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Googleの量子超越に関する一連の事象が映画「HELLO WORLD」とシンクロし過ぎてて鳥肌立った

(ネタバレあり)最初に断っておきますが、映画「HELLO WORLD」に出てくるのは「量子記録」「量子記憶装置」であって「量子コンピュータ」とは一言も言ってません。しかしそれは百も承知の上で、Googleの「量子超越」に関する一連の事象があまりに出来過ぎてて、しばし夢のような得難い体験をさせていただきましたので、ここに記録として残すことにします。

半分ネタ記事ですが、半分はマジです。

「Google」「量子コンピュータ」に反応してしまうハロワ脳

きっかけは2019年10月23日、仕事中にふと目にしたこの記事でした。

Googleの量子コンピュータ「シカモア」が量子超越(従来のコンピュータでは非常に長い時間がかかる計算を量子コンピュータが高速に実現すること)を達成したというニュース。

映画「HELLO WORLD」とは全然関係ないところから流れてきた情報ですが、「Google」「量子コンピュータ」というワードに思わずPluura(作品世界においてGoogleに相当する大企業)とその量子記憶装置「アルタラ」を思い浮かべてしまうくらいにはハロワ脳なので、アルタラ前夜か!としばらく興奮冷めやらぬ状態に。帰宅してもシカモアのことを調べてしまったりして、夜中に恒例の頭おかしいツイートを連発してしまいました。

翌24日になると大手ニュースサイトでも大きく取り上げる記事が増え、ついには「HELLO WORLD」の伊藤監督も反応(ちなみにこれで一応「作中の量子記録技術を量子コンピュータと結びつけるのはあながち間違いでもない」ということの公式なお墨付きが得られましたね)。

しかし、この後にあんな展開が待っているとは。この時は想像もしていなかったのです…。

Google CEOが発言した「あのワード」のすさまじい破壊力

その夜。まだまだ気になって量子超越の記事を読み漁っていた時にたまたま行き着いたこの記事

目に飛び込んできたこの部分に、セカイがひっくり返ったかのような衝撃を受けたのです。

ピチャイ最高経営責任者(CEO)は今回の結果について、最初の宇宙ロケットと比較できるほどだと評価し、「科学技術の世界で働くものにとって、待ち望んだ『ハロー、ワールド』の瞬間だ」と述べた。
——「米グーグル、「量子超越性」達成と発表 スパコン超える」、ロイター、2019年10月24日

…え。

えっ。

待ってくれ。

ハロー、ワールド…?

量子超越を達成したGoogleのピチャイCEOが。よりにもよって、

「ハローワールド」

だと…!?

このタイミングでこのワード!?

いや、まあ、情報科学分野では「Hello, world」というワードは特別な感慨をもたらすものであって、だからこそピチャイもこのタイミングで満を持してこう発言したのだろうし、映画「HELLO WORLD」もその文脈、このワードに一般的に込められるその想いを汲んだうえでのネーミングなのは承知なんですが。

それにしても、ですよ。ねえ。

(ちなみにこの時興奮して投げたこのツイートを、武井Pがいいねしてくださいました。本当に嬉しい↓)

ハロワのキーワードを幻視させられるCEOのブログ

この手の報道のウラを取るにはまず一次ソースを当たるのが鉄則です。ソースはロイター記事経由であっさり見つかりました。ピチャイCEO自身のブログです。一応Google翻訳へのリンクも貼っておきます。

件の発言はこの部分。

For those of us working in science and technology, it’s the “hello world” moment we’ve been waiting for—the most meaningful milestone to date in the quest to make quantum computing a reality.
—— "What our quantum computing milestone means" by Sundar Pichai

言ってます。ピチャイCEO、ハローワールドって言い切っちゃってます。

しかもこのブログ記事、読んでいくとハロワ脳がいちいちアラートを上げる項目が地雷のように埋め込まれています。

量子コンピューティングは「分子レベルで自然界を理解し、シミュレートする可能性を最大限に高めます」
(おいおい、それってもはやアルタラじゃないか)
「ロケット」「月・火星」を引き合いに出す
(直実の部屋のロケット、グッドデザインで作り出したジェットエンジン、そしてラストシーンを思い出してしまうじゃないか)
火事(カリフォルニアの山火事)がこの研究の大きな転機となった
(えええええ。火事が必要な工程だった、だと!?それって…)
ブログを「無限の可能性」というワードで締めくくる
(やっぱ無限にこだわりますか…!)

