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トヨザキ社長に質問し倒して教えてもらったオススメ本17選~ALL REVIEWS友の会会員の質問に答えて~

ALL REVIEWS友の会では、毎月、書評家の豊崎由美さんをパーソナリティに、月替わりのゲストとともにフィクションの『必読の一冊』を読み解いています。2020年3月の回は、新型コロナの影響で、ゲストを招いて友の会会員の前で公開対談という通常開催が難しく、友の会会員が質問を事前に送付し、豊崎さんがそれに答えるという形の『トヨザキ社長に質問し倒す会』となり、3月27日、YouTube生中継で開催しました。
その中で、豊崎さんが具体的なタイトルを挙げた本をご紹介します。書評家豊崎由美でなくては思いつかない、魅力的な本ばかりです。
この記事を書いている2020年5月現在、緊急事態宣言が延長され、読書する体力や気力もない方も多いと思います。書店や古書店・図書館が再開し、心とお財布に余裕ができた時の読書の指針として、ご参考にしてください。

① デビッド・ロッシ 『小説の技巧』

「手元に置いて読み返す本は?」という質問の回答。豊崎さんがライターとして間違ってないかということを確認するために取り出す本。「書き出し」、「コミックノベル」、「信用できない語り手」などについて、カズオ・イシグロなどの例をあげ解説している、大学の教科書にもなる本。

②藤野可織 『ピエタとトランジ』

「イチオシの若手作家は?」という質問に対し、大前粟生さん、乗代雄介さん、石川宗生さん、河﨑秋子さん、金子薫さんの名前を挙げたあと、「キャリアが浅くなくても新人っぽい小説を書く人も好き」といって挙げたのが藤野可織さん。最新作の『ピエタとトランジ』は、若いころのことしか書かない多くの女性のバディものとは異なり、80歳を過ぎてもバディであり続ける二人を描いた小説で、そこはかとなく新人っぽい。これはもちろん褒め言葉です。

③ 藤野可織 『いやしい鳥』

豊崎さんは改めて、藤野可織のデビュー作を読み直し、「とても新人っぽい小説」と感じたそうです。もちろん、これも褒め言葉です。

④中島京子 『宇宙エンジン』

「この書き出しがすごい、と思った書評を教えてください」という質問に対し、そんなの覚えていないという豊崎さん。でも、自分の書評の書き出しで覚えているのが「私、『あさま』と同期なんです」。何のこと、と思われますが、年下の友人が、自分が「あさま山荘事件」の年に生まれたことを、こう表現したのが印象的で、書評の書き出しで使ったとのこと。ちなみにその書評は中嶋京子『宇宙エンジン』の書評。

⑤大童 澄瞳 『映像研には手を出すな!』

「アニメ『映像研には手を出すな!』が好きとつぶやかれてましたが、3人のヒロインのうち誰が好きですか?」という質問。「『映像研には手を出すな!』はいい、マンガもKindleにダウンロードしたが、アニメも好きなので、アニメで放送したところまでしかマンガは読まない」というくらい、アニメもマンガもお気に入りの豊崎さん。質問者が金森氏推しということを受け、「金森氏はとにかく尊敬するばかり。クリエーターの願望と世間の人たちの欲望を上手にすり合わせて、ちゃんとお金を生むコンテンツを作り上げる」と金森氏を絶賛。でも一方で、金森氏が輝くのは浅草氏や水崎氏あってこそと。3人の中で、水崎氏は、豊崎さんにとって、「持っているものが多い」。才能もあり、ルックスがよくお金持ちと「ちょっと持ち過ぎ」。3人の中では金森氏と浅草氏がお好きだそうです。

⑥コニー・ウィリス 『ドゥームズデイ・ブック』

「疫病の不安が高まる時代に、皆さんに読んで欲しい本はなんですか?」という質問の答え。21世紀の半ば、タイムマシンが発明された英国で、主人公はペストが猛威を振るう14世紀にタイムトラベルするが…という話。豊崎さんによると①の『小説の技巧』も踏まえた傑作

