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【連載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(47)

前話

 いつもの通り、いつもの晩餐室だった。私もクルトも贅沢は好まないので、公然の秘密として、質素な、いえ、つつましやかな食事をしていた。それはこの王太子宮殿内の秘密だった。お母様は感づかれている様子だったけれど。
 ただ、今日はいつもとは雰囲気が違った。私とクルトは向かい合い、薄明りの元、香の出る蝋燭を灯しながら食事した。真ん中には本当に香り高い薔薇の花が飾ってあった。
 クルトはとても優しいまなざしで食事し、私を見ていた。私はそんなクルトにぞっこんというほど見とれていた。
「エミーリエ。料理が進んでないよ。飽きちゃった?」
「あ。違うの。あばたもえくぼってところかしら」
 言外ににおわすとクルトは真っ赤になっている。
「男を試すんじゃないよ」
「試してなんかいないわ。いっそはっきり言った方がいいかしら? 惚れ直しているのよ。さっきから何回も」
「それは俺のセリフだ。俺だってエミーリエがあんまりにも可愛くて美しいから料理の味なんて忘れちゃったよ」
「それこそ、料理長に失礼よ。品よく質素な料理って難題つきつけたんだから」
「これも。節約。節約。いっそ電気よりこの蝋燭の食事がいいよ」
 クルト、と私は念を押す。
「香の出る蝋燭はとーっても高いの。これで、いつもの食事が何回もできるのよ。お母様からの差し入れなんだから」
「そうなんだ。これがねー。へ~」
 クルトは物珍しく蝋燭を見つめる。ゆらゆらと燃える灯の向こうのクルトはとっても優しそうだった。いつから私、こんなにクルトのことを好きになったのかしら。こんな人に嫁ぐなんて嫌だって思っていたのに。
「またよからぬことを考えているね」
 また、流れたらしい。私は顔を真っ赤にして食事を進める。
「もう。流れっぱなしはなくならないのかしら。いっそお母様たちに会えればいいのに」
 ぶつぶつ文句を言いながら食事をする。それにクルトが反応する。
「俺も会いたかったな。こんな素敵なエミーリエを生んだご両親に」
「時間が遡れればいいのにね」
「ああ」
 この時にはこんな言葉を発するんじゃなかったと後悔するとは夢にも思わなかった。のほほんと、私たちは食事を終えた。そこへ、フリーデのか細い声が聞こえてきた。私を呼んでいるらしい。私の宮殿には詳しくてもクルトの宮殿にはまだまだなれないらしい。さまよっている。
「フリーデ。こっち……。って、ヴィー!」
 私の声にクルトも出てくる。
「ヴィー。ワインを飲んだのか?」
「ワインはおいしいのらー。ひっく」
「お止めしたのですが、恥ずかしさまぎれに、一本開けてしまわれて」
「一本!!」
 私とクルトは顔を見合わせる。
「まさか、アルコール中毒起こして……ないようだね」
「ヴィルヘルム様!」
 フリーデが固まっている。なんとヴィルヘルムはフリーデに抱き着いて目の高さまでかがませるとキスを仕掛けたのだ。たかだか十歳ぐらいの子が大人顔負けのキスをする。
「酒癖悪いやつだな。酔っぱらって乙女の唇を奪うんじゃないよ。この馬鹿弟!」
 ごいん。
 クルトの鉄拳制裁が炸裂する。
「いたーい」
 まだ、酔いはさめない。
 クルトが抱き上げる。
「今夜は俺の寝所に放り込んでおく。フリーデはエミーリエと一緒に女子会してなさい」
 そう言ってつかつか歩いて去ってい行く。残された食事を見せてなるものかと私は扉を閉めて、フリーデの肩に手を置く。皿もつつましやかなものを使ってるなんて知ったらお説教がくるわ。
「ああなったクルトは止められないからヴィーのたんこぶぐらいで安心なさい。普通の男だったら殴られてたわよ」
「え、ええ……」
 フリーデはようやく夢からさめたような表情をしている。
「あなたももうちょっと姉さん女房で引っ張らないと」
「はぁ……」
「さ。アールグレイを用意してきて。その間にここは片付けておくから」
「エミーリエ様?」
 クルトと一緒の時のつつましやかな食生活はフリーデもよくしらない。隠ぺいするのみだわ。
「ほら」
 背中を押す。つんのめりながらもフリーデはまた宮殿内をさまようこととなった。


あとがき
この話より、「新作」です。毎日ちまちま打ってます。ので【連載小説】となります。カロリーネお姉様の事件も無事解決したかと思うとまた一波乱があった。一応、想定してるのは二山。その間にいろいろあるかもしれません。一日おきに更新ということになります。週三日連載して合間に執筆してます。どこまで行くかはわかりません。行き当たりばったりです。お付き合いの程よろしくお願いします。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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