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【連載小説】ファンタジー恋愛小説:風響の守護者と見習い賢者の妹 第三十話 父と息子

前話

「それから、これをアイシャード様から預かっている」
 質素なアイシャードらしい箱に入っている。アイシャードにはリリアーナとローレライの二人の孫さえいれば良いらしい。
「エレメンタルペンダント、と言う。なんでもセイレンの魔力が増幅するらしい。直接手渡せば良いのでは、と言ったのだが、なにやら恥ずかしそうだった」
「アイシャードが恥ずかしい?!」
 食の塊で大胆不敵のカール並みに一癖も二癖もあるあの老賢者が恥ずかしいと?
 三人は一挙にいぶかしむ。
「孫の婿だからのう、と言ってこれを置いていった」
「孫の婿? 俺の方が上だ。大事な大事な妹の婿だぞ。目の中に入れても痛くないほど大事にしている妹だぞ!」
 レオポルトが抗議するが、まぁ、待てとフロリアンが言う。
「あの方の、ローレライの両親は事故で亡くなった。そして無残な形になった二人にしか会えなかった。ここの部分は察してくれ。そして孫のローレライと跡目を決めているリリアーナは本当に大事なんだ。俺にはあの方の気持ちがよくわかる。魔女狩りで俺の女房と産まれたばかりの息子は処刑された。それからレオポルトに出会う前はただ武器を作るだけの人間だった。人としゃべりもしない、無味乾燥の人生を送っていた。そんな時にレオポルトに会った。まるで息子が戻ってきたように感じた。息子とは違うと自分に言い聞かせながらも毎回酒場で飲んだくれてレオポルトに家まで送ってもらっていた。それが俺の小さな幸せだった。それが今やこんな立派な王様になって……」
 フロリアンの目に涙があった。セイレンはたまらなくなってフロリアンの涙をハンカチで拭く。
「セイレン。ありがとな。お前も俺の息子だ。虫が嫌いで女性恐怖症の弱々しいお前が」
「フロリアン……」
 父がいればこんな感じだったのだろか、とセイレンは思う。
「父さん」
 自然にセイレンの口からそんな言葉が出た。
「僕には産んでくれた母も父の顔はわかりません。でもフロリアンの家で過ごして、息子と言ってくれるフロリアンはやっぱり僕の本当の父さんだ。父さん、って呼ばせて下さい」
「セイレン!」
 大きな体のフロリアンがセイレンを抱きしめる。汗っぽい香りが余計父と思わせる。飾り気の内フロリアンは紛れもないセイレンの父だった。その感動の場面を邪魔したのは他の誰でもないレオポルトだった。
「俺にはぎゅーはないのか」
「レオポルト?」
 フロリアンとニコが発言主をまじまじと見る。一国の王が焼き餅を妬いている。いい年した大人が。
「いや、お前にはちょっと……」
 逃げ腰のフロリアンに地から這うような声で恨むレオポルトである。
「ふろりあーん」
「はいはい。偉い王様には親友が抱きしめてやる」
「いらん!」
 レオポルトが拗ねる。一国の王が、とまたセイレンは思う。そこではたと思い出す。自分も一国の王だったと。セイレンは孤独な王という立場がよくわかっていた。フロリアンから離れるとレオポルトに抱きつく。ニコとフロリアンが目を点にしているがセイレンはレオポルトを抱きしめ続けた。
「兄さん。兄さんも孤独な立場だったね。僕にはよくわかる。父すら取られたら悲しいよね。ごめんなさい。僕だけがいい目を見て……」
「セイレン……。いい、先ほどのはフロリアンと俺のじゃれ合いだ。気にすることはない。だが、やっと兄さんと言ってくれたな。本当の意味で。お前は俺の弟。リリアーナのたった一人の婿だ。忘れるんじゃ無いぞ」
「はい。兄さん!」
 セイレンのはじけた笑顔にレオポルトは満足して頭をぐりぐり撫でる。
 
 まだ、世界は平和だった。だが、これからが本当の戦いだ。レオポルトはニコと目を合わすと軽くうなずき合っていた。


あとがき
面白みのない場面ですみません。さっさと出かけるところがアイシャードの意外な一面より父と子の真面目な話になってしまいました。
アイデンティティーの問題が見え隠れする話です。産んだ親か育ての親かみたいな。育ての親をとっても自分はどこから来たのかそしてどこへ行くのかという問題も抱えます。そこでやっぱり産んだ親に意識が行くのです。どんなにあがいても産んだ親がいないと自分は存在しない。なのにいない親。この辺は私には本当の事は解りかねますが、いろんな立場の方がいると思います。それを引っ張り出すつもりはありません。架空の物語の中のアイデンティティーの問題です。その内またギャグにもどるでしょうから、明日、お待ちください。休日はなんとか千字単位だと書けるようです。あとは次は星彩の続きということで交互に書いて行くところです。再掲載もしますので、また読んでやってください。
ここまで読んで下さってありがとうございました。

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