだなと思っていたんだけど、
性別の壁は厚くほのかな希望は閉ざされて、
しぶしぶソフトボール部を選んだ。
ソフトボール独特の投球フォームを初めて見たときは
正直、戸惑ったけど、
野球よりも短い塁間に少しだけほっとした。
僕は少年野球チームに入っていた影響か球技の才能は割とあった。
でも、劇的に走るのが遅かった。
努力しても走力というか高速で走ることはできず、
全力で本気で走っても「本気だせ!」と怒られたり、
いつも運動会の徒競走はビリだった。
小学校最後の年には、
市内全体の体育祭のようなものがあって、
市内にあるいくつかの小学校対抗で各競技を争う、
というイベントが行われた。
僕はソフトボール投げの選手に選ばれ、
その競技で優勝した。
速く走る能力はなかったけど、
遠くに投げる能力はあったので、
ソフトボール部での活躍は少しは期待できたのかもしれない。
そんなわくわく感も少し持ちつつ、
初めは仮入部ということで、
放課後、クラスメイトと一緒に校庭へと向かった。
「仮入部させていただきます、1年3組のアライです」
大きな声でそう叫んだ。
「あ、新入生?ようこそソフト部へ!よろしくね!」
その声のほうに振りかえってみると、そこには天使が立っていた。
あ、、、天使?
僕はその天使に見とれて返事をできずにいた。
大きな笑顔を携えた、
アヤ先輩と出会った瞬間だった。
トキメキ
気づいた時には、
恋の対象は女の子だった。
初恋の定義がよくわかっていない。
もし心のトキメキのようなものを初恋とするならば、
もう少し小さいころにそれを体験しているかもしれない。
小学生くらいのときには、
気になる女の子に砂玉爆弾とかをぶつけていじめたりしていたから、
幼稚な愛情表現しかわからず、
好きな子をいじめるという典型的な悪ガキだったと思う。
恋するのは、
いつも女の子。
でも、
そんな気持ちはだれにも言えずにいた。
年齢があがるにつれて、
仲が良かった男友達たちはなぜか距離ができてしまい、
周りには女友達しかいなくなってしまった。
そんな女友達との会話には、
もれなく
「好きな男の子は誰か」
という話もついてくる。
俺は●●ちゃんが好きなんだけどな、、、
そんな本心をいつも押し殺して、
僕は適当に話を受け流す癖がついた。
どんな人が好き?
と聞かれれば、
「優しい人」
とかありきたりな回答をするのも、
こういう会話を回避する術の一つだった。
恋愛の対象が女の子であることは、
自分が変人であるというレッテルのように感じていた。
告白なんてとんでもない。
自分の中にだけ収めておこうと強く思っていた。
しかし、
アヤ先輩という天使に出会ったしまった春の日、
僕のトキメキは暗い毎日の中でひときわ輝く、
光そのものだった。
光と影
中学時代はかなり家庭が荒れていた。
僕の中学校生活は、
学校・部活・塾が中心で、
塾に至っては
地域で有名な進学塾に週3日は通っていたと思う。
放課後遅くまで部活を頑張って、
急いで帰宅してから塾に通う。
大量の宿題をこなし寝るのは毎晩遅かったけど、
深夜にはオヤジが酒を飲んでは母さんと夫婦喧嘩をして
毎晩のように怒鳴り声や悲鳴が聞こえていた。
僕は小さな弟に聞こえないように、
彼の耳をふさいで震えながら眠っていた。
朝を迎えると朝練のために、
早い時間に家を出た。
アヤ先輩に会える。
恐怖から解放された朝は、
そんな希望が待っていた。
僕にとって暗い夜は、
光り輝く朝を迎えることで
バランスをとっていたのかもしれない。
「あ!たろー!おはよう!!」
なぜか僕はアヤ先輩からは、
たろーと呼ばれてかわいがってもらえていた。
ペットの犬のような感じに思っているのか、
その真意はよくわからなかったけど、
とにかくそばにいられることがうれしかった。
アヤ先輩は1つ学年が上だったので、
少なくともあと2年弱は同じ校舎で過ごせる。
そう思うと毎日の中学校生活も、
制服問題などいろいろと嫌なこともたくさんあったけど、
少しは緩和されていた。
部活の時間だけではなく、
休み時間などに廊下で見かけたり、
全校集会とかで体育館で手を振りあったり、
先輩が僕を見つけて後ろから抱き着いてきたりして、
