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Lars, Lucy & 8Legions「Lars Lucy 8legions」について(前編) 「語られていないものを語る」第一回 (機械、音楽、環境)

「語られてないものを語る」第一回は謎のアーティストLars, Lucy & 8legionsの1stアルバム「Lars Lucy 8legions」について可能な限り深く、語り、紹介していこうと思う。

キーワードとなるのが「機械、音楽、環境」ということで、これは初回の語ってもらう相手として付き合ってもらったStudio Marusan. のテーマであり、今後も彼と語る際にはこの副題が付くだろう。軽く自己紹介を。

 初雪緑茶(@AliceRyokutya)
この企画を思いついた人。日ノ本のオタク。音楽に関してはド素人。今回はMarusanの語りを進行しつつ、アニメカルチャーの視点からアレコレ言う。
 Studio Marusan. (@RyutaroKawamura)
初雪緑茶の友人で、音楽を作ったりプログラムを使ったアートを探究したりしている。しばしば緑茶に「マイナー」な音楽を教えている。

0、この企画について

これについては別途書いているので、そちらを。
Larsについて読みたい、音楽の批評(というよりこの文章は本に対する書評に近い)に興味があるという方はこのままお読みください。

なお、この記事は2021年5月12日に行ったSkypeでの会話を元に文字起こししたもので、(括弧)による補足や一部表現の変更以外は会話をそのまま文章にしている。「語り」を文字で聞くということを楽しんでもらえれば。

1、Lars, Lucy & 8legionsとは何者か?

初雪:早速始めて行きたいけど、Larsってマジで語られてないじゃん。少なくとも日本語である程度の文字量をもって書かれているサイトは見つからなかったし、俺はそもそもあの人たちが何者なのか、なんにも分からないし。
だから、まずはLars, Lucy & 8legionsとは何者なのか?ってところを話した方が良くて。

Marusan:そうね。

初雪:まずLarsってコレねってなるのが彼らがYouTubeに挙げてる動画だよね。(知らない方がほとんどだと思うので、まずは見てみてほしい)

Marusan:うーん、どうしようかな。単なる知識を言っていくと、この人はLars Dietrichっていうジャズ系のサックス奏者で、10歳ぐらいのときからサックスはじめて、ちゃんとした音楽の学校通って、ジャズミュージシャンに師事して……で、これはApple Musicにも入ってるんだけど2009年には「Breek de Grond」っていうリーダーアルバムも出してて。
それでLarsの紹介に関してはこのサイトがちゃんとしてた。

(リーダーアルバム…Larsのリーダーアルバムという場合、Larsが中心となって演奏する曲を決めたり、作曲したり、メンバーを決めたりして、Lars名義で作品を出したということ)

初雪:この名義では他に出してるの?

Marusan:もう一つぐらい出しているかも(2011年に「Stand Alone」というソロアルバムを出している)。サックス奏者としても「The Story」っていうピアニストのJohn Escreetらと組んだバンドやってたり。まぁこのサイトがどれほど正しいのか僕には分からないけど、「ジョン・コルトレーンやチャーリー・パーカーなどのジャズのレジェンド、エイフェックス・ツインやスクエアプッシャーなどのエレクトロニック・ミュージシャン、ヒップホップ・アーティストのJ・ディラなど」からも影響受けているって書いてあって、実際このアルバム(「Breek de Ground」)を聴くと、最初の二曲はジャズなんだけど、三曲目とかは(多分)全部打ち込みで作ってるし。

初雪:なるほどね。

Marusan:まぁジャズといっても、すごい「作られてて」、これはLars, Lucy & 8legionsにもつながる。

初雪:「作られてる」っていうのは一つキーワードになるよね。

Marusan:コードがなってて、そのうえでメロディー弾いて、ソロに入っていくみたいなのがジャズだと思うんだけど、Lars(バンド)はサックスが二人いてそれを複雑に重ねたりとコンポジション(作曲構成)がちゃんとしているんだよね。凝っているというか、僕の言葉で言えばそれは「エラボレーション」なんだけど。凝った変拍子とかも使ってるし。

初雪:それは俺でもわかるな。
それで、Lars, Lucy & 8legionsは何人で作っているの?

