1. 自殺未遂 袈裟を着た若い僧侶。宗派は不明である。頭を丸めている。 「世の中すべての生きるのが辛い方々へ。今しばらく堪えてください。この物語の終わる頃には何かしらの救いがあるかもしれません。」男が鈴を鳴らす。 「山内さん。気が付かれましたか。」 病室のベッドの上。 山内達也は胸部、両手、右足に7本の点滴。そしておむつに尿道カテーテルという姿で横になっていた。 傍らで看護師がバイタルをとっている。 「山内達也さん。ご自分のことが分かりますか
4.孤独な老人 原宿駅のホームで電車に飛び込もうとした女性を助けてから4日間経過した。 達也は心配した脳出血や後遺症は出ずに祐介の家で祐介の母、光江の仕事の手伝いを少ししながらゆっくり過ごさせてもらった。 ただ寝ているというのも忍びなかったのと、普段から思考がとまらない傾向にある達也には何か作業がある方が助かるので、自分から光江に申し出てやらせてもらったのだ。 寺院と言
3.覚醒 病院のベッドの上で達也は目を覚ました。 「達也。」傍らで良悟が安心したように言った。 「良かったぁ!気が付いて。看護師さん呼んで来るね。」 良悟が丸椅子から立ち上がり廊下に出て行った。 ひどい頭痛に吐き気、目の奥までズシリとしたように痛い感じがする。 JR原宿駅のホームで電車に飛び込もうとした女の人を助けようとして、階段を駆け下りて、女性をホールドしたところまでは覚えているが、その後は記憶がない。 痛みに顔を歪めていると、看護師が入室し
2. 誰かの思考 チャイムがなり、小林愛美が達也の部屋に入って来た。 「たっちゃん大丈夫?」 愛美が心配そうな顔で達也の顔を見た。 「退院したぐらいだから大丈夫だよ。」 「さっき下でたっちゃんの友達とすれ違ったよ。」 「うん。俺のこと心配してくれて、来てくれたんだ。」 達也が力のない感じでやっと笑って見せた。 少し間をおいて達也が愛美に言った。 「ちょっと・・・こっち来て。」 愛美が達也