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【連載小説】ファンタジー恋愛小説:風響の守護者と見習い賢者の妹 第三十六話 アデーレという名の姫君

前話 

 リリアーナとセイレンはシルフィが変幻した雲に乗ってエンシャントウッドを目指した。いつもの見慣れた高い位置からの景色とは違う、緑の多い土地にリリアーナは見えた。
「すごいわねー。こんなに森があるだなんて。水の国にも森はあるけれど、こんなに深い色の森ははじめて」
 しみじみというリリアーナをセイレンは意外な視線で見ていた。いつも、大騒ぎしては兄のレオポルトの拳骨をもらっているリリアーナではなかった。知らないリリアーナがそこにいた。
 声を掛けるのもためらわれるほど、今のリリアーナは触れると壊れるガラス細工のようだった。レオポルトにしてみればこちらが元、アデーレだったリリアーナと言いそうだが、セイレンはそれを知らなかった。
 それを知ってか知らずか、ぽつん、とリリアーナが言う。
「私、本当はアデーレという名前なの。お母様がつけてくれたの……」
「じゃ、リリアーナというのは」
「偽名よ。お姉ちゃんが氷の国に忍び込むためにつけてくれたの。その名前を、リリアーナという人生を自分で選んだの。だから、私は本当の自分が二人いるの。お母様をいらない、と言って幽閉させたのも私。でも、お母様はずっと私の事なんて関係なかった。アデーレとも言わなかったわ。だから捨てたの。お母様ごと。でも、今になってそれが本当に良いことだったか解らなくなるの。兄とも血はつがっていないの。お母様とアドルフの娘なの。だから本当は姫というのもおかしいわ。おにいちゃんと血がつながってないんだもの。でも、あのアドルフの娘のおかげでお爺ちゃんに見いだされた。皮肉ね。姦通の両親から魔力をもらっただなんて。アドルフを父とも思ったこともないわ。でもお母様は違う。産んでくれたのはお母様。自分の最初の瞬間はあの方からもらったの。命も。すべて今までの私を形作っているのはお母様だわ。お母様がお利口にしているといつもお菓子をくれたわ。お兄ちゃんは忘れてしまえ、って言うけれど。あのお菓子の甘さは忘れられない。あの時だけお母様は私を見ててくれた。戦いの最後にお母様は私に命乞いをしたわ。何度もアデーレと泣いて叫んでいたわ。でも、その時、私はお母様の事も何も考えたくなかった。アデーレじゃない。リリアーナだわ、って。セイレンも偽名よね。その名前で生きて行くの?」
 不思議な色をたたえたリリアーナ、いやアデーレに戻った姫がセイレンを見る。
「僕は……」
「僕は?」
 長い沈黙があった。
「セイレンとして風の国を取り戻す。ゼフィリスは摂政政治の名前だ。そして代々続いてきた転生王の名前。僕は前の国王とは違う。だからセイレンの名前をとる。そして『竜巻の雲の国』から『雲海の輝きの国』に変えるんだ」
「セイレンは、ゼフィリスは偉いのね。偽名で人生を勝ち取ろうとしているのね」
 また、ぽつん、とアデーレは言う。
「摂政大臣がつけてくれたセイレンが僕の名前なんだ。摂政大臣はずっと僕の祖父、父親代わりだった。今は生死も行方もわからない。だけど探し出す。あの人を置いて僕の父と言える人はいない。アデーレ、リリアーナでもいいよ。だけどお母さんには産んでくれてありがとうって言ってあげて。一緒に住むのは無理だよね。政治犯だから。一応はあの戦争の事も耳に入ってきている。アドルフとマルタ、君のお母さんが起こしたクーデターと聞いてる。兄さんも苦しんでいる。父親の前国王と会おうしていて前国王は自死したんだから。わかり合えたかもしれないのに」
 うつむきがちだったセイレンの顔が上がってアデーレであり、リリアーナである少女の顔を力強く見つめる。
「リリアーナは兄さんと同じことしちゃダメだよ。その人が死ぬ前にちゃんと産んでくれてありがとう、って言うんだよ。その人がいないと生まれなかったんだから。そうだね。結婚する相手です、って僕も連れて行って。お母さん初めまして。娘さんをもらいます、って言いに行くから」
「せ、セイレン? 今、自分が言ったこと解ってる?」
 リリアーナが驚愕の表情で見ている。
「何? 何か変な事言った? あ、お婿さんね。いいんだ。それで。ずっとリリアーナを見ていたい。お爺ちゃんお婆ちゃんになるまで。って。アレ? これってプロポーズ?」
「そうよ。プロポーズよ! こんなややこしい子をお嫁さんって困らないの?」
「だって、それがリリアーナだもの。あ。アデーレがよかった?」
「セイレーン!!」
 リリアーナがセイレンを押し倒す。そこへ人の足が当たった。
「ん? セイレンじゃない。セイレンの足はこっちよね。頭の足は……?」
 そっと上を見上げると老賢者風にローブを纏った女性がいた。
「その年で押したおせるのは水の国のリリアーナ姫だね?」
「あ、はい。リリアーナです」
 シルフィから降りて直立して返事をするリリアーナである。シルフィは消え、乗っていたセイレンは急に地面に落ちた。
「痛っ!!」
「あ。セイレン大丈夫? こちらがセイレン、という元風の国の王様です。先ほどは失礼いたしました。わた……わたくし……はっ。リリアーナと申します。アルシャンドール様ですね。此度は……」
「ああ。もう、使い慣れない言葉を使わなくても良いんだよ。本当の自分でいられれば。リリアーナは二人の自分の前で迷ってるんじゃな? セイレンとやらは決めているようだが」
「お恥ずかしいながら、未熟者で……」
 リリアーナがポリポリ側頭部を掻く。
「まぁ、いい。二人の事はアシャードから聞いている。リリアーナは爺ちゃんと言ってくれるとうれし泣きしとった。私もちゃ婆ちゃんと呼べばいい。とくに必要な名前ではないのでな。二人にはエレメントマナという、魔法の基本を教え込むことになっている。レオ王はおらぬのだな」
「二人で行けと言ったきりです」
「ああ。悲しむことでもない。あの王は聡明だ。仕える者も確かだ。おまえさたちの使命と解って送り出したのだ。無事、エレメントマナを習得して、兄を喜ばせればいい話。さて、行くぞ」
「行くって、目の前に木が」
 リリアーナが言ってる間にアルシャンドールはすっと森に入っていく。
「行こう。リリアーナ!」
 セイレンが手を取って入る。不思議な感覚の壁を通って二人はエンシャントウッドの名前の由来にもなった森の中へと入っていった。


