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【連載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(107)

前話

 夕食の後、皆、それぞれの組み合わせで思い思いに過ごしていた。私は、食べ終わるとディルクさんに礼を言ってその後、屋敷の探検をはじめた。墓参りの後、と言っていたけど、我慢しきれず、探検を始めたのだった。
 ぬくもりのある木の屋敷。城ではないが、とおじい様は言っていたけれど、そこそこ広かった。階段を上ったり下りたりしてクルトはひやひやして後ろからついてきていた。私は饒舌になってクルトを引っ張り回しては部屋を行ったり来たり。家具から飾ってあるものまですべてが新しかった。古い家なのに新しい我が家に帰ってきた気がしていた。どこか、お父様とお母様と一緒に住んでいた屋敷に似ている。それが、余計私を探検に駆り立てた。
「エミーリエ。その部屋はもう三回見ているよ」
 クルトがよく呆もしないで、見るもんだとため息をついているのが流れてきた。
「だって。うれしいんだもの。我が家に帰ってきたみたいで。懐かしいの。この家の何もかもが」
「だけど、もう戻れない家だよ。ずっと見続けて西に帰ったらホームシックがでるよ。もうこちらには来ない方がいいんだから。最後だっていうのはエミーリエにもわかるだろう」
「そうね」
 私は伏し目がちに床を一度見るとクルトをまっすぐ見た。
「ホームシックになるかもしれない。でも、私はクルトとこの子たちで新しい家庭を作るの。実家に戻るのは今回だけよ。わかってる。何もかも。すべてが終われば東と西は友好関係を築けなくなる。お姉様の牧場だってもどれないわ」
「賢い奥さんはわかってたんだね。だからこそ、こんなに見てるんだね。偉いね。つらいだろうに」
 クルトが肩を引き寄せ背中をポンポンと叩く。私は涙がにじむ瞼をぎゅっと瞑る。泣かない。王妃で母なんだもの。
「エミーリエ。ここなら泣いていいよ」
 クルトがいつもの優しい口調で言う。
「いいえ。もう泣かない。私は王妃で母なんだもの。もう、娘時代のようにめそめそしないわ」
「強いね。奥さんは」
 クルトが額をくっつけてくる。じっと見つめあう。クルトの優しいまなざしに癒されていく。見ると同時に心の底に積もってきていた孤独が消えていく。家族っていいわね。ただの恋人でもなく婚約者でもなく夫と妻という形は私に新しい力をくれたようだった。
「明日は本当のお墓参りだ。もう、休もう。屋敷の隅々まで見たろう?」
「そうね。実家をひっかきまわすのはやめるわ。でも、何か思い出の品が欲しいわね。でもあのどでかいおじい様の肖像画は持って帰れそうにないみたい。小さな絵があるといいのに」
「何か残されていないか、後で聞いてみるよ。明日が大事だよ」
 明日、おじい様達のお墓参りがある。私も納得してうなずくとクルトと一緒に部屋へと戻った。

 翌朝。ここしばらく曇天だったのにまるでお墓参りしてほしい、と誰かが言ってるかのように文句ひとつ出ないほどの快晴だった。
「お墓参り日和ね。いい報告ができそう」
 空を仰いでつぶやく。
「皆さま、これを。この村で墓参りにかかせない『天使の涙』という花です。これをどうか陛下に手向けてください」
 村長とディルクさんが来た。手には可憐で小さな花がたくさん咲いた枝があった。私はそっと受け取る。涙、というだけあって小さな小さな花だった。でも日の光を浴びてキラキラ輝いて見えた。
「お墓はこちらです」
 案内されて行くと、風化した墓標らしきものがいくつか並んでいた。
「この一番大きな墓標が陛下の物と伝わっております。どうぞ、献花を」
「エミーリエ」
 クルトがそっと背中を押す。私は墓の前でしゃがみ込む。そして花を手向けると手を合わせる。
「おじい様。やってきましたよ。あの日以来お会いできないのが残念でした。ここももうすぐ出なくてはなりません。でも、ひ孫が生まれるんですよ。あなたに抱っこしてもらいたかった。もっと話したかった。会いたかった。でも、私は今を生きているのね。後悔のないように生きていきます。クルトをくださってありがとう」
 小さな声でつぶやくとすっと隣にクルトがしゃがんだ。
「エミーリエを私たちにくださってありがとうございます。彼女の光で私たちは助けられています。どうか、天から見守ってください。後であの物を返しに行きます。無事に終われますように」
「クルト……」
 私は意外なクルトの言葉に驚いてただ見つめていた。クルトがにっこり笑う。
「ありがとう。エミーリエ」
「こらこら。墓の前でいちゃつかないの。今度は私たちに参らせて」
 お姉様が私たちを押しのけるとまた驚くような言葉を言う。みんな、私が眠りから覚めてこの時代に生きていることを感謝してくれていた。あのシュテファンお兄様まで。私はそんなに偉くないのに。
「それでいいんだよ。エミーリエはエミーリエ。それが一番の贈り物なんだ。可愛い俺の奥さん」
 そう言って優しく抱きしめてくれる。村長とディルクさんはなんだか涙ぐんでいた。
「僕、ここにいるのに。みんなして死んだことにしてるね」
「ヴィーはヴィーで陛下と違うのですよ」
 最後にヴィルヘルムとフリーデがそんなやりとりをしながら墓参りをしていた。そう。ヴィルヘルムはヴィルヘルム。おじい様はおじい様。違うのだ。同じ魂でも。時代も環境も身分も違う。もう別々の人間なのだ。
 不満そうなヴィルヘルムのおでこをデコピンする。
「やーい。おこちゃまー」
「あーねーうえー」
 狭い道を行ったり来たりして追いかけっこする。
「エミーリエ。危ないからダメ」
 クルトがひょいっと横抱きに抱えて元来た道を歩き出す。
「クルト?」
「もう、明日には次の用事が待ってるよ」
 その言葉で背筋がしゃんと伸びる。本来の目的。あれを返す時がきたのだ。
「大丈夫だよ。今のエミーリエなら」
「クルト?」
「旦那様」
「はい。旦那様」
 いつものやり取りをしてるとお姉様の声が飛んでくる。相変わらず、いちゃついてしまう私達だった。明日が心配だわ。
 それになぜか太鼓判を押す旦那様だった。どうしてかしらね?


あとがき
翌日のはずが、いつの間にか墓参りの後になってたりして、大慌てしました。帰りのバスの中で訂正して、家で、さらに訂正。もともと墓参りの後にしたというのを付け加えていたのですが、やっぱり次にしようと文字を書き換えたのでした。ラスボス戦です。お待たせしました。でも物分かりのいいラスボスで。ここも少し変えようかな。明日見直しておきます。ここは明日、予約投稿ということで朝に慌てないで済むようにしておきます。訳ありを引っ張ってきているのですが、長い。めんどくさい。続きをどう書くの?状態。読み直しが必要。とほほ。その合間はストックから。星降る国物語も終わりましたしね。スピンオフストーリーを作りたいですが。明日行けば公休ですが、通院です。スマホでしっかりと遊んできます。電話でなくテキストを見て書くという。訂正かな? 訳あり追っかけておきます。これも長いから見捨てられそうですが。ま、113まであるのでそれまでよろしくお願いします。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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