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【連載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(98)

前話

 部屋でくつろごうとすると、外でお姉様の声が聞こえる。クルトが笑って言う。
「きっと、シュテファンにエミーリエと同じことしろとかできないの、とかやきもち焼いてるんだよ」
「まぁ。シュテファンお兄様もそれぐらいはできるでしょう? 仮にも門兵してたんだから」
 くくっと面白げにクルトが笑う。
「力仕事は総じてだめらしい。それでも門兵にかじりついていたそうだ。さすがは恋の力だね。今度は愛の力で乗り越えないと。見に行ってみる?」
「また、抱えて?」
「いや、歩いて」
「なら。行くわ。お姉様の援護しないと」
「じゃ、俺はシュテファン側に立たないと不公平かな?」
「どうかしら?」
 そっとドアを開けて様子を見に行く。
「新居の時にできて、今、できないのはどーしてなのよっ。筋肉がガタ落ちしたって言うの?」
「そうなるね。事務方しかさせてないから」
 クルトが口をはさむとカロリーネお姉様がきっと睨む。
「事務方なんて引っこ抜くからよ」
「適材適所」
「ふん!」
 ついにお姉様が機嫌を損ねてしまった。シュテファンお兄様は困ったり恥ずかしかったりの百面相。ヴィルヘルムとフリーデも来ていた。
「僕もフリーデをお姫様抱っこできないよ?」
「ヴィーは問題外!」
「ひどいっ」
 姉と弟たちの争いになりかけて慌てて間に入る。
「一瞬だけでも部屋に入る時はして差し上げては?」
「それぐらいはできますが、カロリーネはこの廊下を端から端までと……」
 恥ずかしながらも、とお兄様が言う。
「それは、クルトでも難しいわね」
「いや。やろうか?」
「しなくていい!」
 外野が一斉に止める。いましたらお姉様の機嫌が百年近くとけなくなる。
 はぁ、とお兄様が肩を落とす。
「やればいいんだね? 落っことしたら御免だからね」
「ちょっと、落っことす気?」
「だから、少し黙って」
 シュテファンお兄様がカロリーネお姉様に口づけして黙らせる。強気の態度に外野は動きを止めた。腕まくりをしたかと思うとシュテファンお兄様はお姉様を横抱えにして抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこだ。廊下を歩き始める。お姉様の顔もだんだん表情が柔らかくなってくる。その内、すっかりご機嫌を直したお姉様とシュテファンお兄様が戻ってきた。端から端まで行っただけでなく、往復したのだ。誰が、力ないって言ったのかしら。愛の力って偉大ね。できないこともできるんだから。
「そりゃ。それぐらいできないと事務方だって困るよ。大量の書類をもってうろうろするんだから。俺の筋肉は書類でできているんだよ」
「剣使うじゃないの。手練れの手よ。クルトの手は」
「さすが、騎士の娘は見るところが違うね。バレてたか」
「だから、当てにしてるの。クルトなら何でも倒してしまうから」
「それは光栄な誉め言葉だ」
 二人で納得してるとお姉様の声が入る。
「だから。私の新・婚・旅行!」
「はいはい。妹は療養のためひっこんでます。クルト、遺跡はもう少し後にしましょう。フリーデ。アールグレイが飲みたいんだけど」
「お任せください。ヴィー。行きますよ」
「はーい。僕、ケーキ三つ!」
「また三つって言ってるわね。さ。アツアツの新婚さんは二人きりにしてあげないと」
「そうだね。僕たちは婚約者同士だからね。まだ」
 その言葉にカロリーネお姉様が噴き出す。
「赤ちゃんこさえて婚約者って。純粋な振りはだめよ。二人も新婚よ。新婚旅行を楽しんでおきなさい」
「はい。じゃ、クルト」
 手を差し出すとクルトがエスコートする。その手で私はよろよろと歩きながら部屋へ戻ったのだった。


あとがき
総じて出番の少ないシュテファンお兄様。出たかと思うと思い切った行動に出た。もともと負けず嫌いなのね。意外や意外。書いてて、最近、出てこないなぁとは思ってはいたのですが。お姉様が強すぎてこちらは夫が隠れる。ゼルマならアウグストお兄様はばしばし出てくるんですけどね。フローラお姉様は楚々とした方なので。しかし、断然人数が多いのはあっち。人名表に泣く。ユメはかなり少ないのでほっとしてますが、増えるだろうな。ユング系は楽なんですが、心理学の本の説明でユメは止まっている。一回、専門書読まな。要約ができない。それを言うなら星彩もか。いろいろあって混乱気味。そしてまた睡魔が。おやすみなさいです。

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