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いらないよ、きみに届かぬ声なんて 071










小学校に上がったばかりの母の日、貯金箱から出した500円玉をにぎりしめて、お母さんがいない隙に公園を抜け出して、近くのお花屋さんでカーネーションを一輪買ったことがある。

驚かせようとカーネーションを服の下に隠して戻るとお母さんが迎えに来ていて、公園を抜け出したことがバレて結構強めに叱られたけれど、「これを買いに行ったの……」とカーネーションを服の下から出したら、お母さんはそれ以上なにも言えなくなっていた。

どうやらそのカーネーションが枯れたときにわたしは泣いたらしいのだけれど、それは覚えていない。

そしてわたしは今年も母の日にカーネーションを贈った。

もうわたしは泣かないし、お母さんが本当はお花を好きなことも知っているから。





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