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深夜3時、痴女に襲われた話

あれは4年前の夏、大学2年のときの話だ。

苦学生な僕はバイトに明け暮れていた。飲み屋のスタッフとしても夜遅くまで働いていた。必死に頑張っていたのでお客さんからも可愛がってもらっていたのだと思う。なのでお酒をご馳走になることもわりとあった。非常にうれしいことで、日々のバイトをこなすモチベーションとなった。しかし、1つ問題があった。

僕はお酒がほとんど飲めない。

中グラスのビールを三分の一飲んだだけで顔が真っ赤になり、ふらふらし、そして急激な睡魔に襲われる。かなり弱いのだと思う。それは熟知していたし、普段は一切アルコールは飲まない。だが可愛がってくれるお客さんから「がんばってるな!1杯奢ったる!」と笑顔で言ってくれたら、僕もそれに応えたい。

いつもは1杯、かなり薄めの麦の水割りや、小さいグラスでビールを飲んでいた。それでもかなりきついのではあるが、なんとか業務をこなしていた。ただ、毎回なんとかなるわけではない。

その日はお祝い事でシャンパンが何本もでた。そしてもれなく僕も頂いた。ご存じだろうか?シャンパンというものはかなり酔いやすい。そして悪酔いもする。その日だけではないが、こうゆう日は大変だ。なんとか営業が終わり、帰り支度をした。

片付け中もひたすら水を飲んで、吐いて、の繰り返しだった。それでもなかなか体調は戻らない。頭は痛いし、吐き気はすごい、ふらふらするし、気分は最悪だった。そして、あの出来事が起こったのだ…

普段は自転車を使うが、その日は雨で歩いてバイト先まで行った。もちろん帰りも歩きだ。雨は止んでいたが、気分も悪いし、ついでに自宅まで30分近く歩かねばならない。かなりしんどかった。

道中で何度も吐き気を催したが、バイトでそういったものを処理することも多いので、その辺の道端にまき散らしたくなかった。なので帰る途中の公衆便所まで必死に我慢しなんとかたどり着いた。そして盛大に吐いて休憩していた。事件はここからだ…

朦朧とした意識の中、女性のこんな声が聞こえてきた

「ち○ち○舐めたい……ち○ち○舐めたい………」

……………え?
な、なに?え?どっから声が?え?

めちゃめちゃ動揺した。かなり意識は朦朧としていて、下手したらトイレで寝る一歩手前だったが、びっくりして徐々に意識が戻ってきた。動揺している間も女性の声は聞こえてくる。内心聞き間違いか何かだろう、と思ったが残念ながらそれは違った。さっきのセリフに加えてめっちゃ喘いでる…

………やばい人がいるな…本当にこういう人いるんだ……

素直な意見である。残念ながらこの声に惹かれるほど猿な僕ではなく、そもそも酔っ払いで気分がすこぶる悪いので、関わりたくなかった。

……めんどくさくなる前に帰ろう。

重い腰を上げて、洗面所で顔と手を洗った。流石に吐いたまま歩きたくはない。その時だ。…女子トイレの方から視線を感じた。内心やばいなと思いつつ、顔を洗いながら女子トイレにさりげなく視線を送った。………足が見えた…しかもめっちゃうろうろしている。いかにも行こうか行かないか迷っている足の動き方だった。

……これは本当にまずい。

ロックオンされている。とっさにそう思ったので、早く行こうと思った。公衆便所を出ていくその時、その女性が目の前に来た。

「あの…さっきの声、聞こえていましたか…?」

心臓が口から飛び出るかと思った。やばいやばいやばいやばい…本当にこれはやばい。

いや…なんも聞こえてないんで、大丈夫です…

そう言って足早に脇をすり抜けた。早く帰ろう、早く…もうそれしか頭になかった。その時だ。後ろから走ってきたさっきの女性に股間をおもっきり鷲掴みされた…

えええええええええええええええええええええええええええぇええぇぇぇぇえぇえええぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇええぇえぇあああああああああああああああああぁぁぁぁぁああぁあぁああぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁ!?!?!?!!?!?!!????

本当に何が起きたか分からなかった。でも、女性の手が僕の股間をしっかり握っているのだ。

え、え、えっ!!!ちょ、ちょっと!!!待って!なに!なに!?!?

握られた手を外そうとしたが、全っっっ然、離れない。というかどんどん握る手に力が籠められる。

い、痛い痛い痛い!!ちょっと待って!お願い!!

