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【再掲載小説】恋愛ファンタジー小説:ユメと言う名の姫君の物語 第十九話-ユメ-聖なる水を飲む

前話

 私は見事に風邪を引いてしまった。ベッドに入る頃には倦怠感が出てきていた。翌朝、起きるとタイガーが言った様にずびずばと鼻を言わせている状態だった。タイガーが言った様にセレスト王妃殿下が直々にお見えになり、鼻をちーんとかんでいる場合ではなかった。ところが、居住まいを正そうとする私を制してセレスト王妃殿下はハートマークを飛ばして「お母様と呼んで」と言い、私の度肝を抜いたのだった。
 そして、今、栄養があるという果物の皮をむいてもらっている。
 タイガーはどこに行ったのかしら。
 お母様と言うにいしてもセレスト様と二人きりはかなり怖い。嫁と姑になる間柄。何が起こっても不思議じゃない。なのに、亭主元気で留守がいい、状態。
「あの。……タイガー、いえ、アレクシス王子はどこへ?」
「風邪を治す水を汲みに山へ登ってるわ」
 いつもの事のように言うお母様だけど。
 山に登って?!
 風邪を治す水?
 頭の中で驚愕の文字が走り回る。
「この国が湧き水で有名なのは知ってるわね。その中でも王宮の土地にある、ある山の水を飲むとどんな病も治るのよ。タイガーは昨日から登ってるわ」
「昨日から?」
 と同時にくしゃみが飛び出る。鼻が~。ふくものを探しているとはい、と手渡される。またそれに驚愕の文字が走る。手渡されたのはセレストの文字が入ったハンカチだった。
「そんな……、ずび」
 返そうにも鼻水が出てきて話せない。姫君にあるまじき状態だわ。
「洗濯すれば済む事よ。他にふくものはないから我慢して」
 いえ! 我慢してるではなく、恐れ多いから、です!
 言いたいが、言えない。その内王妃様は皮むきの手を止めてハンカチで私の鼻水を拭き始める。
「お、お母様! ハンカチが」
「いいの。いいの」
 にこやかにお母様は私の世話を焼く。どうしてこの人はこんなにも私の面倒を見るのだろうか。
「娘が欲しかったんだって」
「タイガー!」
 タイガーが水を入れた容器を持って入り口に立っていた。
「はい。聖なる水。これを飲むと大抵の病気は軽くなるよ」
 とぽとぽとグラスに水をタイガーは入れて手渡す。
「はい……って。……ずび」
 ああ、情けない。縁談相手にまで鼻水小僧を見せてしまっている。治る物なら治しなさいよ。評判がた落ちなんだから。グラスを一睨みして水を飲む。
「?」
 飲んでも何も起こらない。ただ、なめらかすぎるほどまろやかな味わいだった。これ、本当に水?
 不思議そうに飲み終わったグラスを見ていると、くすり、とタイガーは笑みを漏らす。
「これを飲んでひと晩も眠ればそのずびずばも治るよ。獣医が言ってるんだから確かだよ」
「獣医ってどうしてそこにこだわるの。癒やし人であることは確かよ。だって、私の風邪を軽くしてくれたじゃないの。あちこち痛かったのがもう痛くないわ。あの水の成分はなんなの?」
 ずびずばが軽くなって私はたたみかけるように言う。
「もうちょっと風邪でいてもらったら静かだったのかな? まぁ、ロッテが静かだと怖いけれどね」
「タイガー!」
 追いかけ回そうとして、お母様がいた事を思い出す。
「すみません。来て早々にご迷惑をおかけして」
「あら。本当にましになったのね。じゃぁ。この果物食べて栄養つけないとね」
 そう言って、あーん、と言う。
 え? 嫁姑でそれ? 目が点になるけれど、お母様は本気。しかたなく口を開ける。ぽいっと放り込まれた果実の甘味が口いっぱいに広がる。
「おいし」
「はい。次のも、ね」
 お母様と母娘ごっこをしていると視線を感じる。タイガーだった。優しい視線がそそがれていた。
 こんな人なら嫁いでもいいのかしら……。湧き上がる気持ちに戸惑う、私だった。


あとがき
アニスゲルドではいろいろおきるのでございます。風邪を引いた姫君を書いたのもはじめてでした。しかも鼻水小僧。崩しまくりました。こういうコミカルなところもあるのがこの作品の特徴。何故か書いてるんですね。そういう風に。意識してないのに。そのうちこれもローテションにはいるかと。また増える。と。ここまで読んで下さってありがとうございました。

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