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大河ドラマの「麒麟がくる」を見ながら十二国記の思い出を振り返る(3)<東の海神 西の創海編>

大河ドラマの「麒麟がくる」を見ながら十二国記の思い出を振り返るシリーズとしてはじめたこのコーナー。いつ大河ドラマの撮影が中断するのか不安になってきました。

ですが、麒麟といえば十二国記でしょ!と思ったあなた。
この記事は、十二国記ファンのための記事です。

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国が欲しいか。ならば一国をやる。延王(えんおう)尚隆(しょうりゅう)と延麒(えんき)六太(ろくた)が誓約を交わし、雁国に新王が即位して二十年。先王の圧政で荒廃した国は平穏を取り戻しつつある。そんな折、尚隆の政策に異を唱える者が、六太を拉致し謀反を起こす。望みは国家の平和か玉座の簒奪(さんだつ)か──二人の男の理想は、はたしてどちらが民を安寧(やすらぎ)に導くのか。そして、血の穢(けが)れを忌み嫌う麒麟を巻き込んだ争乱の行方は。

治世500年を誇る、大国、雁誕生のお話です。

父親が、坊、と顔を覗き込んできたのは、その二日後のことだった。
「お父は用事に行く。坊もいっしょに行くか?」
どこに、とも、なんで、とも彼は訊かなかった。
「うん。いく」
そうか、と父親はどこか複雑そうな表情で手を差し出した。
「坊、ここにいろな。すぐに戻る。待ってろ」
うん、と彼は頷く。
「いいか、動くんじゃねえぞ」
うん、ともう一度頷いて、何度も振り返りながら林を去っていく父親の背を見送った。
ーー動かない。かならず、ずっとここにいる。
彼は拳を握って、父親が姿を消した方向を見つめていた。
ーーぜったい、家にかえったりしないから。

これは、延麒、六太の子供の頃。切ないです。

対比して、更夜の幼少の頃の描写が続きます。

彼には父親がいない。母親は、父親は遠くの国へ行ってしまった、と教えてくれた。住んでいた廬が焼け、母親と彼は里に行って、里の隅の土の上で眠るようになった。たくさんの人間が集まっていたが、ひとりずつ欠けていって、やがてはほんの数人になった。子供は彼だけだった。
「ちょっとここで休もうね。……水はほしくない?」
喉が渇いていたので、彼はうなずいた。
「いま水を探してくるから。ここで待っていておくれねえ」
歩くのにも疲れていたので、母親がいなくなるのは不安だったけれど、うなずいた。母親は何度も彼をなでて、そうして突然離れると、小走りに林を駆けていった。
彼はその場に座り込み、やがて母親が帰ってこないのに心細くなって、母親を探して歩き出した。母親を呼びながら、つまずきながら林をさまよったけれども、彼には母親の行方も帰り道も分からなかった。

父親に捨てられ、孤独に耐え待ち続けていた子。
母親に捨てられ、孤独に耐えきれず泣き叫んだ子。

ーー虚海の果てには幸福があるはずではなかったか。
蓬莱も常世も結局のところ、荒廃に苦しむ人々が培った切なる願いの具現に過ぎない。虚海の東と西、ふたつの国で捨てられた子供はのちに邂逅する。ともに荒廃を背負い、幻の国を地上に探していた。

この後、2人の出会いが、尚隆、雁国を巻き込む大きな渦となっていきます。

尚隆といえば、好きなセリフ。

若、と呼ばれるたびに、一緒に託されたものがある。

若という言葉を、自分が呼ばれている名前だったり、役職、役割に読み替えると、ちょっとおこがましいですが、身が引き締まる思いがします。あと、この巻ではありませんが、

お前は、お前自身の王であり己自身で在ることの責任を知っている。
自らを統治できぬ者に、国土を統治できようはずも無い。
己を知っている者は、己が王にふさわしいなどとは決して言わない。

これもいいですね。

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この巻は、今後の十二国記の世界で重要な役割を持つ2名の登場人物の初登場の回でもあります。あとのお話で、「あ!この人確か・・・東の海神 西の創海で出てきたあの人!?」と気づくところがまた面白い。
(下記、大きくネタバレしてますので注意)

院白沢・・・斡由の優秀な部下でしたが、反乱後、雁国の冢宰に!
更夜・・・昇山する珠晶を大いに救った黄海の主、犬狼真君・・・!

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乱の平定後、尚隆と六太が語り合うシーンがあります。これが、冒頭、とても辛い思いをした2人の子供が望む未来だったんですね。

「どんな場所が欲しい」
「・・・・・・緑の山野」
六太は一歩を離れて尚隆に向き直る。
「誰もが飢えないで済む豊かな国。凍えることも夜露に濡れることもない家、民の誰もが安穏として、飢える心配も戦火に追われる心配もない、安らかな土地が欲しい。ーーおれはずっとそれが欲しかった。親が子供を捨てたりしないでも生きていける豊かな国・・・・・・」


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