Marusan:これは一人だよ。LarsとLucyと8legionsっていう。

初雪:まずその名前について語った方が良いね。

Marusan:だからLucyと8legionsでしょ。女の子と男の子。

Marusan:まぁナニコレって感じだけど、legion……軍隊なのか。

初雪:LarsとLucyは人名だから分かるけど、8つの軍隊って・・・

Marusan:まぁそういう「ひと」なんだろうね。

初雪:まず彼らをどう呼称すればいいのかって問題だよね。キャラクターなのか?少なくとも(Lucyみたいな)固有名じゃなくてさ。

Marusan:これは音楽機械だよ。

初雪:機械なのかな?

Marusan:これは「機械」でしょ。一般的な意味とは異なるけど。(ここでは、ドゥルーズやガタリによる「機械」概念を想定している。)

初雪:だよね、一般的・古典的な機械っていうのはキャラクター性・人格性からは切り離されたものだから。

Marusan:まぁその前にもっと概要的な話をしておくと、Larsは2006年ぐらいからAbletonのDAWを使い始めて電子音楽とかやり始めたんだけど、Lucyと8Legionsは、MIDIコントローラーやAIテクノロジー、アニメにインスパイアされたビジュアルを組み合わせたもので、「これらは一緒にWorkするための道具である」と、楽器のパフォーマンスの限界を押し上げるものである、一緒に演奏するロボットである、と言っているわけだよね。

Around 2006, Dietrich began to experiment with the Ableton DAW (Digital Audio Workstation), exploring crossover ground between electronic and acoustic outputs. Dietrich’s robot musicians LUCY and 8 LEGIONS combine MIDI controllers, AI technology and anime-inspired visuals. “They’re tools for me to work with,” says the artist, who views these pieces as a means to push the limits of his instrumental performance practice. “When you re-route your instruments to robots they can play whatever you write or invent immediately. They can play tempos that are humanly impossible.”
(https://coleccionsolo.com/artists/lars-dietrich/から詳細を引用)

Marusan:だからMIDIとか使ってるわけだよね。この1個1個の機械は面白いと思うよ、どの機械にどの機械が接続されてるのか、とか。
ただこれはLarsがそんなに明確に説明しているわけではないから・・・

初雪:まぁMIDIとかAIとかは素人の俺でもわかるけど、それ以上はね。

Marusan:ただこの間Lunaっていう新しい家族が増えたよね。

初雪:そうね、家族だからね。

Marusan:だからこれ次はアーティスト名変えなきゃまずいんじゃないか?

初雪:少なくともアルバム名は「Lars, Lucy, Luna & 8Legions」になるのかね笑

Marusan:かもね。
でまぁLarsっていうひとはオタクであり、ギークなんだよね。動画とか見ても『AKIRA』とか出てくるしね。

初雪:あぁそこ触れちゃう?後で掘り下げようと思ってるんだけど、絵がアニメ調であるってことも併せて。

Marusan:まぁ一度触れておく。あと、この動画っていうのもLarsにおいて重要だよね。

初雪:そうね、やっぱり私もこの動画から知ったわけだし、音楽だけ聴いてもすごく良いとは思うけど、そこまで特異ではないわけだ。視覚的にもね。

Marusan:そうなんだよ。これは一般的なことだけど、音楽について語るときに純粋に音楽についてだけ語ろうとすると、誤ることがある、っていう。
僕もこのアーティストを人に勧めるときにはやっぱり動画を勧めるよね。視覚的なインパクトが凄い。アニメ的なビジュアルカルチャー、イラストだけじゃなくてこの、機械が接続されているっていう。

初雪:そうね。『serial experiments lain』に代表されるような、~90年代ごろにあった美少女と機械との融合っていうフェティシズムだよね。製品よりもはるかに生身というか、内側が出ている機械に対する、我々が使っているPC のような製品にはないフェティシズムというか。

Marusan:あるよね。まぁこれは後でまた触れよう。

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アニメ『serial experiments lain』layor:10 LOVEより

初雪:Larsっていうアーティストについての紹介はこれ以上はない?

Marusan:かな。あとはアムステルダムで活動しているってことぐらい。

初雪:オランダだともっと語られてたりするのかな?