あとがき
ついにまた二千字越え。リリアーナが話しすぎ。でも必要な説明なのよね。二部だけ読んでいる人に対しても。かなり訂正はしたつもりです。お母様とお母さんが混じってたし。ユレーネの母がリリアーナにとってのお母さんです。様つけると暗い過去がでるんですね。
で、いつまでもフォローさせたままでは可哀想かとある方をフォロバして通年記事にスキがはいったので、一応、どんな人だろうかとさっき見ると全記事売ってました。そう言う人は即ブロックです。よくチェックしなかったのも悪いけれど。うちにお金はございません。野球も見る気力失せるし。今日、出社拒否症で結局欠勤。帰って泣きました。まともに一週間のスケジュールをこなせていません。いろいろ試行錯誤はしてますが。今日は早めに眠ります。ってこれ出る頃は次の日。早めに二話書けました。で、漢検もテキストと模擬テストができたので、もう諦めて寝ようかと。また、症状が悪化。昼間、椅子に座ったままで30分以上寝てました。かと言って鬱々言う気は無いので、これ以上書きません。眠いので、睡眠不足で睡眠負債がたまっているようです。ここ数日六時間眠れません。ああ、愚痴るのは止めようと思うのに止まらない。こりゃ、手でアウトプットだ。って血糖値測定だー。下がっていると良いなー。ここまで読んで下さってありがとうございました。

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