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【連載小説】ファンタジー恋愛小説:影の騎士真珠の姫 第二十四話 死と再生の奇跡

前話

 ミスティック・ローズの毒はすでにフィーネペルルの全身に回っていた。それでも中和剤を飲ませると少し唇の色が回復していた。あとは本人の意思だけ、と言われたヴァルターは何日もフィーネペルルの側に座って手を握っていた。
「どうして、君はそこまでしてくれたんだ。私には記憶がなくても姉には変わりはない。記憶のないままで生活しても良かったのに……」
 力のないフィーネペルルの手を握り、唇をつける。まるで自分の命を送れればと言うように。
 どれだけそうしていたか、フィーネペルルがかすかに体を身じろがせた。
「フィーネ!?」
 部屋の外で同じように見守っていたカタリーナとライアンに言う。
「フィーネが勝った。もう少しで目覚める!」
 部屋の外が慌ただしくなる。そしてヴァルターが部屋へ戻ると不機嫌そうなフィーネペルルが身を起こしていた。
「目覚めたときにあなたがいないのはどうしてかしら?」
 頬を膨らませて言うフィーネペルルの頬にヴァルターはキスをすると強く抱きしめる。
「フィーネ! 生き返ったんだね」
「元々死んでないわ」
 相変わらず、構っていないと不機嫌なフィーネペルルになっていた。それを嬉しく思うヴァルターである。
「ヴァルト、泣いているの?」
「いや、目から水が出ているだけだ」
 そう言って顔を見るとフィーネペルルは不思議な顔をしていた。それから近くにある果物ナイフを手に取る。自分の手を切りつけようとして慌ててヴァルターが取り上げる。
「何をしているんだ!」
「ないのよ!」
「ないって何が」
 今度はヴァルターが不機嫌になる番だった。
「力を感じないのよ。せっかく後方支援に行こうと思っていたのに!」
 フィーネペルルのその言葉をやっと理解したヴァルターはフィーネペルルをまた抱きしめる。ヴァルターの口に微笑みが浮かぶ。
「変わった姫だね。あると困ると言うし、なかったら困ると言うし……。君は全ての治癒能力を使ってこの世界に戻ってきたんだ。死んでまた生き返ったんだよ。影をすべて受け入れて影が君の中に入っていたんだ。もう、力におびえて暮らすこともないんだよ」
「でも! 後方支援が!」
「後方支援なんて出なくて良い。出てもいろいろな役割がある。兵士達の胃袋を満たす料理人の仕事も武器を直す職人もいるんだ。治癒だけが後方支援じゃない。それに、君は母君からけが人を治療する方法を教えられているはずだ。それだけでも戦士達には十分なんだよ」
「ヴァルト……。私はここで死ぬとずっと思っていたの。だから、あの簪とっても嬉しかった。最初で最後の贈り物だったから」
「簪ぐらいならいくらでも買う! どうして君はそんなに純粋なんだ。人を救おうとするんだ」
 私は、とフィーネペルルは言う。
「あなたにもらった無償の愛情をそのまま返しただけよ。ずっと見守ってくれていたあなたへの贈り物だと思っていたの。でも、違ったようね。カタリーナとライアンが鬼の形相だわ」
 ヴァルターの肩越しに見るもう一組の恋人達がお説教をせんとして部屋の入り口に立っている。
「ライアン、カタリーナ様、フィーネを許してやってくれ。フィーネは私の姉を助けることだけが私の幸せだと思っていたんだ。それにあの影ももうフィーネは受け止めた。そのためだけに私はフィーネの側にいて恋をした。私からキツく言うから今日は許してやってくれ」
 恋人にとことん甘いヴァルターの嘆願にしかたないわね、とカタリーナが言う。
「フィーネはヴァルター様しか目に入っていないもの。さぁ。しばらくこの国に逗留した後はまた過酷な旅よ。今のうちに幸せを堪能しておきなさいね」
「カタリーナ」
 部屋から出て行こうとしたカタリーナをライアンが追いかける。
「ライアン様も大変ね」
「君が一番厄介なんだ!」
 そう言って赤くなっているフィーネペルルの鼻をつまむ。それを振り払うとフィーネペルルはヴァルターの首に手を絡めてキスをねだる。あいかわらずのお転婆ぶりにヴァルターは文句を言いつつも久しぶりのキスを味わったのだった。


あとがき
出ました。いつもの常套句。「死と再生」。これ、ユングでもかなり重要なテーマで、何故か私もこのテーマを知らず知らずのうちに背負ってたんです。気づいたら罵詈雑言受けて病んでました。おかげでこの状態。まぁ、一般就労ができて自立の道も歩み始められたので、いいのですが。あの時、あれだけ死を恐れている人に死を突きつけなかったらこんな回り道は回らなかったでしょう。
でも、起のお姉様としてはこれもただでは転ばない。すべて小説の糧とさせて頂いています。

長々書いて眠気にまかせて打っていたので消しました。思考能力が働かないー。寝ながら野球見ようかな。甘い物も食べたい。クーリッシュ食べたい。

ここまで読んで下さってありがとうございました。

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