酒とタバコと暇つぶしと…(星野佳人)

星野佳人という者です。「酒とタバコと暇つぶし」というYouTubeでアップした動画のこ…

酒とタバコと暇つぶしと…(星野佳人)

星野佳人という者です。「酒とタバコと暇つぶし」というYouTubeでアップした動画のことを日記にしています。動画以外のことも書きます。 https://www.youtube.com/@user-jn2ys4bo4e/videos

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最近の記事

赤羽さんを包む純情な煙

寒さに向かう季節の高円寺。 動き始めるか、止まろうとする電車の低音が高架下に落ちてくる。 遠慮がちな入店音が聞こえて、大阪での仕事を終えた赤羽さんが姿を現す。 移動の疲れを見せず、テーブル席の向かいにさっと腰を下ろして一息ついた。 アウターから身体を抜けさせると、涼しげな水色の箱からタバコを引き出してフィルターを咥える。箱を置いた手で火を点け、まっすぐ煙を吐き出した。 褐色の背景に鈍い白さが溶け込んでいく。 『若者のすべて』のキムタクに憧れてハイライトを吸ってみたものの、

    • 高田ぽる子さんと残った明かり

      風が絶えた夜の高円寺駅北口。僅かに嫌な暑さが残っている。 高田ぽる子さんがやってくる。 暑そうに顔をしかめながらも人懐こく優しく笑っていた。 北口広場を横目にして、セントラルロードを進み、純情商店街を2人で巡っていく。 喫茶店や古着屋が閉まっている時間の薄暗い小道に、赤提灯がわかりやすく点在していた。 商店街をぐるっと廻り、駅前にジンギスカン屋を見つける。 「ここだ」とぽる子さんの表情が明るくなる。 人生で2回目というホッピーと、ジンギスカンを数種類注文する。 タバコを

      • 毒に酔う知的、コウキシン

        麻布十番駅のエスカレーターを上がる。洗練された街並みが横たわっていた。 カフェの前で背の高いカップを片手に直立しているコウキシンの2人。 笑顔で何かを語りかけているモニュメントを横目に、石畳を3人で進んでいく。 2人の後をついていくと、閑静でありながら活気に富んだような不思議な風景の中に溶け込まれる。 数分彷徨うと、マンションに到着した。エントランスの落ち着いた照明と、余裕のある贅沢な空間がそれだけで楽しかった。 エレベーターに運ばれて部屋に入ると、さっそく犬と猫に対面す

        • 高橋さんと福島の部屋

          街が弱々しく暗がり始めた頃。 高橋さんが晴れ晴れと現れ、川沿いを導かれながら自宅へお邪魔した。 至る所に服や雑貨が置かれ、趣味に贅沢な空間であった。 ビールで乾杯をして、高橋さんおすすめのつまみに箸をすすめていく。 いいことがあった時に食べる高いチーズをいただく。その条件が、チーズをちょうどよく美味しくしていた。 今日はいいことがあった日になった。 次のお酒を飲もうとしたとき、高橋さんがおもむろに出したのは、会津のマルサという漆器だった。 箱を開封し、まだ使用していないと

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        • 酒とタバコと暇つぶし
          22本

        記事

          いおりさんと熱い球体

          まだ冬の寒さを残す春先。 赤坂の釣り堀で、いおりさんと村松とだらだらと空き時間を楽しむ。水音がざわざわと周辺に響いている。 水中に浮かぶ魚を探して歩き回った。 釣り堀を出て、地下鉄の入り口から吹く風に逆らって階段を下った。 丸ノ内線と日比谷線を乗り継いで、恵比寿へ向かう。 村松と別れ、高架下の壁画を横目に駒沢通りを渡り、隠れ家のようなたこ焼き屋に入った。 いおりさんは、ハイボールを頼み、それをお猪口に入った熱燗のようにちびちびと飲んでいく。 梅水晶の歯触りを楽しみながら、

