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【再掲載小説】恋愛ファンタジー小説:ユメと言う名の姫君の物語 第十七話-ユメ-サクラに導かれて

前話

 密約を交わした後、タイガーは疲れているから少しソファでうたた寝でもすればいい、と言って執務に戻って行く。アビーがタイガーの後を追っても何も文句を言わなかった。久しぶりのアビーの帰郷に文句を言うつもりはない。母猫にも会いたいだろう。
 私はずっとサクラの花弁がはらはらと落ちていく様を見ていた。見頃も過ぎてしまったのかもしれない。満開のサクラはもって数日。そんな気がしていた。でも。こんな運命の出会いをするなんて、と思った。あのサクラは代々のユメという姫君を見てきたに違いない。
 部屋から見えるサクラは窓からの景色ではなく、テラスにそびえていた。靴を脱ぐとそっと近づく。近くで見ると、もう枯れてしまった部分がある事に気づいた。けれど、その部分は樹医がこの国にもいるのか、丁寧に保護されていた。だから、このサクラは未だ、咲いていられるのだ。
 神と呼ばれ、人の手で守られてきたサクラ。このサクラは何人のユメ姫を見てきたのだろうか。そっと木肌に触れる。どくんどくんとなぜか耳をあてると音がしていた。
「水でも吸い上げてるのかしら?」
 不思議に思いながら体を預ける。安心感がひたひたとやってくる。ユメでいいのだ、とこのサクラは言っていた。名前など、たいした物ではない、と。いかに自分である事か、が大事なんだ、と伝えてきた。というかそんな気がした。ユメに変なこだわりを持っていた私はそれが間違いだと知った。この樹は教えてくれる。何千年もの時間の中で変わらぬユメというものは、それだけでいいのだ、と。ユメと言う名前にこだわらずとも私はユメなのだ、とわかった。タイガーは全部記憶を失っていない。私だけ。これが何かを意味するのだろう。
 生まれ直し。
 そんな言葉が不意に浮かんだ。
 死は再生と背中合わせ。何かが死ねばユメが生まれ、ユメが死ねば何かが生まれる。悠久の時の流れの中で繰り返されてきたユメという姫の存在。表面だけを見ていたのは私だけだった。みな、私を見ていてくれた。この「私」という存在は変わらないのだ。いつの日でもいつの時代でも。いつの時でも。
「・・・ッテ。ロッテ! 風邪引くよ」
「タイガー? え? 私……」
 さっきまで手に触れていたのに。
「お疲れのようだね。このサクラの樹を枕にして居眠りしていたよ。外はまだ寒い。風邪を引くよ」
 タイガーが上着を羽織らせる。ふっとした温かみに嬉しさがこみ上げる。
「ありがとう。タイガー。いつもあなたに任せてばかりね」
「そう? 俺は君がいつも頑張ってるからその代わりになれたら、と思っているだけだよ。さぁ。暖かい飲み物を飲もう。君が気に入るかどうかはわからないけれど、マッチャのクズユを用意したよ」
「マッチャ? クズユ?」
「飲めばわかるよ」
 そう言ってタイガーが手を引く。私は立ち上がって、部屋に入ったのだった。


あとがき
結局、確信犯的に欠勤し、帰ってきたは良いけれど、なぜか眠くて何も出来ない。なんど寝たことやら。三回ほど寝ているんじゃ。帰ってきてから。風響を数行書いては寝るということをずっとしてました。まだもう少し書かないといけません。明日は土曜日。恒例を書ければいいなと思ってます。やはり秋分の日は秋彼岸を取り入れようと思ってます。季語から離れようとしても結局離れていなかった、という。先週は日をまたいだので書くのを諦めたんですよね。気付いたら日曜日で。寝込んでいたので余計。今日のうちから書き始めようかな。風響ももう少しだし。明日上がっていたらまた読んでみて下さい。ここまで読んで下さってありがとうございました。

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