ほんとにかわいがってくれていた。
アヤ先輩は僕よりも少し小柄で走るのが早くて、
大きな笑顔がとても大人びて見えた。
少し前まで小学生だった僕からしたら、
それはそれは大人の女性にうつった。
そんな魅力的な女性だったから、
当然男子中学生もほっておくわけがない。
タイミングは忘れたけど、
アヤ先輩に彼氏ができた。
かわいいから仕方ないとはいえ、
本当に悔しかった。
その彼は野球部だったので、
僕は放課後その彼氏に向かって、
思い切りソフトボールを投げつけたりして、
地味な報復活動をしていた。
アヤ先輩のことが好きだ。
でも言えるわけない。
この気持ちはしまっておかなきゃいけない。
いろいろな言い訳をして、
僕はそんな気持ちを
なるべく出さないように日々を過ごしていた。
一緒に部活ができればそれでいい、
そう思っていた。
しかし、
アヤ先輩が突然学校に来なくなってしまったのだ。
突撃
女性は古来から徒党を組みたがるものだ、
と何かの本で読んだことがある。
きっとそのことが実証されたのだろう。
部活の先輩たちが、
一斉にアヤ先輩をハブにし始めた。
何がきっかけだったかはわからないけど、
なんとなく先輩たちが
2~3のグループに分かれるようになって、
アヤ先輩と仲が良かったミキ先輩は
中立の立場をとるようになっていた。
先輩からあの大きな笑顔が消えた。。。
そして、
冬休みを前に先輩は学校にこなくなってしまった。
中学生という全国的にも全世界的にも多感な時期、
それぞれの思春期がぶつかり合い、
アヤ先輩はその中に巻き込まれてしまったのかもしれない。
冬休み中の部活はとてもつまらない時間だった。
寒い時期だからあまりボールは使わずに、
走り込みなどの
体力つけよう的な練習メニュー中心になったし、
何よりアヤ先輩のあの笑顔が見れない。
あのかわいい声が聞こえない。
そんなさみしい冬休みだった。
僕はいてもたってもいられなくなって、
アヤ先輩の弟であるリョウスケに話しかけた。
リョウスケとは別のクラスだったが、
アヤ先輩の1歳年下の弟で彼はサッカー部だった。
部活をさぼって、
ゴールネットでゴロゴロしている
サッカー部員の中にリョウスケもいた。
「ねー、アヤ先輩、元気にしてるの?」
僕はリョウスケに聞いたが、返事は素っ気なく、
あー多分。
というものだった。
業を煮やした僕は、
以前アヤ先輩と一緒に帰ったときのかすかな記憶を頼りに、
正月、アヤ先輩の自宅まで押し掛けた。
表札にはアヤ先輩の苗字が書かれていた。
珍しい苗字だったから、
そんな近所に数件あるわけはないし、
前に来たときの玄関の雰囲気と似ていたので、
ここだと確信し、チャイムを鳴らした。
「え!たろー?どうしたの?」
アヤ先輩は普段着で、玄関から出てきてくれた。
「先輩と学校で会えなくなっちゃって、
寂しくなったから、きちゃいました。
また学校で会いたいっす。」
僕は必死に声を絞りだして、
先輩にそう伝えた。
寒さと恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら
(見えてたわけではなかったけど、
自分で感じるほどに体温が上昇しているのがわかった)、
うつむき気味のアヤ先輩に声をかけた。
すると、アヤ先輩は
いつもの大きな笑顔でぱーっと笑って、
「ありがと、たろー♡」
と言ってくれた。
勇気出して行ってよかったかどうかは、
その時点ではわからなかった。
先輩たちの抗争(?)に首を突っ込むのは筋違いだと思ったが、
僕は冬休み中の部活のミーティングでも発言した。
「先輩たちがもっとチームワークを発揮しないと、
春の大会では勝てないと思います。」
と生意気なことを言った。
僕は既にこのチームでは超主力選手で、
キャッチャーで4番バッターだった。
ホームランの数も、
チームナンバーワンだったし、
打率も打点もよかったので、
足は遅いけど
1番バッターをやることもあった。
遠くに飛ばせば、
早く走れなくても多少はカバーできたからだ。
1年生の期待のルーキー
という立ち位置も存分に利用して、
強気の発言をした。