          にゃんぞぬデシと小さな音色

          春のぬるい風に吹かれながら、恵比寿駅の東口の線路沿いで、にゃんぞぬデシと待ち合わせる。 ギターケースを背負ったたくましい姿から、「いい天気」と楽しそうな音色が鳴った。 駅のホームから聞こえる「第三の男」のリズムよりも、やや遅い歩調で、広場から階段を下りていく。小さな石を蹴った。 恵比寿通りを白金方面に進み、交差点の角にある喫茶店にたどり着く。テラス席を横目に店内に入る。 席に着き、メニューに目を通すと立ち上がり、ショーケースの中に行儀よく収められた、本日のケーキを真剣な眼差

          にゃんぞぬデシと小さな音色

          朝をながめる、島田さん

          「劇団星乃企画 × 酒とタバコと暇つぶし」コラボ企画 物語には登場しない、主人公・伊吹の相方、島田による『背景、無色の君へ』前日譚。 劇団星乃企画 第11回公演『背景、無色の君へ』(詳細) 真冬の肌を刺すように冷たい風が、都会の夜の雑踏に擦れていびつな音を鳴らしていた。12月の渋谷。 モーニング・ムーンの島田さんがスクランブル交差点を渡って現れる。身一つ。荷物を途中で落としてきてしまったかのように無防備な姿であった。 西村フルーツパーラーを通り越し、道玄坂を奥まで進んで

          寅さんと鳥山さんの背中

          春の柔らかい陽射しとは裏腹に、寒さが残る3月の下北沢。 日曜の午後を鳥山さんと2人、のらりと歩く。 駅前の喫茶店は満席で入れず、井の頭線の高架下、ミカン下北を抜けていく。 人の往来が絶えない通り沿いに面した喫茶店のテラスに空席を見つけ、遠慮がちに置かれた木製の上品な椅子に腰を降ろした。 「こんなにいいところあったんだ」と物腰の柔らかい抑揚が優しく耳に残る。 ホットコーヒーを注文し、タバコの箱を取り出す。 火を点けてから吐き出すまでの動作が手際良く、ゆらゆらと伸びていく煙も慣

          角井さんの忘れられたハット

          金曜の夜。途切れることなく人が行き交う新宿東口。アルタ前。 黒いバケットハットを乗っけた角井さんが、手を挙げている。そのまま横断歩道を渡るのではと疑った。 伸びた手を目標に歩を進める。「お疲れ様です」と通常運転の挨拶。 モア2番街を抜け、セントラルロードを進む。ゴジラの視線の下、酔狂なさざめきで溢れた道を過ぎていく。 歌舞伎町の喧騒の中にぽつんと佇んでいる、隠れ家らしき海鮮の居酒屋に入店。 薄い明りが扉を灯していた。 レモンサワーを1杯入れてからは、日本酒を頼み続ける唎酒

          角井さんの忘れられたハット

          麺の硬さと信子さん

          夜の薄暗さを忘れさせるように、無差別にネオンを灯す新宿西口。 その中で、本来の陰りを少し喚起させてくれる裏通り、思い出横丁。 「出前一丁」が入った紙袋を手に提げた、ロケ終わりの信子さんと並んで、小刻みに足を運ぶ。 紙袋がぺしぺしと小さく音を立てていた。 この袋麺は後にいただくことになる。 細い道を進みながら、「あんまりお腹空いてないけど」「とりあえず飲みたい」と正直な言葉を次々と口に出す。道を隔てて、歌謡曲の弾き語りが聞こえた。 建ち並ぶお店を見渡し、「牛タン」という名前に