…いやいやネタ仕込みすぎだろ!!

伊藤監督のまさかのリプライ、そしてさらなるシンクロニシティ

あまりに興奮して、伊藤監督にこの「ハローワールド」の記事を伝えてしまいました。というかもう、伝えずにはいられなかった。

そうしたらなんと、伊藤監督からリプライが!!!!

ただでさえ量子記録ビットがループしてた自分の脳はもうこれで論理境界決壊ですよ。手が震えました。たった一言ですが、このリプライは宝物です。

ある意味、監督とPluuraはGoogleの一ヶ月先を行っていたってことで、これはこれですごいことだぞと思いながらも、やはり「一ヶ月遅かった」というそのお気持ちは大変良く分かる。いやほんと、もう少し早く発表してくれていればきっと…。

…ん? 待てよ? 読み漁った記事によれば、数週間前に噂が流れて業界で大騒ぎになったというじゃないか。

それって。もしかして。

2019年9月20日(現地時間)、イギリスのフィナンシャル・タイムズが、「Googleの研究チームが量子超越性(量子コンピューターが現在のノイマン式のコンピューターを超える能力を得たことを示す言葉)の実証に成功した可能性がある」と報じました。
——Engadget日本版「Googleの量子コンピューターが世界初の『量子超越性』の実証に成功か?

…9月20日。

そう。映画「HELLO WORLD」が封切られた日

…伊藤監督。まさに一ヶ月前、「HELLO WORLD」と完全に同じタイミングでこのニュースが世に出ていたっていうことになりませんか、これ。

2つの独立事象が同じ日に起こる確率は1/365。なにこのシンクロニシティ。出来すぎだ。

実はGoogleとのシークレットコラボなんじゃないか。

いや、あるいはGoogleの中の人は事前に映画「HELLO WORLD」を見てたんじゃないか。しかし論文のエンバーゴのためにまだ正式に公表できないから、せめて封切日に情報をNASAのサイトにこっそり出して応援の意を示したんじゃないか。そしてようやく論文が掲載されて満を持しての「ハローワールド」発言なのでは。

…とかもう完全に暴走したツイートをその後垂れ流してしまいましたが、もうシンクロしすぎて最後は怖かったですね。

徹底的に作り込まれた「大いなるハッタリ」に現実が追い付こうとする

さてここで少し冷静になってみますと、「HELLO WORLD」という作品において、「量子記憶装置アルタラ」は作中最大の嘘、大いなるハッタリなわけです。「量子記録」という技術は結局多くを語られていません。というか、あえて語らないというスタンス。

しかしその大いなるハッタリの周りが、周到な技術考証によってガチガチに固められているのが本作品です。アルタラ以外の世界設定は、技術水準から街の風景にいたるまで徹底的に現実に寄せて作られています。例えば道路の自動運転専用レーン表示や、Wizの画面設計で想定されている2027年当時のプライバシーの観念など、陽に語られていない部分まで含めて徹底的に作り込まれています(この「世界の作り込み」によって生まれるリアリティとメタ構造については以前この辺に書きました)。これが、ただの嘘に、現実世界とのリンクを与える——まさに「嘘から出たまこと」。古今東西、優れたSF作品は少なからずこの性質を持っています。