Marusan:どうだろう?「Lars Dietrich」で検索しても僕が調べた限りでは、あんまりヒットしないけど。

初雪:まぁ調べ事における言語による限界ってのはあると思うけど。

Marusan:でもそんなに語られてないと思うよ。この人Instagramとかもやってたり、ネット上の番組に出たりもしてたと思うけど、圧倒的にフォロワーが少ないよね。

初雪:Twitterとかも少ないし。

Marusan:だってYouTube(のチャンネル登録者数)が6300だよ!?ちょっとこれはunderrated(過小評価)だよね。ビックリだよ。

初雪:私も他に知ってる人には会った事がないなぁ。

Marusan:でも小西遼っていう日本のサックス奏者が転調って側面からサラっと紹介してたりはする。

初雪:私もそれしか見た事がない。

Marusan:でも重要なアーティストではあると思う。

初雪:Apple Musicとかだとタグはエレクトロニックになってるね。

Marusan:というか、もうジャケがエレクトロニクスだからね笑
ギークだよねやっぱり。

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アルバム「Lars Lucy 8legions」のジャケット

初雪:今はアルバムが一枚しかないから、ジャケの顔としての性質が強いよね。
じゃあ次は「機械」について掘り下げて行こう。

2、楽器、機械(もの)、人間

Marusan:やっぱり「機械」だよね。これが分からない。

初雪:まずMarusanのいう「機械」について話そうか。

Marusan:工場みたいなあらかじめ機能が決められたものが同じように動くというものじゃなくて、異質なものが隣り合うことによって、そのあいだに流れがある種偶然的に生まれたり、同様にそれが断ち切られたりするようなものとしての機械。だからそういうことを考えると、Lucyや8legionsは楽器なのか、っていう話とも繋がってくるのかな。

初雪:それは人間同士では、やはりだめなんだよね。

Marusan:そうね、人間同士(のインタラクション)ってのはやっぱり象徴的すぎる。人間同士の間にも「機械的」な関係は生まれ得るけど、それこそディスコミュニケーションとか。でもものとかの方が生まれやすいよね。

初雪:で、今さっきMarusanが言ってくれたけど、まずこれは楽器なのか?っていう。

Marusan:そこも含めて…まずMIDIとかもそうだけど、僕が最初にこれを見たとき「どこまで作曲してるんだ?」っていう風に、僕自身がGenerative Music(プログラムによる音楽の自動生成)とかやってるからその方向で考えてしまったのだけれど、にしては曲が作られすぎている、っていう。
ある意味ではだと思うんだよね。でもこれを自動生成するのは無理だな、と。
動画見てると、(LarsとLucyや機械たちが)一緒に演奏してたり、メロディーをユニゾンしてるところもあるし。コード進行が決まってないと、そのうえで綺麗なソロは取りづらいだろうし、割と前もって作曲してるのではないかと。
だから基本的にはMIDIで作って、演奏させていると思う。

初雪:それだと単なる楽器だよね。データを作ってそれを読み込ませるってのは普通の人の、楽器としてのボーカロイドとかの捉え方じゃない?

Marusan:一見そうなんだけど、一旦話が飛ぶけど、(僕は)技術的にはまだ追いつてないんだけど、物理モデリングを使った作曲をやってみたいと思っていて。それはジャズミュージシャンがAphex TwinやSquarepusherのようなエレクトロニック・ミュージックをカバーすることがあって、ああいうのを聴いていると想像力が逆転しているというか、リアルな物理モデリング、そういう感じがしてきてたんだけど。

初雪:リアルな物理モデリングっていうのは、電子的なものを人が生演奏するっていう逆転?

Marusan:うーん、エフェクトとしての楽器というか、リアルの楽器がほとんどコンピューター内のInstrument(音源)と変わらないっていうか。

初雪:それは技術的に?

Marusan:いや、音響的にというか聴くときに。本当はMIDIで演奏するのと楽器を演奏するのは本質的に違うんだけど、MIDIの演奏データに対していろいろ楽器(音色)を変えられるように、その軸のなかに生演奏も入っているという

初雪:ああ!MIDIという規格で演奏できる様々な楽器の一つとして生演奏があるっていう倒錯ね。
でもそれは楽譜というメディアそのものがもつ性質では?MIDIとかの新しい技術によるものではない、っていうのは重要じゃない?