ある先輩からは生意気と言われた。
でも、発言力のある先輩からは
「たろーのいうとおりだね。
大事なのは勝つことだから、
そのために
どうすればいいかみんなで考えよう」
といったところでまとまった。
新しい年になり、
冬休みあけの始業式、
僕は元気に登校してきたアヤ先輩を見かけた。
先輩は大きく手を振り、
「たろー!」と声をかけてくれた。
僕はうれしくてうれしくて、
何度も何度も手を振り返していた。
勇気を出して本当によかったと思った。
新学期になってすぐの春、
僕たちチームは地区大会で
初めての勝利を手にしたのだった。
卒業
楽しかった部活も、
アヤ先輩の卒業とともに、
僕ら中心に代替わりして
考えることもやることも増えていった。
部長になった僕は、
キャプテンとして
地区大会で優勝するにはどうすればいいかと
戦略を練って、
日々の練習に励んでいた。
アヤ先輩が卒業したときに、
僕は先輩から鉢巻を譲ってもらった。
その鉢巻をお守りのように持ち歩き、
春の大会に臨んだ。
アヤ先輩も高校の帰りに試合を見に来てくれた。
高校の制服に身を包んだアヤ先輩は、
また一段と素敵になっていて、
さらに好きな気持ちはヒートアップした。
春の大会は決勝まで進んだ。
最終回、
このバッターを抑えれば優勝!
そこまで来ていた。
迎えたバッターは相手校の4番打者。
この地域では
おそらく一番のスラッガーだった。
外角低めに構えた。
しかし、
1学年下のピッチャーの手元が
少し狂って甘めに入ってしまったのを、
地域最強スラッガーは見逃さなかった。
レフトへ一直線に伸びる打球、
深い位置に守っていたレフトの仲間のグローブをかすめて、
その打球は飛んで行った。
サヨナラ負けだった。
僕らの春が終わって桜は散った。
アヤ先輩も、
「たろー、惜しかったね。また夏がんばってよ!」
そういって励ましてくれた。
夏まで僕は部活を続けていけるか不安だった。
それくらい、
家庭が荒れてしまっていて、
高校に進学できるかも
微妙な状況まで追い込まれていた。
それでもなんとか頑張って部活を続けた。
最後の大会は準決勝敗退して
県大会出場の夢は、
後輩へと託された。
僕のソフトボール人生は、
ここで幕を閉じた。
家庭のトラブル
高校入試の前に、
両親のトラブルは激化していて近所の人からは、
あまりの騒音に通報されるほどだった。
入試の一週間ほど前には、
僕はたまらず、
家出をして学校の部室に逃げてしまった。
それを警備員に捕獲されて、
翌日の職員会議で大問題になった。
担任の先生と話しをしたときに、
「僕は高校には行きません。
働いて自分で生活できるようにしたいです。」
そう告げた。
校内では成績も悪いほうではなかったし、
進学先も
地域では一番学力が高い進学校を目指していた。
部活でも校内活動でも活発だった僕が、
そんな荒れた家庭事情を抱えていたことが
初めて明るみになり、
先生方はざわついていた。
部活の顧問に個別に呼び出されて、
一緒にラーメン屋にいった。
「お前も大変だったんだな。
まあ、高校行ってから
その先のことを考えても遅くはないんじゃないか。」
と励まされて、
なんとか受験をして、合格した。
オヤジは僕の高校合格発表の数日前に
離婚届を書いて家を出ていった。
近所の女子高に入学できて、
諸悪の根源であったオヤジもいなくなり
安心したのもつかの間。
オヤジはまたたびたび家に来るようになり、
そのたびに大暴れをするようになった。
新しい高校生活は楽しかった。
母さんは毎日たくさん仕事をして生活費を稼ぎ、
小さい弟の面倒を僕も少しだけ見る、
というリズムができてきていた。
しかし、
定期的に恐怖は襲ってきて、
僕と弟と母さんの精神状態は限界を迎えていた。
「母さん、もういいよ、逃げよう」
僕は母さんにそう提案して、
母さんの実家方面に夜逃げをする計画をたてて
実行に向けて少しずつ準備をすすめた。
僕はせっかく入学した高校を、
2か月で転校することになった。
初めてのカミングアウト
夜逃げを決行する2日前、
アヤ先輩と近所のスーパーでばったり出会った。
これを運命の再会と呼ばずして
何というのだろうか!
