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【気管支喘息】ー薬剤師が3剤配合吸入薬を一覧で紐解く

いつき博士です。
アレルギー患者教育向けサイト
を運営しています。

喘息治療における吸入薬の活躍ぶりは
ここで議論するまでもないくらい
日々実感されているのではないでしょうか。

吸入ステロイドが発売されてから
喘息の死亡者が
年間1万人から2千人以下に激減しています。

最近はアドヒアランスが重視され
現在、3剤配合吸入剤が注目されております。

先日の呼吸器学会の演題でも取り上げられ
製薬会社のPRも増えている現状です。

早速、勉強していきましょう!


0.そもそも喘息治療とは?

喘息の病態の基本は
気道の炎症がもたらす
気道の狭窄過敏性の亢進です。

気道の炎症と狭窄に対して治療の主体は
①抗炎症②気管支拡張 となります。

炎症を抑えるステロイド剤は効果的で
 局所に届けられる吸入薬は喘息治療の基本です。

気管支拡張にはβ2刺激剤が使用されます。
 短時間で効果を示すメプチン®︎
 発作時に使用できるアイテムとして 
 患者さんの安心にも貢献しています。

①+②両方を兼ね備えた
シムビコート®︎、アドエア®︎、レルベア®︎
などもよく使用されていますね。

吸入薬の分類一覧

上記薬剤を使用してもよくならない方に
近年、更なる気管支収縮抑制作用を期待して
抗コリン薬の追加が検討されます。

今回は一つの吸入器デバイス
利便性を高めることを実現させた
3剤合剤について解説していきます。

1.現在販売されている3剤合剤

2024年1月時点で3社から販売されている
3剤合剤について以下にまとめました。

3剤合剤吸入薬一覧

喘息に適応があるのは
テリルジーとエナジアの
2剤のみです。

ビレーズトリは
なぜ喘息の適応を取っていないのか?
疑問に思いますね。

2.有効成分の違い

各成分ごとに
比較していきましょう。


2-1.(ICS)ステロイドの強さの差は?

一般的にステロイドの強さは
グルココルチコイドの親和性
で評価されることもあります。

下記試験データでは
FF>MF>BUDの順に
強いと報告されていることから
テリルジーが優位と考えられます。

ヒト肺組織のサイトゾル分画を用いた結合試験より算出された相対的親和性(PMID:18782107)

好酸球数が高い、呼気NOの値が高いなど
炎症が強い場合にはテリルジー®︎の
効果が期待できるかもしれませんね。


2-2.(LABA)気管支拡張の早さと長さ

気管支拡張の早さは
ホルモテロール>インダカテロール>ビランテロール
の順と考えられます。(IF参照)

ホルモテロールを含むシムビコート®︎は
気管支拡張までのスピードが早く
発作時にも効果が期待できます。
(※SMART療法)

インダカテロールビランテロール
長時間作用が持続するため
1日1回投与で持続的な効果が期待できます。

LABAのβ受容体(R)選択性一覧

β2Rへの選択性はビランテロールが最も高く
β1Rへの作用を避けたい心不全患者さん等には
テリルジーが使いやすいかもしれませんね。


2-3.(LAMA)特徴

LAMAが作用する
ムスカリン受容体(MR)には
数種類のサブタイプが存在します。

M1:主に神経系に分布
M2:主に心臓に分布
M3:主に平滑筋に分布

ウメクリジニウム、グリコピロニウムともに
気管支平滑筋のM3Rへの選択性が高く、
持続時間が長い
です。

脳や心臓への負担は比較的少ないですが、
前立腺肥大症閉塞隅角緑内障など
平滑筋に対する抗コリン作用が好ましくない方
には使用禁忌となっています。


3.剤形/デバイスの違いについて

アドヒアランスに影響を与える因子として
用法がよく取り上げられますが
吸入薬の場合はデバイスも影響します。

<デバイスの紹介Blogはこちら>

3剤合剤吸入薬デバイスの特徴一覧

ブリーズヘラーは
カプセル埋め込み式で
使い方が難しそうですね。

薬剤師として
吸入指導に苦労するポイントです。


4.安全性の違い

添付文書に記載のある1%以上の有害事象です。

テリルジー:口腔咽頭カンジダ症
ビレーズトリ:口腔咽頭カンジダ、発声障害、筋攣縮
エナジア:発声障害

類似の薬で比較した場合
テリルジー®︎はステロイド親和性の強さや
吸入薬に含まれる乳糖の物理的刺激などで
他剤に比べ、口腔咽頭カンジダ症が多そうですね。

ここは臨床の現場に立たれている
先生方にも聞いてみたいところ。

ICSの強さを問わずステロイドが原因となる
有害事象が報告されているため、
吸入後のうがい指導が重要となります。


5.いつき博士の考察

3つの3剤合剤の吸入薬を
成分やデバイスごとに整理してみました。

各吸入薬ごとの直接比較のデータはありませんので
一概にどれが良くて、どれが悪いということは
現段階では言えません。

ただ、各成分ごとのデータや
デバイスによる使い分けの差を見ると
リスクベネフィットの差が見えてきますね。

喘息で使えるのか?
炎症マーカーが高いのか?
デバイスがちゃんと使えるのか?
1日1回が良いのか?2回が良いのか?
患者さんを見極める必要があります。

あとは臨床の現場に立たれている先生方の所感を
色々と聞いてみたいところですね。

3剤配合吸入剤のエビデンスは
これからどんどん集まると思うので、
引き続き注目していきます!

<参考文献>
各種薬剤のインタビューフォーム
医学のあゆみ Vol261 No.3 2017 喘息・COPD吸入治療の新しい展開
薬っぽいイラスト