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宇治田原町で出会ったもうひとつの京都

ハート型の小窓が可愛くて、色鮮やかなお寺「正寿院」。

本やSNSで京都を調べては、いつか行きたいと思う場所をスマホのホーム画面に保存している私が(ありすぎてホーム画面が埋まりそう)行きたかったお寺のうちのひとつ。


編集:田中萌々花


京都市の南、京都府と滋賀県、奈良県、三重県の4府県が接するあたりに位置し、山深いお茶の里として知られる宇治田原町。周囲を見渡せば古民家や棚田が広がり、夏の京都の蒸し暑さを忘れるような心地よい自然の空間が広がっている。碁盤の目のかたちに整備され、人とモノと歴史がコンパクトにぎゅっと詰まっている京都市内とはまったく違う雰囲気に包まれた場所だ。

宇治田原町は「お茶の京都」と呼ばれる地域に含まれている。いわゆる「もうひとつの京都」に出会えたことを実感した気がして、わたしはすごくうれしかった。そんな新鮮な感動に浸りながらバス停から細く曲がりくねった道を歩いていると、ひっそりと正寿院が姿を現した。

ちょうど風鈴祭りをやっている夏のシーズンだったこともあり、たくさんの参拝者で溢れていた。

じつは風鈴には、人の五感「眼耳鼻舌身」で涼を感じられるようにという願いが込められているのだという。そしてもうひとつ、もともと風鈴は「風鐸(ふうたく)」と呼ばれ、その音が聞こえる範囲は聖域であり災いが起こらないと考えられていたそうだ。つまり「厄除け」として吊るされていたということだった。

それまでのわたしは、単に夏の涼しげな風物詩だと思っていた風鈴。それが昔から伝わる特別な意味があると知るだけで、その音の響きがなんだか深く聞こえるような気がする。目をつぶって、何百年前の人もこうやってわたしと同じ風鈴の音を聞いてたのかなって思うと急に不思議な気持ちになって時を忘れそうになった。

わたしは時が止まったような空間をやっと抜けて、いちばんのお目当てであるハートの小窓がある客殿に入った。

160枚の華やかな天井画がとても美しく、ハートの小窓の奥に見える新緑の緑と温かい日差しが、部屋の雰囲気をつくり出している。

このハートの意味を、皆さんは知っているだろうか?これはハートではない。もちろんインスタ映えするために新たにつくられたものでもない。じつはこれは、「猪目(いのめ)」と呼ばれる古来から伝わってきた日本伝統文様のひとつ。その歴史は約1400年前で、災いを除いて福を招くという願いが込められている。けれど、現代の日本ではハート=厄除けというイメージはあまりない気がする。たとえ昔と今でハートの意味合いが違っても、同じ景色が変わらずあり続けると思うと、なんだか歴史を感じた気がした。

きっと正寿院を訪れた人の中には、可愛いハートが映えるからっていう理由の人もいると思う(もはやそういう人のが多いかも)。もちろんかわいいものや美しいものを見るだけでもじゅうぶん観光は楽しいけれど、起源や歴史など、背景の物語を深く知ったりなにか新しい出会いや学びがあるような観光を、ぜひ京都ではしてほしい。ただ見るだけよりも、感じかたが大きく変わって新しい発見がきっとあるはずだから。とくに京都の場合は歴史や伝統が色濃く残っているから、その起源や歴史を知って物を見ることは京都観光の醍醐味だと思う。こんなふうに、わたしが思う京都観光の魅力は、景色の美しさや立派な建物と、その背景にある歴史や想いを知ったときに感じられるものだと思う。

そしてもうひとつ、宇治田原観光で必ず立ち寄ってほしい場所がある。それは、正寿院に向かう途中にある小山園製茶場。

ここではとっても濃い濃厚なお抹茶を、棚田の上にある茶畑テラスで楽しむことができる。さらに、地図をもとに茶園さんぽも楽しむことができる。

のどかな田園風景と棚田を眺めながら飲むお抹茶は格別に美味しくて、ぼーっとしていたら一日過ぎてしまいそうな穏やかな空間だった。なんだかジブリの世界に入り込んだような感じ。

わたしは山に囲まれた田舎出身だけれど、都会で生まれ育った人にとってはもっと感動が大きいかも知れない。ぜひ機会があれば行ってみてほしいなと思う。

「お茶の京都」から戻ってくると京都市がさらにコンパクトに見える気がした。でもこの小さな街のなかには、まだまだ知らない発見がたくさんあってとっても深い魅力が詰まっている。明日もまだ知らない一面にひとつでも多く出会えるように歩こっと。


【参考文献】
「正寿院」http://shoujuin.boo.jp/

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