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朝をながめる、島田さん

「劇団星乃企画 × 酒とタバコと暇つぶし」コラボ企画
物語には登場しない、主人公・伊吹の相方、島田による『背景、無色の君へ』前日譚。

劇団星乃企画 第11回公演『背景、無色の君へ』(詳細)

真冬の肌を刺すように冷たい風が、都会の夜の雑踏に擦れていびつな音を鳴らしていた。12月の渋谷。
モーニング・ムーンの島田さんがスクランブル交差点を渡って現れる。身一つ。荷物を途中で落としてきてしまったかのように無防備な姿であった。

西村フルーツパーラーを通り越し、道玄坂を奥まで進んでいく。
裏通りに身を隠したような焼き鳥屋に入店する。隅っこのカウンターに、2人並んで小さくまとまった。
瓶ビールを注文し、メニューを立て掛けたその手で左のポケットからラッキーストライクを取り出す。
慣れた手つきで火を点け、天井を見上げて煙を吐き出した。店内に流れるフォーグソングの懐かしい音と交わって、ゆっくりと立ち込めていく。

瓶ビールをグラスに注ぎ、同じ要領で体内に流し込む。厚揚げとピリ辛胡瓜をつついて串を待つ。
箸をタバコに持ち替えて、また吸い口を咥えた。

先日まで帰省をしていたという島田さん。地元に帰るとよく農園巡りをするとのこと。いつかはそこで暮らしたいと顔をほころばせながらつぶやいた。
モーニング・ムーンは今年で芸歴3年目。ライブシーンでは圧倒的な実力派の、芸人を終えた後を見据えるその目に、少し寂しさを覚えた。

串焼きを数本食べ終え、また一服。2箱目の封を切った。煙の濃度が高くなっていく店内に心地良さそうな表情を浮かべた。

お酒が進み、相方の伊吹さんについて触れてみるが、多くは語ろうとしない。
劇場でも2人が話している姿はほとんど見かけず、そこには、他の誰にも踏み込めない領域があるのかもしれない。

島田さんは芋焼酎のソーダ割りの氷をカタカタと遊ばせながら、嬉しそうにグラスを傾けていた。
以前、伊吹さんから「ネタ見せ本意気でやる芸人て作家から見てどうなの?恥ずかしくない?」と言われたことがある。その後ろで島田さんは、嬉しそうに革靴の紐を結んでいた。2人の真意はわからない。
グラス越しの島田さんは、なぜかその時と同じ顔をしていた。

モーニング・ムーンの3回目の単独ライブ『ハテナ』は来月に迫っている。
先日、単独のコメント撮りをさせてもらう予定だったのだが、伊吹さんの「ライブの告知なんて逆効果だから」という一言で呆気なく中止になった。自由な人だなと思った。
島田さんは単独に関しても物を言わず、「楽しみだなぁ」とだけこぼす。
その目に、なぜか先ほどと同じ寂しさを感じた。

店を出て、「飲み足りないなぁ」と2軒目を探しに再び裏通りを歩いた。続けて「朝まで行こうか」と空を見上げる。百人一首のある歌を思い出した。
その斜め後ろから、肩越しの横顔を覗いてみる。心なしか、やはり寂しい目をしていた。

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