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何度でも何度でも書き殴ったnoteのページめくって——#noteでよかったこと

映画『HELLO WORLD』に関する記事の置き場として、noteを選びました。2019年も暮れようとする今、なぜnoteを選んだのか、noteを選んだ結果どうだったか、について、当時の心境を交えて少し振り返っておこうと思います。

今思えば、映画『HELLO WORLD』で一番驚いたのは、映画そのものよりもむしろ自分自身の変化に対してだったかも知れません。とにかく頭の中に言葉が湧き上がってきて止まらない。このあふれ出すよくわからない感情をどこかに書き留めずにはいられない。それは感想だったり考察だったり調べたことだったり昔の思い出だったりしますが、書いたものを誰かに読んでもらいたいというよりは、むしろ誰にも読まれなくとも今のこの高揚感のスナップショットを記録しておきたいという気持ちの方が強かった気がします。

それで、最初は5ちゃんねるのスレッド(2つある)にそれを垂れ流していたのですが(SNSがなかった頃の世代の習性ですかね)、お約束通り次第に殺伐としてきたのと、断片的に同じ事を何度も繰り返し書き込んで埋もれていくのも微妙な気がしたので、心機一転、ネット上にある程度まとまった形で文章を残せるサービスを利用することに決めました。ローカル環境ではなくインターネット上に残そうと思ったのは、自分の書き込みをきっかけに他の方の面白い考察が誘発されるケースが意外と散見されたことと、文章の内容はともかくこれほど『HELLO WORLD』に心動かされた(ほとんど発狂といってよい)人間が存在したのだという事実をネット上に残すことによって、いつの日か誰かの何かの足しとかそういうものになればというよくわからない思い上がった下心からです。

プラットフォームを決めるに当たって重視したのが、

・無料であること
・最低限の個人情報の提供で開始できること
・執筆および管理が簡単であること
・文章の簡単なマークアップが使えること
・そこそこ大手のサービスであり、安定していること
・それでいてGoogleやMicrosoftなどの既存のアカウントとできるだけ紐付かないこと
・できるだけ広告がつかないこと
・誰でも閲覧できること
・できるだけ長い間サービスが存続しそうなこと

という点でした。まず、とにかく金銭的・作業的な初期投資は最小限にしたい、投資に見合うほどの内容を書くわけではない、という思いが強くありました。これは旅行でホテルを選ぶ際の「とにかく一晩寝られれば十分」という感覚に近い。とにかくテキストが置ければ十分。これで、サーバを借りてWordPressなどの「しんどい」選択肢は消えました。それから最後の項目は、今まで永遠に残ると思ってきた@niftyが消え、Yahoo!ジオシティーズが消え、Yahoo!ブログまでが消えて、平成ネット史を形成してきた膨大な量の情報資産が自然消滅したことへの悔しさによるものです(まさにネット上のクロニクル事業とも言えるWayback Machineなどもあるが完全ではない)。インターネットはかつて僕らが夢見たような人類の知識を集積し続ける有機的な図書館のようなものでは全くなく、実際にはずっと短命で刹那的で、SEO競争にあぶれたり母体のサービスが終了したサイトはどんどん「なかったことになっていく」のだと気付いた時には遅すぎました。大手IT企業が事業の一つとして展開するような無料ブログサービスの多くは、今後いつ終わってもおかしくない危うさを秘めていました。これらは自分の「記録したい」という目的にそぐわないものでした。

残ったのが「はてなブログ」と「note」でした。どちらも比較的「書くこと」を大事にする姿勢。技術面の手厚さ。(今のところは)それが主力事業であり、簡単にはサービスを終了しなさそうな雰囲気(はてなはダイアリーは廃止したけど、はてなブログに自動移行された)。

はてなは昔ちょっと使ったこともあって使い勝手の良さは良くわかっていたのですが、ちょうど立て続けに面白い記事をnoteで読んだばかりのこともあって、全く縁のなかったnoteに興味を持ちました。調べてみると、特に不満を覚えそうなところが見あたりません。マークアップははてなよりシンプルだけど今回の用途には充分。そして、『HELLO WORLD』でも何かとフィーチャーされている早川書房さんがnote上でオウンドメディアを開設し活発に発信されていることも、ハヤカワSF好きにはグッと来るものがありました。

そして最後の一押しは "note" というそのサービス名。『HELLO WORLD』のキーモチーフがまさに「ノート」でした。オープニングタイトルはノートの罫線に書かれ、この電子時代に主人公の直実は読書ノートに書評を、先生はLogicalAirのノートに最強マニュアルを書き綴る。劇中、世界が変わる場面でも2度、まっさらなノートが象徴的に描かれる。主題歌「新世界」のサビもノートがメインモチーフ。何より本作において「記述する」という行為自体が物語そのものであり人生の暗喩であることは、ビジュアルガイドの野﨑まど先生の「手書きの」寄稿からもうかがえます。まっさらなページに新しい世界を書き込んでいく直実のように、自分もこの思いのたけを "note" に書き綴っていこう、まずは最初の一行を書き記そう。たとえ誰も読まなくても記録の座としてこのnoteという名前はふさわしい。そう思ってアカウントを開設し、勢いのままに記事を書いたのが2019年の10月半ば。最初に映画を観てからおよそ3週間が経っていました。

