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【再載連載小説】恋愛ファンタジー小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (19)再編集:

これまでのお話

前話

「アルポおじいさーん」
 本屋の近くに行くと私は無邪気にアルポおじいさんの名前を言いながら本屋に走り込んだ。
「ゼルマ!」
 暴走している私を追ってウルガーも飛び込む。小さな子達が私達を見つめていた。
「ウルガーおにいちゃん。また絵本読みに来たの?」
 ませた小さな子が聞く。
「ちがうよ。ゼルマが礼儀作法の絵本を探しに来たんだ。みんなはアルポおじいさんの読み聞かせの続きをしてて。アルポじいさん。こっちは勝手にしてるから」
「そうか? ならば続けるが、この本はゼルマが読み聞かせた方がいいかもしれん。ゼルマ続きをやってくれるか?」
「へ? 私?」
 青天の霹靂とでも言うような私にアルポおじいさんはにっこり笑う。
「ちょうど挨拶の仕方という絵本を読んでいたんじゃ。お前さんにはぴったりじゃな」
 走り込んだことを言ってるのだ。普通はこんにちは、ぐらいは言う所だ。それを飛び込んだものだからちょうどいい、と言う具合みたい。格好の餌食になったのだ。
「はぁい。じゃぁ、どこから読むの?」
「ここからー」
 小さな女の子が絵本を持ってくる。
「あら、ま。おじゃまします、からなのね。そりゃ、おじいさんも言いたくなるわね」
 私が言うとアルポおじいさんは陽気に笑う。
「はい。ゼルマの絵本のはじまりはじまりー」
 そう言って一冊の絵本を読み聞かすことになった。内容は普段の自分を恥ずべき所、と反省するには十分だった。
「アルポおじいさんの意地悪。ここまで礼儀知らずだったって思い知らされたわ。他にこの国の礼儀作法の絵本はあるの?」
「それも、自分で探し出す事じゃ。自ら動かねば、何もやってこぬ。知らずにやってくる物は恐ろしい。いつもその覚悟を持ってなされ」
 すぐに無意識の「それ」と言うことが解った。なぜかそんな難しい本なんて読んだこともないのに、自然とわかった。どこかにそんな知識があったのだ。
「わかったわ。心しておくわ。ありがとう。アルポおじいさん」
 抱きついて愛情表現をする。するとウルガーがうなる。
「またお兄ちゃんが犬になってる-」
 小さな子が言う。
「これは焼き餅・・・ふがっ」
 説明しかけてウルガーに口を塞がれる。
「恥ずかしいことをバラすな」
 こくこくと頷いて、了承する。
「よし」
「何がよしなのよ」
「こんな小さな子に恋だの愛だのいう馬鹿がいるか」
「ここにいるもん」
 痴話げんかが始まり書けているのを見た子達が群がってくる。
「あー。大丈夫だから、本を読んでおいで」
 めっ、と珍しくウルガーが私を叱って子供達と本棚の方に行く。
「ウルガーは小さな子に弱いようでな」
「そう」
 私はレテ姫をそっと、思い出していた。

「おねえちゃん。もっと読んでー」
 小さな子達がねだって絵本を持ってくる。
「これこれ。ゼルマは本を買いに来たんじゃよ。みんなでいい本を薦めてあげなさい」
「アルポおじいさん」
 笑顔で顔を見る。アルポおじいさんは黙って頷く。
「おねえちゃんはどんなごほんをさがしているのー?」
「あのね。女の子の礼儀作法の本を探しているの」
「れいぎさほうー?」
 子供達が不思議な顔をする。
「お姫様のこんにちは、とか挨拶の仕方や歩き方を覚えないと行けないの」
「おねえちゃん、おひめさまなの?」
「の、予定」
「じゃ、なれなかったら?」
「そこらの畑を耕しているわ。そこのウルガーと」
 視線をウルガーにやる。ウルガーは小さな子達に絵本を読んで聞かせている。
「おにいちゃんの、およめさんなの?」
「そんなもの。まだ、結婚していないけれど」
「へー。このほんにおひめさま、でてくるよー」
「こっちのほんもー」
 女子達が手をあっちこっち引っ張る。結局、私は大量の絵本を抱えて帰ることとなった。桃を買うには市場はもう終わっている時間だったけれど、いつもの行きつけの八百屋さんには桃が二つだけ取り置きであった。お代はあとでいい、と言って。あとは婚礼のパレードを最前列で見せてくれたらいいと。
「へ? バレてたの?」
「ウルガー王太子とはちっちゃな頃からのなじみの客だよ。偉そうにもしないでその辺の男の子と全然変らなかった。あんたも。そう。そこらにいる女の子と変らないよ。さぁ、この桃を持っておお帰り。お母さんの好物だろう?」
「あ。葡萄もある?」
「もちろん。一房だけおいてあるよ」
 私は自分の表情が変っていくの気づいていた。思いっきり八百屋のおばさんに抱きつく。絵本がばらばらと落ちる。あーあ、とウルガーが拾っている。それを横目に抱きついて頬にちゅーをする。
「おばさん、大好き! いつまで経ってもなじみの客にしてね」
「ほらほら。ウルガーがあんたの後始末してるよ」
「させるのよ。夫の操縦方法よ」
 そう言っておばさんとにっと笑い合う。おじさんがウルガーの手伝いをしている。
「それもいいもんだね」
「でしょ?」
 私はくるりとウルガーの方を向くと思いっきり抱きつく。また絵本が落ちる。
「ちょっと。ゼルマ、君の絵本だよ」
「いいの。予告なしのちゅー」
 そう言ってちゅーをする。いつの間にか主導権をウルガーにとられたけれど、そんなのどうでもよかった。大好きな人と一緒にいられること。それを知ってもらって認めてもらえること。それがこんなにも嬉しい物だとは思わなかった。いつも、いつかウルガーと別れないと行けないんじゃないかってびくびくしていた。でも、そうじゃない。大好きな人といる権利は誰でもある。それを持っててもいいんだ。そう言うとウルガーは当たり前だろう、といってまたくらくらするようなちゅーをしてくれた。
 だけど、この恋人気分も迎えに来たお姉様に見つかって、強引に宮殿に連れて帰られる時にこってりしぼられた。お母様があまりにも帰りが遅いから、とお姉様とお兄様にヘレーネを連れて後を追わせたのだ。そこにいたのはお姉様達も顔負けのちゅーをしている妹と弟だったのだ。婚礼も前なのに、ときいつーいお叱りがあったのは言うまでもない。それでも私はへらへら笑っていて、みんなに気味悪がられた。そして寝る時間になっても買った絵本に夢中だった。お母様が強制的に明りを消しても読もうとして、そこでも雷が落ちた。それでもへらへらしているとおでこに手を当てられて、眠ったのはもう、日付の変る頃だった。幸せが波のように押し寄せていた。

