それぞれにハマった"狙い"の結末 | オーストリアvsデンマーク カタールW杯 グループD Round3
#トーマス・デンが出ん
今回はこちらのワールドカップアーカイブ化計画の一記事であります。
カタールW杯 グループD Round3 オーストリアvsデンマークの1戦をレビュー。
1. 試合前のおさらい
オーストラリアのこれまで
できないことはしない!コンパクトな陣形で耐えつつも自分たちの強みを活かしてもぎ取ってやる!のスタンスは日本に近い。監督から過去在籍選手から現役J2戦士まで何かと親近感を抱かせてくれる。
デンマークのこれまで
北欧の大男たちが的確なポジショニングと確かな配給で相手を困らせ、するすると敵陣進出していく様はマシンのようで恐ろしささえ感じる。時折ワイドの選手が縦突破マシマシのイケイケ感出がち。
第3戦なので状況を踏まえた戦いが求められる。ということでおさらい。
勝ち抜け条件
フランスが一番乗りで突破を決めたグループD。チュニジアの頑張り&フランスの手抜き加減に左右される両者。
ドローでもチャンスがあるオーストラリアは引きこもり&一発カウンターでOK、3ポイントがマストなデンマークは攻め必須という前者に有利なゲームがスタート。
2. マッチレビュー
オーストラリアの変更は1人。カラチッチ→デゲネクでRSBが3戦連続で変わることに。CBも務めるデゲネクlnで高さ対策の模様。
一方デンマークは3人変更。コーネリウス、ダムスゴーout→プライスワイト、スコフ・オルセン、イェンセンlnで4-3-3に。CBを削って前線を増やし、攻めの姿勢。
前半
ハマったフリのゼロトップ
開始30秒でデンマークが仕掛ける。A.クリステンセンの縦パスにCH間から顔を出したブライスワイトが受けてすぐ右のイェンセンにフリック。遅れて食いついたソウターの背中にエリクセンがするりと飛び出し、イェンセンからのワンタッチスルーパスへ飛び込む。
ここはパスの乱れとRSBデゲネクとCHムーイのカバーによってシュートまで持ち込めなかったが、デンマークは早速この試合のプラン、“0トップ&背後狙い”を見せつけた。
引き込みたいオーストラリアを押し込んでも攻め手がない、ということでデンマークはオーストラリアCBの迎撃を利用。
こうすることでオーストラリアの狙い(ミドルブロック、CB迎撃)にはまったように見せかけ、オーストラリアの弱み(CBが揺さぶり対応に遅れがち)✖️デンマークの強み(オープンスペースで強いWG)で一気に仕留めてしまおうという寸法だった。
オーストラリアは早速守備戦術を逆手に取られただけでなく、マイボールのスローインでロストした流れから早速LSBべヒッチにイエロー(2分)。CHムーイも無理に前にパスを出して相手ボールにしてしまうなど慌てた入りになってしまった。
組織を強める🇦🇺、組織を切り離しにかかる🇩🇰
落ち着きを取り戻してきたオーストラリアは徐々にブロックを下げて対応する。
またCB周辺の対応も修正。ここ2戦ではゴール前でチャンネルに走り込まれた際にCBがスライド対応するシーンが多かったが、この試合ではボランチが下がってカバー。CBを動かさない形が増えた。さらにCBが迎撃した後のカバー意識も高まり、CB-CHのボックスの補完関係を強めた。
15分が経過するとデンマークの攻撃はゼロトップを起点にした右サイドユニットから左サイドユニットへ。ここでは左サイドにリンドストローム(メーレ) vs デゲネクの 1 on 1 を何度も作り出し、突破を狙った。
ここでエリクセンはCHムーイの周辺にポジショニングすることでSBのカバーに行きにくい状態を生み出していた。またCBのアンデルセンのパワフルなロングボールで左サイドに送り届けたことで、SHのプレスバックは間に合わず、何度となくデゲネクが一人で晒される形に。
しかしデゲネクが奮戦。リンドストロームを封じ、メーレに対しても粘り強くついて行った。クロスもなんとかDF陣で凌ぎ切り、ゴールは許さず。
30分が経過し、なかなかフィニッシュまで至れないデンマークは痺れを切らしたのか縦への動きが増加。しかしオーストラリアDF陣も慣れてきたのか落ち着いた対応に。ロールズがブライスワイトへのタテパスを潰してカウンターへ移行するシーンもあり、オーストラリアがラインを上げられる展開となった。