⑦コニー・ウィリス『航路』

⑤の『ドゥームズデイ・ブック』が気に入ったら、ぜひ同じ作者の『航路』も読んで欲しい。コニー・ウィリスの本は読後感も良いそうです。

⑧ パスカル・キニャール『辺境の館』

「実際に旅して一番よかった小説の舞台を教えてください。」という質問への答え。『辺境の館』の舞台フロンテイラ邸は、本当に辺境にあり、『地球の歩き方』にも出てないようなところなので、行きつくのが大変だったそう。豊崎社長は旅の模様を過去にツイートしています。


⑨アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ『ボマルツォの怪物』

もう一作、小説の舞台を訪問した話。豊崎社長は1980年代の「サブカル糞野郎」(ご本人談)で、必ず「澁澤龍彦」を通った世代。作品の舞台『ボマルツォの怪物公園』は16世紀に建造されたあと、忘れられ、20世紀半ばに再発見され、観光地として整備された場所。こちらはフロンテイラ邸と違い、観光地なので行きやすいそう。奇妙な彫刻にあふれた公園、豊崎さんは2時間いても飽きず、一緒にいった友達はずっと怒りながら待っていたそうです。豊崎社長、良いお友達に恵まれてらっしゃる!

(追記:豊崎社長が旅の模様をツイートされてます)


➉チョ・ナムジュ 『82年生まれ、キム・ジヨン』

⑪ラッタウット・ラープチャルーンサップ 『観光』

「韓国文学が流行しましたが、次に何が来ると予想されますか?」という質問に対し、「そんなことがわかったら、書評家なんかしてません。」といったあと、韓国文学が流行した背景として、斎藤真理子という、仕事量の多い素晴らしい翻訳者がいたこと、『82年生まれ、キム・ジヨン』がベストセラーとなったことを語られました。
そして「次に何が来るかはわからないけど、東南アジアやインド、中近東にも多くの作家がいる。日本人はアジアに対して差別的であり、かつ、どうしても、英語の翻訳者が多いから、英語の作品に光があたってしまうけど」と印象に残った東南アジア系の作家として挙げたのがラッタウット・ラープチャルーンサップ。『観光』は古屋美登里が翻訳しています。

⑫グリム童話

「今、時間がいっぱいある小学生・中学生・高校生・大学生へ、この本を読んでおくといいよ!という文芸作品を知りたいです」という質問に対して、「子どもに本を薦めるのは難しい。子どもは大人に対して「けっ」という気持ちをもっており、その子がどのような子であるか、個別に薦めることしかできない」とのこと。ちなみにご自身が初めて読んだ本は、お姉さまの持っていた、『グリム童話』で、残酷な描写も書かれたもの。中でもお気に入りは『怖いことを習いに行った男の話』。グリム童話には社長の好きな小説の三つの要素「驚き・笑い・恐怖」がすべて入っています。
なお、高校生・大学生には「岩波文庫をかたっぱしから読む」ことを薦めるそうです。いや、これは良いアドバイス!

⑬赤瀬川原平『ゼロ発信』

オススメの日記文学」に対する答え。豊崎さんの書評がALL REVIEWSにも入っています。

⑭アストリッド・リンドグレーン『長くつ下のピッピ』

⑮アストリッド・リンドグレーン『やかまし村の子どもたち』

⑯アストリッド・リンドグレーン『名探偵カッレくん』

「子ども頃の書店の思い出」という問いに対し、図書館で借りまくっていた子ども時代を語った豊崎さん。思い出の本として挙げたのがリンドグレーンの作品。意外に(?)可愛かった豊崎さんの子ども時代が浮かびます。

⑰イジー ・クラトフヴィル『約束』

「お勧めのチェコ文学」との問いに、「やはり阿部賢一さん翻訳のもの」と即答した豊崎さん。豊崎さんは、阿部先生がチェコでサバティカルを過ごされている間、阿部さんの案内によるチェコ旅行という夢のような一週間を過ごされたそうです。『約束』の舞台である都市ブルノを『約束』を読む前に訪れた豊崎さん。舞台の地下空間にも行かれたそうですが、「できれば『約束』を読んだ後に行きたかった」そうです。

【この記事を書いた人】くるくる

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