          こたけさんと続く不当判決

          3月5日。R-1グランプリ決勝翌日。 まだ寒さは停滞していたが、春をほのめかす淡い陽射しが、下北沢の街に漏れていた。 ライブ終わりのこたけさんが現れる。 決勝の翌日でもいつもと変わらずライブが入っていた。 フリップと折り畳まれたイーゼルの入ったであろう袋を見て、昨日のネタを思い浮かべる。 大舞台で浴びた笑い声の余韻を、残り香のようにぼんやりと感じとる。 小田急線の線路跡地をまたぎ、京王線の線路下をくぐる。そのまま南口商店街を進んでいく。 古着屋やキッチン南海を横目に、目的

          ワタリさん、煙も飛べるはず

          地下鉄の駅を降りて、飲食店の灯りを追い越していく。 少しずつ閑静になっていく街並みに、物音の密度はだんだんと濃くなっていった。 ワタリさん行きつけのバーで合流する。 隠れ家という言葉が似合う優しい店内。 「生」を飲むと言って、ペプシの生を頼む。炭酸と氷の音を楽しみながら、ぐびっとコーラを喉越していった。 禁酒をして1年半。今はコーラとジンジャーエールが一番うまいと唸る。 甘い炭酸水をお供に、一服する。 おもむろにデンモクを操作し、マイクを握る。 松山千春さんのデビュー曲『

          ワタリさん、煙も飛べるはず

          ありふれた村松の平穏

          西武新宿駅で村松と待ち合わせる。 ひんやりした空気に身震いする21時。 時間通り改札に向かうと、相変わらず彼はそこにいない。 念のため連絡を入れると「喫煙所あたり」にいるとのこと。かろうじて西武新宿駅ではある。 喫煙所へ向かう。 向かう途中、ネオンの光がまぶしい道辺で村松を発見した。 そこは「喫煙所あたり」でもなかった。 訳を考えるも、おそらくそこに思考はない。彼の頭の中に平穏な時が流れる。 大ガードをくぐり、思い出横丁の赤提灯に吸い寄せられる。 カウンターに着いてビール

          雪道に定刻の桃沢さん

          一日の最初の光を悟りながら、囲炉裏の匂いに引き込まれていく。 障子越しにこぼれてくる朝日が、畳の上にさりげない陽だまりを作っていた。 朝食の優しい音がする。 部屋で食後のコーヒーを飲んで一服。 昨日と変わらず、美味しそうに煙を吐き出す桃沢さん。 何をする訳でもなく、灰皿に吸い殻を追加していく。 昼食のために部屋を出る。旅館の近くに唯一ある定食屋。 人の気配がしない外の道が嘘みたいに、店内は賑わっていた。 食事を済ませて辺りを散策。 まぶしいくらいの厚い雪化粧に、ちらほら

          桃沢さんと雪国、未使用の凶器

          磐越西線で郡山駅から猪苗代駅に。 線路からホームまで、一面が純白に塗られ、くすみのない澄んだ肌をしていた。 東北の雪景色に見惚れて、イルカの「なごり雪」が頭に流れる。 「季節はずれ」から「東京で見る雪」という歌詞ですぐにフェードアウトした。 改札の短い駅舎を抜けると、雪の鳴るような静けさが、島村と同じく身にしみた。 下ろし立ての雪道に最初の足跡をつけていく。喫茶店が反射でまぶしい。 かじかんだ指を折り曲げてバスを待つ。 到着した車両に乗り込み、宿を目指す。 現地集合で先

          桃沢さんと雪国、未使用の凶器

          こんぽんと歓楽街のガラス

          新宿。歌舞伎町。 大寒波の歓楽街を根本さん、いや、こんぽんと歩く。 今にも凍えそうに縮まる高校の後輩。 風林会館を横切る。喫茶店「パリジェンヌ」の店内をガラス越しに覗き、かつての銃撃を想像してみた。 幾多の電飾に照らされた区役所通りを進む。鈍い音が乾いた風へと吸い込まれていくバッティングセンター。 時折、清々しい金属音が響く。今度はネット越しのしたり顔を想像した。 その先にある餃子屋に入店。2階に上がり手前のテーブル席に着く。 微力な暖房に当たるも、店内にも押し寄せる寒波