Marusan:そうね、楽譜がすでにそれを用意していた、という。ただ、楽譜とMIDIが違うのはMIDIはそれ自体が鳴るっていう。これはプログラム一般の話なんだけど。
でもそういう(ジャズアーティストたちによる電子音楽のカバーと)Larsは違っていて、一段二段と複雑な感じがする。ちょっと曲そのものというかコンポジションについて触れていきたいんだけど、ちょっとしたメモがあって・・・

挿入 割り込み
急発進・急停止

機械的(サウンド/コンポジション)

感覚を転ばせるズレ
ミクロ・シンコペーション

転調
(Marusanのメモ)

Marusan:挿入とか割り込み、流れに合わないぐらいにドラムのフィルインとかがあって。

(フィルイン…例えば同じビートを刻むドラムが、曲が展開する時などに、一旦そのパターンを崩して装飾的なリズムを叩いたりすること)

初雪:具体的にココって言える?

(アルバムの何曲か視聴)

Marusan:普通に「Lucy」(三曲目)とかでも入ってるけど、連符というか早いパッセージだよね。あと急停止・急発進。
それから、すごい刻むんだよね彼の音楽は。
曲が凄く複雑に進む一方で、8ビートとか4ビートとかの単調な刻み。これはドゥルーズ=ガタリの「リトルネロ」とかとも関わってくると思うんだけど、むしろ執拗に刻むっていう。でもそれが急に途切れたりもする。

初雪:「リトルネロ」っていうのは?

Marusan:リフレインだよね。この例は『千のプラトー』だったかな?子供が森の中の帰り道で不安なときに口ずさむ歌とか、鳥が自分の領土を示すときに歌う歌であったり、繰り返し口ずさむことで自分の領土を生むとともに、繰り返しが差異を孕み、その領土から離れる契機を生むっていう両義的な。(Marusan流の解釈。)

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初雪:自分を落ち着かせるために繰り返しちゃう口癖とか、か。

Marusan:つい顎に触れちゃう、みたいな体のクセとかもそうかもね。ただガタリ関連の文献とかを読んでいると、リトルネロが直接的に音楽と結び付けられているのも結構あって、それはそれで面白いんだけど。
まぁこれはジャズとも関係してて、リードシートっていうコード進行とかテーマ(メロディ)とか小節が書いてある簡易的な楽譜があって、皆それを覚えて弾いてるわけだよね。それを頭の中でキープしているからこそ色々と自由に逸脱できる(今ではだいぶ形式化されているという側面も多分にあるが)。
Larsの場合はそれがMIDIになってて、機械がそれを画面上でキープしてくれるわけだ。だから機械的な操作、切断や挿入がパソコン上では構成とか考えなくても、置けば鳴るから逸脱がしやすいっていう。これを楽譜でやると結構大変だし複雑になると思う(例えば、あるパートの演奏を全部64分音符だけずらすような操作を想像してみてほしい)。まさにビジュアルに音を配置できてしまうという、ビジュアルな即興みたいなことができるんだよね。
それがもともとジャズの経験もあるLarsだからこそ、そのコードやメロディーを構成していく力と、今言ったMIDIの特性が合わさって最終的に凄い面白い、特異的なコンポジションが出来上がってるんじゃないかな。

初雪:最初のそもそも楽器なのか?っていうところに戻るけど、このメモの「機械的(サウンド/コンポジション)」っていうのは?

Marusan:それはサウンド面でもコンポジション面でも機械的だっていう。この「ミクロ・シンコペーション」も、今言った「急発進」とかも、MIDIという技術だからこそ可能になるコンポジションなんじゃないかな。サウンド面でも、これは映像見てると分かりやすいんだけど、「ガチャ」っていう音だよね。

初雪:機械そのものの音、作動音か。

Marusan:打ち込み感っていうのもあるけど、これは伝統的な意味での機械だね。

初雪:Lucyと8legionsの声っていうのは?

Marusan:あれは普通に音源なんじゃないの?サンプリングも使ってるとは思うけど……あれ凄い良いよね。
歌じゃないんだけど、(Lucyの)「Hey, I'm gonna start.」とか(動画冒頭)好きなんだけど、それとは別に歌的なものもある。

初雪:映像だとキャラクターが口動かしてるから、よりそう見えるよね。

Marusan:たぶんこれMIDIに合わせてるんだけど、ボーカロイドみたいに歌詞がついてるわけじゃないから、そういう音色なんだろうね。
どこまでMIDIの音源なのか、機械=ものの音なのか。
ドラムは動画見ればわかるけどものの音なんだよね。
サーキット・ベンディングっていう、元からある機械を弄って変える、例えば子供のときに使う音が出る玩具とかを改造して使う、みたいなのがあるんだけど、他の音色に関しては基本的にそれをやっているね。Lunaの動画を見ればわかりやすいね。