それ以降、十数本の記事を書き殴ってきましたが、noteを選んだのは正解だったと思っています。上述の条件をすべて満たしていること。マークアップにストレスを感じないこと。くだらない記事を書いてもなんだか見た目が良く見えること。すごく面白い記事がたくさん流れてくること。noteのアカウントの有無にかかわらず誰でも匿名で「イイネ」を押せること(これ、やっぱり地味にすごく嬉しいのです)。特色の一つであるクリエイター支援機能については自分は特に使っていないのですが、たとえ自分のようなクリエイター気質があまりなくて単なるブログ代わりに使っているような人間にとっても、書く側の姿勢を大事にしてくれている雰囲気をとても感じます。

そして、noteを始めてみて一番嬉しかった出来事は、なんといっても2019年10月末。『HELLO WORLD』公式が野﨑まど先生の書き下ろし後日談『遥か先』の掲載場所として選んでくださったのが、このnoteだったという衝撃的なサプライズです!

わざわざこの書き下ろしのために、映画公式がnoteにアカウントを作ってくださったとは。そして今、自分と同じプラットフォーム上に、野﨑先生の原稿が載っているという、その興奮。…はい、プラットフォームの一致はきっとただの偶然に過ぎません。いやそもそも、以前からハヤカワ書房さんがよく書籍の一部をnoteで公開しておられるように、小説の無料公開に適したメディアであるのは確かだし、『HELLO WORLD』関連書籍を一手に刊行する集英社さんもちょうどこの10月に公式noteを開始されたばかりのようなので、こういった出版社さん達の活動からのなにがしかのヒントもあったのかもしれません。しかしですよ、自分がnoteに記事を書き始めたわずか半月後に、同じnoteに公式原稿が載るなんて、こんな僥倖があって良いのだろうか。noteで良かったとこれほどまでに思ったことはありません。noteのマークアップのやり方を知っているだけに、この原稿が入力された過程(恐らく野﨑先生ご自身が入力されたわけではないと思いますが、武井Pが手ずから入力された可能性はある…)を想像して、この世界の秘密をちょっと知ってしまったような気になる。同じnote使いであるというだけで、なんだか同じ帰属意識を持つ運命共同体のような幻想すら抱いてしまう。

そう、note使いは皆、同じプラットフォームという船に乗り合わせた運命共同体なんだと思う。それは『HELLO WORLD』公式だけでなく、出会った他のクリエイターさん達の記事にも感じることです。あえてnoteを選んだコンテンツの持つ、独特の雰囲気(はてなにもちょっと違った形でありましたが)。とにかく書くことが純粋に好きという匂い。誰かに届けという想い。統一されたデザインから醸し出されるゆるい連帯感と、だからこそ文章だけで独自色を打ち出していこうという気概との共存。だから先日noteがnote.muからnote.comにドメイン移行した時にはドキドキしながら『遥か先』も無事に移行完了したのを確認してしまいましたし、またもしいつかnoteがサービスを終了する時がくるとすれば、それは自分のnoteが消える日であると同時に、『遥か先』が消滅する日でもあるのです。そしてnoteを通じて自分が出会うことのできた、『HELLO WORLD』とは関係ないたくさんの素敵なコンテンツが消えてなくなる日でもあるのです。自分の記事はともかく、『遥か先』の記録、たくさんの珠玉のコンテンツをこの世界にとどめおくためにも、noteには可能な限り記事の保全だけは継続していってほしいと心から願います。たとえいつかサービスを終了し新たな記事の執筆ができなくなるとしても、です。(ちなみに東宝さんには、もし仮に『遥か先』をDVDの特典にすることがあったとしても、できればnoteの記事は消さないでいただきたい。これは特典として限られた人間にとどめるにはあまりにもったいない)

『HELLO WORLD』については、ありがたいことにまだまだ書きたいことは山ほどあります。多分いつかは途切れる日も来ると思いますが、それまでは何度でも何度でもこのnoteに書き殴っていこうと思っています。そして、日々流れてくるnoteの記事を通じてこれからも訪れるであろう、まだ見ぬ全く新しい世界との出会いが、より一層楽しみでなりません。

何度でも何度でも 書き殴ったノートのページめくって
まっさらなところへ 書き出した 僕らの 新しい世界
いつか君にも 届いてくれるよう 願いを 込めよう
——OKAMOTO'S『新世界』(映画『HELLO WORLD』主題歌)

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