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ピングドラムに浸される

作品を自分の中にまだ落とし込めていないということは十分に分かっていて、でも何もわからないけど素晴らしいという感覚を何度か体験している。

それはスタァライトであり、エヴァであり、リズと青い鳥であり、平家物語であり、この感覚を抱いた作品はいずれも自分に大きな影響を与えてきた。

その一つが去年見た輪るピングドラムである。

一話の生存戦略で今までに見てきた中で三指に選ばれるレベルの作品だと直感して、回を追うごとに含みのあるセリフや演出があふれ出して、後半でそれらが重なりつながっていって、正直受験期に見るべきアニメではなかったと後悔するほどに魅了された。

そしてピングドラムの抽象的な要素は日常の至る所に見られるので、受験会場までの地下鉄のアナウンスや看板にピングドラムを感じて力をもらったこともあった。

そんなこともあって合格したら劇場で見ると心に決めていた作品だったから公開まで待ちきれなかったし、そのようにまつわるエピソードも多く自分の中で大きな意味を持つ作品となっていた。

この文章において劇場版とアニメ版の印象がごちゃごちゃになっていたり、事実と思い出を混同した部分もあるかもしれないが、今の自分の脳内はこれ以上にピングドラムに支配されているため、あくまでこの文章はその整理という目的の下で書かれたことに注意されたし。(ネタバレ拒否はブラウザバック)


劇場版輪るピングドラム RE:cycle of the PENGUINDRUM

冒頭の夜の道路や駅や水族館の風景が一気にボルテージを最高潮にさせた。
実写かなと思ってみていたら広告がピングドラムのペンギンだったりと現実の映像ではないようで、かといってアニメのタッチとも異なっていて、あの演出でピングドラムがより実生活に近く感じられた。
列車が再び彼らを帰したという言葉が思い出されて、あの世界に帰る途中の彼らを乗せた列車がすぐ隣を通過していったような感じがした。
作品自体が現実の要素を含んでいることもあって自分の生活の一部に作品を感じることの多いという特徴は持っていたけれども、さらに現実との距離が近づくことによって作品も現実もますます好きになった。

本棚が動いて階段やレッドカーペットのようになる演出にワクワクした。
もともとアニメに図書館が出てきたときに赤い背表紙が背景を埋め尽くすさまや階段だったりというのが好きだったし、何といってもあの生存戦略のバンクで意味不明に展開していく場面でピングドラムに魅了されたこともあったから、あのパタパタパタと背表紙が変わったり本が空間を作ったりするのはこれぞピングドラムという感じがした。

総集編ということもあってアニメの展開をわかりやすく構成しなおしたためか、通りすがりの少年による銀河鉄道とリンゴの話や宝塚のような演出など印象的な部分がカットされてたりしていた。
逆にそうとは思ってなかったシーンで、野鳥のテレビの音声で賢治の出身地である「岩手県花巻市」という言葉が聞こえたのには興奮した。
自分が岩手出身だからというのもあったかもしれない。

本編を見終わっていたということもあるかもしれないが、チャプターによって整理されたおかげで本筋を理解しやすくなっていたことも新しい発見につながった。
最近気づかされたことに、自分は物語の大枠よりも部分の論理や主張、すなわちキャラクターの主義を理解することのほうに比較的重点が寄っている点がある。
そのために話全体で作者が伝えようとしていることを見失いがちということは多々あるが、逆に二週目になると全体がつながっていく感覚がより強く感じられた。

やくしまるえつこさんの「OUR GROUND ZEROES」は劇場で初めて聞いたけれど、ものすごくマッチしていて今はずっとリピートしている。
もともと「少年よ我に帰れ」がとても好きで、あの心に響く歌声やシンプルに謎を構成していくような雰囲気に加えて、歌詞が高倉家の結末に向けたメッセージのように感じられていたので、アニメを見始めて半年間ほとんど脳内でヘビロテしていた。
あの曲を聴くだけでピングドラムのもたらす心の揺れが戻ってくるというのが感じられていた上に、最近はノルニルやサントラも一層聞くようになったから生活の浸食が加速していた。
そこにあの劇場の「OUR GROUND ZEROES」である。
あふれる。

繰り返すが、ピングドラムのシンボルやピクトグラムやアイコンなどは実生活と深く結びついてしまい、地下鉄のアナウンスや改札や駅の標識、交通標識などが意味を持って生活が豊かになったり、昂ったりという現象が続いている。
そこにアニメよりも現実に近いピングドラムの世界を提示されてしまったためにやはり自分の世界は激しく浸食されている。
あの場面が今回の劇場版で一番印象的な部分だと思っているが、そこでのbgmである「OUR GROUND ZEROES」は自分の中でピングドラムへのトリガーと化した。
あの曲を聴くと視界のすべてにピングドラムを感じられるのだ。
素晴らしい。

最後に謎の部分。
高倉家の罪とは何なのか。
ピングドラムとは何なのか。
運命の輪を閉じるとは何なのか。
わからないことがわかっていない部分が多すぎることはわかるから、後編までにアニメをもう一度見直そう。

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