「HELLO WORLD」原作本において、直実はSFの醍醐味をこう定義します。

SFのFはフィクションですけど、Sのサイエンスが、現実と繋がってる
——野﨑まど『HELLO WORLD』p.157

良いSFにおいては、フィクション、すなわち大いなる嘘は、周到に作り込まれたサイエンス(あるいはテクノロジー)の力によって現実世界にリンクされるんです。

量子記憶装置アルタラも、その原理は全くわからないにしろ、Googleなどの量子コンピュータとのアナロジーで考えると、絶妙な技術考証のもとに描かれているように思えます。それによって、架空のはずのアルタラの存在が一気にこの現実世界に引き寄せられる。

たとえば映画の終盤、「開闢」によりアルタラ本体が消えてしまったアルタラルームのシーン。千古教授の吐く息が白いのに気付きましたか? 一般的な量子コンピュータは量子ビットを閉じ込めるために絶対零度近くまでの冷却が必須であり、Googleの量子コンピュータも20mK(ミリケルビン)という極低温まで冷却されていると論文には書かれています。アルタラも同様に冷却装置が必要で、冷却対象であるアルタラを失った冷却装置が代わりにガンガンに部屋の空気を冷やしていたのかもしれません(あるいは、アルタラの消失によってアルタラと同体積の真空が生じ、周囲の空気が断熱膨張して部屋の温度が急激に下がったことを示しているのかも、とも考えてます。雲の発生やエアコンと同じ原理です)。

また、量子コンピュータは原理的に誤りが起きやすく、発生する誤りを訂正しながら計算を続ける「量子誤り訂正」技術をいかに実現するかが鍵となっています(冷やすのも、熱によるノイズから生じる誤りを抑えるため)。これはまさに自動修復システム、すなわち狐面の機能に完全に一致します。誤りを訂正し続ける狐面はまさにアルタラにとって本質的に不可欠な存在なのです。そして、もしかするとグッドデザインはその隙をついて「望みの誤りを作り出す」装置と言えるかもしれません(おまけ:グッドデザインの考察はこちら)。

さらに今回Googleが量子超越を達成した量子コンピュータは53量子ビット。これは2の53乗(およそ10の16乗)の状態数を表せることを意味します。Google CEOのブログでは、333量子ビットあれば10の100乗(英語でGoogol。Googleの社名の由来)の状態数を表せると論じています。これは観測可能な全宇宙の原子の数(約10の80乗)を軽く凌駕します。つまり、全宇宙の原子の状態を記録すること、すなわちこの世界の完全な複写を作り出すこともそう遠い話ではないかもという気になってしまいます。ちなみに諸説ありますが、量子ビット数が4年で2倍になるという(かなりコンサバな)予測にもとづけば、2020年代前半には100量子ビット、2030年代半ばには1000量子ビットが実現できるだろうと予測されています(たとえばこの辺)。もちろん、1000量子ビットで現実世界が不確定性原理を無視して十分に複写できるかどうかはこれまたハッタリの範疇になるわけですが、少なくとも「なんか今の世界の延長線上にこんな世界が来そう」感は味わえるのではないでしょうか。

つまり、「大いなるハッタリ」の周辺設定を現実に寄せて作り込むことで、作品世界が傍目には揺るぎなく思えてしまうような、そんな世界設定を作り出すことに「HELLO WORLD」は成功しているといえます。フィクション(F)をサイエンス(S)で現実にリンクさせるお手本みたいな作品です。

そして、この営みがまさに、今回の一連のシンクロニシティを生んだのではないでしょうか。決してこれは奇跡でも偶然でもなく、フィクションを現実にリンクさせる努力による必然。フィクションの周囲を徹底して現実世界に寄せた作品だからこそ、現実世界がフィクションに追い付いてきたように思えてしまうのだと思います。

量子超越のニュースがもたらす「作品世界のエキストラ」感

鴨川の河川敷。直実のSFへの思いは続きます。

「物語なのに、普通の世界の延長にあるんです。そう思うと、この世界も、なんだか小説の一部みたいに思えて。自分も、物語の中の人になれたような気がして」
——野﨑まど『HELLO WORLD』pp.157-158