そこで女性がハッ、として握る手が少し弱まった(しかし股間から手は離れない。)。た、助かったぁと思い(助かってはいない。)ながら、とにかく今の状況をがんばって把握した。

女性は今、僕の股間をしっかりと鷲掴みにしている。そして片方の空いた腕は僕の太ももにしっかりを、離さんぞと言わんばかりにしがみ付いている。対して僕は、股間を握られてビビッて及び腰、そして足をロックされていて動けない。そして心臓が口から出そう。

「ち○ち○舐めたいんだけど、だめですか?」

めっちゃ食い気味にこんな質問をされる僕。もちろん駄目。じゃあさっさと逃げろよ、と皆さん思うでしょう。この話を友達にしたときも、はよ逃げればよかったのに、って言われた。だがよく考えてほしい。この状況、めちゃくちゃ怖いのだ。

足は震えるし、動揺して冷静な判断はできない。おまけに酔って気分も悪いから普段みたいに走ったり出来ないのだ。そしてなにより、抵抗したら何をされるか怖くてなにも出来ない。これが逃げられなかった1番の理由でもある。

よく聞く、痴漢されて怖くて抵抗できなかった、逃げられなかった。という話はこうゆうことなのだなとその時理解した。情けない話ではあるが、多分男女とかあまり関係ない気がする。未知の存在にこちらのパーソナルな部分を侵されるのは恐怖だ。痴漢される女性の気持ちがほんの少しだけわかった気がした。

「とりあえずトレイの中行きませんか?」

そう女性は言うと、多目的トイレの方を指差した。

いやいやいやいや、多目的の意味が違う。そしてこれ、絶っっっ対に、入ったら駄目なやつだ…

それだけは駄目だと思って抵抗した。端から見れば、股間を掴まれた男と、股間を握っている女の押し問答が繰り広げられているが、本人たちはめちゃくちゃ必死だった(女性もめちゃくちゃ必死に説得してきた。)。

なんとか落ち着いて、とりあえず、とりあえずそこのベンチで休もうと休戦協定のようなものを結びベンチに腰掛けた(この間歩くときも手が股間から離れることはなかった。)。

とにかく落ち着かせて、股間から手を離してもらおうと思った。しかしながら向こうも少し落ち着いてきたようで、股間を握るから股間を撫でるにシフトチェンジしてきやがった。

なにを話したかは正直全く覚えていない。なぜなら、話してる間も隙を見せればズボンのチャックを下ろそうとしてくる。そしてそれをさせまいと抵抗する僕。会話など耳に全く入ってこない。

この問答が多分30分くらい続いただろうか、向こうも少し諦めてきたので、なぜこんなことするのか、なにがしたいのか問いただした。

こんなことしたら駄目ですよ。捕まりますよ。

21の大学生に軽く説教される年齢不詳の女性(後に年齢を聞き出し31だと知る)。そりゃ向こうも冷静になるし気分も落ち込む。

そうしてやっと解放されてなんとか30分間、股間をまさぐられることで事なき(あった)を得た。女の友達にこの話をするとみんなびっくりして、大丈夫だった?大変だったね。と心配してくれるが、男友達は、なんでしてもらわなかったの!?勿体なくね?とありがたい言葉を戴いた。

違うのだ、そんなことを考えてる余裕はないのだ。
もう一度言うが、あの経験は本当に僕にとって恐怖だった。痴漢された本人にしかこの恐怖はわからない。

この経験で僕は多くの女性がこんな、これ以上の怖い思いをしているんだなとわかった。男でこれだけビビったのだから、女性の恐怖というものは計り知れない。夜道は本当に気を付けてほしいと思った。

それ以来、しばらくはあの痴女がでた道は本当に通れなかった。僕のこの話は笑い話として読んでいただければいいが、こういったことは男女問わず止めたほうがいい。そして男性も、女性も夜道には気を付けていただきたい。

後日談


あの事件から二ヶ月後くらい、バイト帰りでその日はアルコールが入っていなかったので、ロードバイクに乗っていた。早く帰りたかったので遠回りせず、痴女のでた公衆便所の前を久々に通ることにした。

今日はロードバイクだし、もし出てきても逃げられる

そう思って通った。そしたら案の定いた。そして驚いたことにロードバイクに並走してきたのだ。歩行者と自転車用の併設歩道で、その壁側は茂みのようになっている。その茂みの部分を猛スピードで並走してきたのだ。

カサッ、カササササッ、サッ

姿ははっきり見えないが、めちゃくちゃ走ってる。そしてちょっと待って。ロードバイクってわりと速いよ?そのロードバイクに並走してくるってやばない??

恐怖と疑問と驚きで混乱したが、スピードを緩めず一気に走り抜けたので、今回は事なきを得た。

痴女、恐るべし。

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