Marusan:これは子供用のキーボードみたいなのを改造しているわけだよね。他の動画を見ても、機械制御のキーボードを弾いてる場面があるよね、Lucyの下にあるやつとか、ベースとかも機械が動いてるのが確認できる。これ、MIDI音源を鳴らすためにわざわざやってたらバカだよね(MIDI音源を鳴らすためにキーボードを使うのではなく、キーボードを使うために、あるいはキーボード自体から出る音を鳴らすためにMIDIのデータを使うという倒錯になってしまうという意味において)。
キーボードのカチッっていう音、菊地成孔=大谷能生が『憂鬱と官能を教えた学校』(2004)で佐々木敦の概念を借りて「テクノイズ」という言い方をしていたと思うけど。

初雪:ものそれ自体の音ね。

Marusan:ピアノの鍵盤が戻るときの音とかもそうなんだけどでも、、それを鳴らすためだけにやってるわけはないよね。子供の玩具を音源にしてる。

初雪:それはその音が欲しいからなのかな。

Marusan:それも含めてフェティシズムだと思うよ。これは聞かないとわからないけど、単純に面白いってのもあるだろうし、ギーク的な探究心もあるだろうし、このアニメ調の映像がテレビに映し出されているのに子供用の玩具が繋がれて、歌っているみたいなアニメ的なフェティシズムの複合体って感じがするけど。
この「Luna beta test」っていう動画にはそういうのが詰まってると思う。

Marusan:顔はすごくかわいいんだけど、手は完全に機械のそれっていう。それがこのキーボードを弄ってるっていう。これはもうアートだと思う。スペキュラティブ、まだ来ていない音楽を想像させる、この音楽自体はあるんだけど、まだ来ていない音楽の形態をも同時に喚起させるみたいな。そういうワクワク感もある

初雪:そのワクワク感ってすごく重要だと思うんだよね。最初に見たときに感じたのがそれで、現実にある、というかそれこそアニメーションで(画面的に)同じものは描けたと思うんだよね。でもそれを現実のものでやっちゃう、というワクワク感は間違いなくあると思う。

Marusan:ワクワク感と現実感、アクチュアリティっていう、まさにそこなんだよね。

初雪:彼ら彼女らは正面しか向かないよね、平面的なLive2D的な。

Marusan:Lars自身がLive2Dだと言ってるね。

初雪:だからイラストを動かすっていうのが基礎にあるわけだよね。だから正面しか向けない。

Marusan:なるほど。

初雪:この顔とスクリーンについては最後に掘り下げる予定なんだけど、取り敢えず楽器について、他にある?

Marusan:もの、これテレビを使ってるっていうね。オールドメディア(TV)とニューメディア(Live2D)の倒錯みたいなのがいっぱいあるわけだよね。

初雪:Live2Dも(鮮明ではないテレビに映し出されることで)古さに馴染んでるんだよね。それはスクリーンをカメラで撮ってるってのもあるだろうし。

Marusan:そうだね。やはりLarsの音楽を特徴づけているのはものだと思うんだよね。ノイズ。
おそらくLarsはいろんな音楽を知っているし、どこまで意図的かというのは分からないんだけど。機械で楽器を制御するときにズレは生じるんだよね。例えばタンバリン(動画だとLucyのTVの横に付いている)の鳴らし方が適当だから、リズムを逸脱してくるんだよね。

初雪:それこそ一番正確にリズムを叩けるというのが一般的に機械に求められるものなわけで、次に人間の生演奏があるんだけど、さらに機械による生演奏みたいなのがあって。

Marusan:そこがLarsに対する僕の感想にも関わっていて、この音楽を聴いていると場所が分からなくなるんだよね。

初雪:場所が。

Marusan:音楽の場所ね、つまりはビートが取れなくなるっていう。急に止まったりとか、リズム感覚が狂うような微妙なズレとかシンコペーションがあるんだけど、変拍子(複合拍子)とか奇数小節を使ってる曲に関してはかなり意図的だよね。
このズレがわからないんだけど、例えばJacob Collierなんかはこのズレを意図的に出すんだよね。彼以前にもやっている人はいると思うけど、五連符を3:2に分けたり、七連符を4:3に分けたりしてスウィングさせる、これは最近のジャズミュージシャンもやってるんだけど、Lars自身J Dillaの名前を挙げていたけど、ヒップホップからの影響が大きくて、グリッドにはめられていないズレたりよれたりするビートが雰囲気を生んでたんだよね。それを最近のジャズミュージシャンとかが32分音符とか奇数連符とかを駆使して理性的というか精緻化された形でコピーし始めて、Jacob Collierもその系譜上にいる。
Larsもそれを知らないわけはないと思うんだけど、ただそれをどこまでやっているか、そしてどうやっているのかがわからない。