「たろー!超久しぶりだね!ちょっと公園で話そうよ!」
と誘われるままに
近くの公園まで一緒に歩いた。
既に高校生2年目に突入していたアヤ先輩の輝きは
加速をしていて、
もうかわいいなんていう
簡単な言葉だけでは言い表せなかった。
公園のベンチに座ったのだっただろうか、
鉄棒とかにもたれていたのか、
うろ覚えだけど、
二人で見つめあうような立ち位置になって
話始めたように記憶している。
「実はうち、
親が離婚することになって、
明後日引っ越しするんです。」
アヤ先輩にそう告げた。
先輩は、
そっかーさみしくなっちゃうなあ。
と言って空を見上げた。
転校先は共学なの?
と聞かれたので、
「そうです」
と答えると、
アヤ先輩は何故か、いじわるっぽい笑みを僕に向けた。
日が暮れかけてきたので、
僕はもうここしかチャンスはない!
そう思って、
勇気を振り絞ってこう告げた。
「アヤ先輩のこと、ずっと好きだったっす!」
先輩の顔をそっと見つめながら、
でも必死にそう伝えると、
アヤ先輩は、
あはっ!
とあのいつもの大きな笑顔を見せて、
軽く手を叩きながら
楽しそうにしていた。
「知ってたよ❤ありがと!」
そう言って、
僕の頭をぽんぽんと撫でてくれた。
バレていたのか。。。。
ばれないように必死に隠していたつもりでも、
思いはあふれ出てしまうもの。
染み出してしまうものだと悟った。
アヤ先輩にとっては、
かわいい弟みたいな犬みたいな存在だったと知っても、
手に届かない存在だと知っても、
初恋は玉砕するものだという
セオリー通りの結末になったとしても、
僕は想いを告げることができた達成感で紅潮していた。
その告白をした当時は、
もちろん性同一性障害なんて言葉はなかったし、
自分のセクシュアリティってなんだ?
ということも考えたことはなかった。
ただなんとなく、
自分はほかの女友達とは違う感覚を持っていて、
男友達ともうまく交われない変わった人間なんだ、
と思っていた。
好きになったのがアヤ先輩で、
アヤ先輩は自分と同じ女の体をしていて、
だから同性愛者になるのだろうかとか、
そういうことを考えたこともあったけど、
それもしっくりくるような回答ではなかった。
アヤ先輩は少し意味深なことも言った。
「たろーは、共学のほうがいいかもね」
それは僕の将来を見越しての発言だったのか、
それとも
僕の性指向が女性に向いていることへの危惧だったのかは
わからなかったけど、
結果、
共学の高校に転校したことは
僕の人生にとっては大きくプラスに働いた。
僕の初めて告白は見事に玉砕し、
カミングアウトと呼ぶには少し違うかもしれないけど、
中学生だった僕が
小さな頭で必死に考えて行動した結果だった。
勇気しか持っていなかった。
ありったけの勇気を、絞り出して告白した。
16歳の初夏。
少し汗ばむ季節に、
心地よい風が吹き抜けていった。
最後に
長文をお読みいただき、ありがとうございます。
この一連のカミングアウトが、
今まさに渦中にいる方のヒントになることを切に願いつつ、
この記事を終わりにしたいと思います。
▽新生光のカミングアウトシリーズ
最後までお読みいただき、ありがとうございます!何かピンときた方や、何らかの形でLGBTQの支援をしたい、ALLYになりたい!けど何をしたらいいかわからないという方はぜひサポートをお願いいたします!ALLYESの活動資金とさせていただきます🌈