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にゃんぞぬデシと小さな音色

春のぬるい風に吹かれながら、恵比寿駅の東口の線路沿いで、にゃんぞぬデシと待ち合わせる。
ギターケースを背負ったたくましい姿から、「いい天気」と楽しそうな音色が鳴った。
駅のホームから聞こえる「第三の男」のリズムよりも、やや遅い歩調で、広場から階段を下りていく。小さな石を蹴った。

恵比寿通りを白金方面に進み、交差点の角にある喫茶店にたどり着く。テラス席を横目に店内に入る。
席に着き、メニューに目を通すと立ち上がり、ショーケースの中に行儀よく収められた、本日のケーキを真剣な眼差しで見つめ、思いを巡らせていた。
ケーキとミルクティーを注文。心が浮き立つような様子で到着を待つ。

テーブルの上に品物が置かれると、嬉しそうに表情を崩した。店内のBGMが明るく聞こえる。

ストローで氷をかき混ぜ、紅茶は白く染まっていく。店内に氷の音色が足された。
甘くなった飲み物で、少しずつ渇いた喉を潤していく。

お皿を迎えにいくように体を傾けて、フォークを入れる。一口ずつ、大切そうに口へ運んでいく。

2年ほど前に、同じく恵比寿のお店でハンバーグを食べて仲良くなったことをふと思い出した。
今年に入ってから、忙しなく、特に、舞台の稽古が始まってからは仕事として関わることが多くなったが、食べ物を挟んで向かい合うと以前と変わらず、ゆるりとした時間が流れていて、少し安心した。

向かいの席では、相変わらず大切そうに、残りのケーキを静かに味わっていた。
「美味しいものを食べてる時は…」と歌っている姿を思い浮かべる。

店を出る。陽は淡く暮れようとしていて、先ほどより静かな音色が鳴り、春を語っていた。
恵比寿駅に戻り、日比谷線で舞台の稽古場へと向かう。ぬるい風は改札前まで着いてきた。
2番線に電車が到着した。


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