フィクションがサイエンスの力によって現実世界にリンクすると、作品世界が決して夢物語ではなく、確かにこの世界の延長に存在しうる世界として感じ取れるようになる。直実にとって、(そして自分にとっても、)それこそがSFを愛する理由。

まさにそれを「体感」させてくれたのが、今回の一連のニュースなのだと思っています。

アルタラというハッタリが、周到な科学技術考証、そしてさらにGoogleのニュースの力をも借りて、現実世界とリンクする。それによって作品世界に現実世界が追随する。そのとき一瞬、作品世界にいま自分がいるような感覚にとらわれませんでしたか?

Googleの量子超越の記事の向こうに、2020年に京都の空にドローンが浮かび、2021年に第1回宇治川花火大会が復活していく未来が垣間見えませんでしたか? もしかしてハロワ世界のほうが現実で、僕らのいるこの世界はその8年前の記録データなのではないかという気すらしてきませんか? 

あるいは、ハロワ世界の8年前を描いたスピンオフがあって、自分はいまエキストラとしてそこに参加しているのかもしれない。「量子コンピュータのニュースに興奮して思わずnoteに記事を書くヤバいオタクのカット」みたいな感じで…。

まるで自分がハロワ世界の中の人になれたかのような、そんな高揚感を一瞬味わわせてくれたGoogle量子超越のニュース。真に優れた作品は、たまに奇跡としか思えないような現実とのシンクロニシティがあったりするけれど、今回はその一例を垣間見た気がします。最高のSF体験でした。そして、この夢のような体験にはからずも飛び入り参加してくださった伊藤監督と武井P。この「SF冒険小説」をこのお二人と共有できたというサプライズに、本当に涙が出そうです。心から謝意を。(あとGoogleにも謝意をw)

(後日談)10月26日。

なんと。

伊藤監督が。

GoogleのピチャイCEOに。

リプライを送っておられたんです。しかもピチャイの例の量子超越のブログを紹介するツイートに対して。また泣きそうになりました。

「偶然にも、私の最新のアニメ映画「HELLO WORLD」で、このような同じ量子コンピュータをフィーチャーしています!!」

これで円環は閉じられた。「HELLO WORLD」の世界にGoogleが追い付き、そして逆に伊藤監督がピチャイへメッセージを投げかけることで、完全な円環構造が完成した。

自分のツイートがきっかけになったかも知れない、なんていう考えは、おこがましいとは思います。
でも。

優れたフィクションは、現実世界さえ変えていく。
背伸びして見えたその先へ僕らを連れて行く。

こんな夢みたいな「SF体験」をさせてくれた映画「HELLO WORLD」にはただただありがとうと言うしかないのです。

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(注1)量子コンピューティングの正しい知識をお持ちの方々へ。本稿の著者は量子コンピュータについては全くの専門外です。作中の量子記録技術と量子記憶装置「アルタラ」については、科学的におかしな記述があってもハッタリということでご容赦願えればと思いますが(笑)、現実世界の量子コンピューティング技術とGoogleの量子コンピュータ「シカモア」については、もし誤解や不正確な記述があれば「誤り訂正」いたしますのでご指摘下さい。
(注2)この考察はあくまで(自分なりに納得できる)解釈の一例であり、異なる解釈を排除したり反論する意図は全くありません。また、今後考察を深めていく過程でこの考察がひっくり返る可能性は十分にありますので、何卒ご承知置き下さい。
 本作の制作陣がこの作品に自由な解釈の余地を意図的に残している以上、観客の数だけ「ALL TALE(すべての物語)」が存在し、それらはすべて肯定されている、それぞれがこの作品世界において「観たい物語」を紡ぐことができる—「HELLO WORLD」は、そんな作品だと思っています。

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よろしければこちらもどうぞ:考察はここ、ストリートビュー聖地巡礼はここにまとめています。



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