(Jacob Collier・・・このシリーズが続けばいずれ取り上げる予定のアーティスト。多重録音の使い手にして若くして複数回グラミー賞を獲得している天才。MarusanがLarsを発見したのは、Jacob CollierのYouTubeのライクのリストからである。)

初雪:それはどこまで意図しているのか、っていう?

Marusan:それもあるし、機械がそれをすることによる物理的な制限っていうところもある。ものによる不可避的なズレというかね、それもかなりある。それがズレという形でコンポジションに立体感が出ているし、機械の作動音やそれが生むアンビエンスという形で音響にも立体感が出ている。やっぱり打ち込みだと平面的でツルっとした音になりがちなんだよね。
この「Intro」(アルバム一曲目)の冒頭からして、あれ?というか「近い」んだよね。

初雪:距離、近さか。それは耳に近い、みたいな?

Marusan:そう…ね、いや難しいな。

初雪:感覚としてはわかるんだけどね。これは音楽を言葉で批評することの難しさだと思うんだけど、「じゃあ、聴いてみて」じゃあダメなんだよね

Marusan:そうね、まぁ単純に倍音が多いってのはあると思う。
このIntroは聴くたびにビックリするんだよね。「デケェ!」ってなる笑

初雪:「Intro」がちゃんとアルバムのイントロになってるんだよね。シャッフルで再生しようと思わない。

Marusan:ラストの「Thank you」もアンビエント的でちゃんと終わりになってるしね。

初雪:Larsはプレイリストで(他のアーティストとともに)聞いた事がない。アルバム単位でしか聴かない。

Marusan:時間もちょうどいいしね。(アルバム「Lars Lucy 8legions」は31分)

初雪:個人的にはアルバム自体で一つの曲みたいな感覚なんだよね、一つの単位というか。

Marusan:それはちょっとわからないけど、確かに大事なのはこの音色的な統一感があることなんだよね。「聴けばわかる」っていう、この人の曲だって。改めて言うことでもないんだけど、この人ちょっと特異なんだよね。
この人だってわかるっていう意味で、この人しか出せない音を出しているっていう意味で。だからこそ取り上げる意味があるんだけど。

幕間 休憩

初雪:いやぁこれを記事にしてはたして読む人がいるのか。

Marusan:笑 ただ、Larsはもっと知られるべきだとは思う。

初雪:ぶっちゃけた話、この企画の根幹は、Marusanに勧められた音楽は素晴らしいものが多いのに、周囲の人に尋ねてみても誰も知らない、というとところにある。ストリーミングサービスによって音楽を聴く障壁が下がったからこそ、名前も知らないようなアーティストは勧めても聴いてもらいずらい。それこそアニメや映画の主題歌、みたいな方が遥かに伝わりやすい。
これは情報量の差だと思っていて、アーティストやアルバムに様々な文脈が付与されてはじめてストリーミングのデータベースのなかで浮かび上がって見えるというか、ただ「誰々が勧めた音楽」では浮かび上がってこないんだよね。
だからこういう記事みたいな形で情報量を増やすというか、それこそちゃんと音楽を布教するにはどうすればいいのかな、と考えてこの企画を始めたんだよね。

Marusan:やってみて思ったのは意外と語れるな、と。

初雪:著名人以外の語りを聞いたり文字起こしされたりすることが少ないなかで、こういう語りを考えることは重要だよね

予告

記事が一万字を超え始めたので前後編に分割します。
後編では
3、AKIRA、オマージュ、オタク、ギーク
4、美少女、メカ、スクリーン、顔

について掘り下げていく予定です。

ここまで読んでくださった方はありがとうございます。ますますヒートアップしていく後編も是非読んでみてください。
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文責:初雪緑茶 対談:Studio Marusan.、初雪緑茶

↓後半


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