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【新・ロマンス・ファンタジー小説】あなただけを見つめている……。 第一部 クロスロード 第一話 最初で最後の恋

前話

 飛行機の中で当騎は数学書を開いていた。步夢はなにかパソコンを開いている。
「悠長だな。途中で負けんなよ。決勝に行くぞ。一緒に」
「わかってるわよ。私が勝てば聞いてほしいことがあるから。楽しみにしててね」
 顔を上げて少し笑うとまた無表情でパソコンに向かった。当騎の中で何か嫌な予感がしていた。あゆが変わりすぎる。まるで、自分のようだ。完コピしている。いつも、数学と英語で泣いていた甘えたの少女はいない。吉野に何があるのだろう。
 当騎は暴挙にでた。步夢の靴を放り出すと足の裏をくすぐりだした。
「ちょ、ちょっと何を……!」
 VIPルームに少女のけたけた笑い声が響く。その仮面を崩したかったのだ。すましている、というのでもない。なにもかも秘密にしてこらえている步夢。
 步夢がソファからずり落ちる。顔が近い。動きが止まる。空気も時間も止まった瞬間。当騎は真剣な目をして聞く。
「何を隠している?」
「……なにも」
「嘘」
「本当よ」
 まっすぐな目で見てくる当騎に步夢はまっすぐ視線を返す。どこまで隠せるか。步夢は内心動揺していた。だが、姫巫女として築き上げた表面が步夢を守っていた。すいっと当騎が最初に顔を背けた。
 その後ろ姿にすがりたいような気持ちになったが、あえてこらえた。どっちにしろ一緒になれないのだ。最初で最後の初恋。步夢は座り直して鞄をあさる。
「ババ抜きしよ」
 步夢の無邪気な声に当騎がうなだれる。
「どっちかに絶対ジョーカーあるやんか」
 拍子抜けして関西弁がでる。
「懐かしいわね。関西弁。いつ以来かしら」
「俺が勝ったら隠し事全部話せ」
「じゃ、やらない」
「ほう。語るに落ちたな。隠し事山ほどあるんだろ」
「まぁね。最大級の隠し事は大会の決勝の場でね」
「いいか。俺が勝てば全部話してもらうぞ。あと、デコピンとこちょこちょの刑だからな」
「わかった」
 真剣な目をしてうなずくと步夢はパソコンをしまって数学書を取り出した。当騎と同じ本だ。当騎も本を開けて向かい合って同じ本を読む。会場のローマまで二人は数学の鬼となっていたのだった。

 この未来でもローマには過去の栄光の偉大な遺跡が所狭しとあった。步夢は「ローマの休日」を思い出していた。あの王女も最後の恋だった。デートして。そういえばショートカットにしたっけ。
 物思いにふけっているとごん、と頭に本が落とされた。
「当騎! ロマンティックに浸ってるのに」
「ローマの休日はあとでしてやる。ホテル行くぞ」

 !

 私、独り言言った? いや。ぼーっと突っ立っていただけだ。また当騎は心の中を見通す力を持っているらしい。
「お前の考えてそうなことはぜーんぶお見通しだよ」
 そう言って耳を引っ張って連れて行こうとしてはたと止まる。
「いや、わからんこともあるか。その節には十分説明義務を果たしてもらおう。行くぞ」
「痛いって。歩ける!」
「そうか」
 当騎はあっさり手を離すと普通に歩き出した。そのポーカーフェイスの下で何を考えているのか。
 天才さんの思考は難しいわね。
 当騎の素性を知っている步夢はすぐに別れる人生の道を思いながらもしっかりと当騎の後を追った。


あとがき
ローマの休日とはえらい古い映画ですが、元々生きていた時代は昭和。知識は未だ彼らは昭和に支配されているのです。それなりに未来で生きてきたわけですが、基本変わらない。この最初の話も過去のシーズンから読まないとわからないのですが、オリジナル色を出すには二次の作品のシーズンを出すわけにはいきません。完全オマージュを目指しています。今日作った梅雨の画像は当分お披露目がないです。まだ、春なんで。この出だし。帰国してからの衝撃の展開になるのです。次はいちゃいちゃかもしれません。しかし、二人ともお利口さんになったら書き手は苦しむ。補完関係が成り立たない。成り立つんでしょうか。なんで飛び級してんの。と突っ込む私。女の子のイメージを正反対にしたかったんです。今までと。とするとキャリアウーマンなんですよね。ので、初姫巫女の座に座った步夢でした。ここまで読んでくださってありがとうございました。

明日は書けるかな?

期待せずお待ちください。

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