そんな中でホイッスル。確かな手応えを掴みつつもゴールが遠いデンマークと、なんとか凌ぎきれそうな自信を得たオーストラリアという45分だった。
後半
”狙い通り”の応酬
マッグリーを左に回しアーバインを1列上げ、デンマークの中盤の自由を奪おうとしたオーストラリア。
一方でデンマークはRSBバーを投入し、方針変更。背後狙いがダメならゴール前で崩してしまおう!という形に変化した。
特に見られたのがバーの斜めクサビからのチャンネル受け。
こうしてまんまとペナ内へお届け完了。
CBがついてこなければターンからのシュート!だし、CBがついてきたらゴール前からCBを動かせた!ということでポストプレーで落としてからゴール前へ、が青写真だった。
オルセンがぽかっと空いてターン&シュートが51:45~、オルセンへの斜め→イェンセンへの落としまで決まってゴール前進入に成功したのが59:30~。狙いはハマっていた。しかし前者はシュートブロックされ、後者はゴールを向いた味方へ繋げられず。
そしてこの2つ目のシーンから10秒でゴールが決まる。決めたのはオーストラリア。
CB-CHが密に関係を保って凌いだこと、そしてマイボールになったらまず前に当てる→落とす→前線は全力ダッシュ!のプレー原則通りにやり切った完璧なカウンター。ボール奪取からタイミングを見極めたレッキーのシュートまでオール100点満点の形だった。
デンマークからすると狙い通りに進入しながらもひっくり返されてしまった。アンカーであるホイビュアがペナ前ワンツーを狙って突撃したことがこのカウンターを導いてしまったが、うまくハマっていたからこそ(ここだ…!)とゴール前に飛び込んだわけで、なかなか切ない失点だった。
2点以上必要なデンマークはドルベア、コーネリウスの2トップに変更。後方で揺さぶり、斜めクサビからのポストプレーで地上戦から、対角へのロングボールで空中からゴール前を狙った。
しかしオーストラリアDF陣も粘り強く競り合い、簡単にゴール前までは運ばせず。クロス精度が悪く焦りも見えるデンマークに対し、5-4-1の逃げ切り策も奏功したオーストラリアが逃げ切って決勝Tへの扉を開いた。
まとめ
デンマークはオーストラリアを研究し、見事に逆手を取ってゲームをスタートした。試合が進む中でも相手の対応を見ながら攻め手を変え、それをチーム全体として実行していた。誰か一人が、ではなく一人一人がゲームに関わっていくプレーぶりはクラブチームかと思うほどだった。
それは最後のクオリティが足を引っ張ってしまう、という点でも。失点が狙い通りのペナ内侵入成功からの被カウンターというのはどこか既視感があって切ない。チュニジア戦ではペナ角を起点にクロスorシュートの形があった気がしたのでそこからの崩しができれば…だったのかもしれない。
一方のやれることをとにかくやり通して、やり切ったサッカルーズ。初戦に1-4で敗れながらも耐え切る戦法で勝ち切ったのは相当タフなチームだと感じる。やれることが限られているからこそ「狙いどころ」を辛抱強く待てるのかもしれない。毎試合先制しているあたり、まだアップセットをしてくれそうな予感がある。
互いに手を尽くしたグッドゲームでありました。オーストラリアのさらなる奮戦とデンマークの今後に期待を込めて。
おまけ:トーマス・デンを待ち侘びて
GL3戦で出場機会なしはちょっと寂しい。ただ、ゴールシーンにチラ見えする彼を探し出しては元気な笑顔に癒される日々でもあったり。そしてまたそれを見るチャンスがあるということは嬉しかったり。
この試合はソウター&ロールズのCBコンビが今のサッカルーズの要であることを改めて感じる試合でもありました。ゴール前での力強い跳ね返し、幾度とないシュートブロック、そして迎撃からのカウンターのスイッチ役。アーノルド監督とこのチームがこの2人に全幅の信頼を置いていることを強く感じるのでありました。
ただラウンド16はvsアルゼンチンなので、クイックネス勝負のアタッカーに対して背番号20がベールを脱ぐかも……という希望的観測は抱いておきます。ラウンド16もベンチにピッチに注目です。