絵本を大量に読み込むと、礼儀作法の特訓がまた始まった。お母様が叱っても何を言っても食らいついて行っていた。絵本のような姫君になるんだ、と思って。何度も失敗しても挑戦し続けた。そして本を頭に載せて数週間。しまいにはリンゴを買ってきて頭に載せて歩き出したときは、そこまでしなくてもいい、と言われて何故かため息をつかれた。
「ゼルマ。そこまで自分を追い詰める必要はないのよ。気品も姫君に必要な物は後から着いてきますよ。基本が出来ればいいの」
「でも、ウルガーにふさわしいお姫様にならないと婚礼ができないわ」
「今のあなたにふさわしいのはウルガーでもなくあなた自身よ。ウルガーの礼儀なんてどこかへとんで行ってます。あなたはどこに出しても恥ずかしくない姫になってるわ。テーブルマナーも立ち振る舞いもこれ以上なく、これ以上どこを直すか教えて欲しいぐらいですよ」
「えっとー」
 私は些細なミスを数限りなく数え上げていく。それを聞いてお母様がまたため息をつく。
「そんな細かい事まで誰も気にしないですよ。もっと、自分に優しくしておあげなさい。もう。礼儀作法はいいわ。しばらくこの宮殿で心を癒やしていなさい。あなたの心の傷はまだ癒やされていないでしょう? いくらウルガーへの恋心の認識ができても。傷ついた心は恋に浮かれても何かの拍子に出てきますよ。さぁ、今日はこれからウルガーとヘレーネの散歩に行ってきなさい。もっと自由でいいのよ。ゼルマ」
 お母様の言葉になぜか涙が浮かんだ。大好きなウルガーと一緒にいることの再認識で浮かれていたけれど、その反面どこかでアンバランスな闇の心のシーソーゲームが始まっていることをこのとき心のどこかで解っていた。ちょっとしたことで心が折れる、そんな気もしていた。今までの経験が糧とならず、逆に負債となって積み重なっていた。
「わかりました。おいで、ヘレーネ。散歩に行こう」
 私が言うと、ヘレーネは嬉しそうにやって来た。ここしばらくヘレーネの面倒を見ていなかったことに気づく。
「ごめんね。寂しかったわね。もう。ママはヘレーネを放っておかないからね。さ。散歩に行きましょう」
 リードをつけてカシワの宮へ行く。そこでお兄様と出くわした。
「産休じゃなかったのですか?」
「フローラのつわりも治まったから、今は時刻をずらして出仕してるよ。ウルガーならキンモクセイの宮に行ったよ」
「え? あそこ改装中じゃ・・・」
「とっくに終わっているよ。君はキンモクセイの宮はほとんど変更することがなかったらしいから。ウルガーはそこでゼルマへの想いを募らせているよ。恋人の元へ行ってあげなさい」
「はい! 行こう。ヘレーネ!」
 私はキンモクセイの宮へ走り込む。
「ゼルマ?」
「ウルガー!」
 思いっきり抱きついて予告なしのちゅーをする。
「会いたかった」
「俺も」
 またそこでちゅー。
「礼儀作法は?」
 ちゅーを堪能したウルガーが聞く。
「合格点以上の点数をもらったわ。ヘレーネの散歩へ行ってきなさいって。ヘレーネ?」
 一緒に駆け込んだはずのヘレーネがいない。
「ヘレーネ!」
 不安に駆られて呼ぶと隣の部屋から声が聞こえる。
「お父様の部屋だわ」
 二人ですぐ向かう。
 ヘレーネが何かを加えていた。
「紙? ヘレーネ頂戴」
 私が言うとぽとり、と掌にヘレーネは手紙を落とした。
「お父様の字だわ。一体どこから」
 ガラクタとして片付けられようとしていたデスクの引き出しが開いていた。
「ここにあったのね」
 わん、と一声ヘレーネが鳴く。
 そこには私の出生の秘密が書かれていたのだった。


あとがき
サーフェイスで入力しようとしたら二語しかでず、文字ツールがいるのかと思いつつ設定を触ったらできたので、ほ。
まだ、こんなところなのね。漢字検定の受験勉強に身が入りすぎて執筆ができない。浮かんではいるけれど、のらない。どうしたんでしょう。六花の話も閃いているけれど買い物が気になる。久々のからあげー。帰ってきたら水足しして執筆します。でも遠いです。直すところもあるし。サーフェイスがウィンドウズ12に対応してくれてるといいけど。メインが通用したらそれが一番だけどね。夏には変わると聞いていたので恐ろしいです。さて、長いお話、ここまで読んでくださってありがとうございました。

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