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コンバージョン・セラピーの現在2~国連編

 国連人権理事会は、2020年5月、「コンバージョン・セラピー」は、ジェンダーが多様な人々の性的志向を変えられるという誤った偏見により構成されており、世界中のより多くの国は「非人道的」であり、深く精神をむしばむ影響をもつことを認識する必要があるとする報告書を提出しました。報告者は国連独立専門家のビクター・マドリガル・ボルロズ氏です。ボルロズ氏はハーバード大学の教員で弁護士です。

 その一部を翻訳しておきます。まず出だしの部分です。翻訳部分を太字とします。

 

コンバージョン・セラピーに関する報告

 コンバージョン・セラピーとはなにか?

 「コンバージョンセラピー」は、一般に、人の性的指向や性自認(SOGI)は変更できるし、すべきだという、広範な介入を記述する包括的な用語として使用されています。そのような実践は、人々をゲイやレズビアン、バイセクシュアルから異性愛者に、またはトランスや多様なジェンダーをシスジェンダーに変更することを目的としています(あるいは、目的としていると主張しています)。(訳注:シスジェンダーは身体的な性と性的指向や性自認が一致していることを意味する。たとえば男性の身体として生まれ、性自認が男で、性的指向が女性に向かう場合、女性の身体として生まれ、性自認が女で、性的指向が男性に向かう場合)この文脈によると、この用語は多様な実践や方法に対して用いられています。それらはときには内密になっていることもあり、あまり報告されていません。

 「治療Therapy」という用語は、ギリシャ語から派生したものだが、「治癒Healing」を意味します。しかし、「コンバージョン・セラピー」の実践はまさにその逆です。それらは、LGBTと他の性的に多様な人々は病気であるという医学的に錯誤した考えに基づく、深く有害な介入であり、深刻な苦痛と苦悩を押し付け、長期的な心理的、身体的なダメージが結果として生じます。コンバージョン・セラピーは、現在、世界の全地域にわたる、多くの国で行われています。2012年に汎米保健機関(PAHO)は、「コンバージョン・セラピー」は医学的な正当性をもたず、影響を受けた個々人の健康と人権に深刻な脅威となると記し、2016年に世界精神医学会は「うまれもった性的指向が変更可能だというまっとうな科学的証拠はない」ことを見出しました。2020年には、独立法医学専門家グループ(IFEG)は「コンバージョン・セラピー」を提供することは欺瞞であり、誤った宣伝であり、詐欺の一形態であると宣言しました。

 つづいてこのようなコンバージョン・セラピーを提供するのがだれかが書いてあります。それは公的なヘルスケア提供者、信念に基づく組織、国家機関などだといっています。さらに、どのような形態でコンバージョン・セラピーが提供され、どのような介入実践が行われているかが述べられます。最後に報告者からの推奨事項が書いてあるので、ここも翻訳しておきましょう。

諸国への推奨事項
 IESOGI(United Nations Independent Expert on protection against violence and discrimination based on Sexual Orientation and Gender Identity(性的指向と性自認に基づく暴力と差別に対する保護に関する国連独立専門家)は、「コンバージョン・セラピー」の実践の世界的な禁止を呼び掛ける。禁止される実践を定義し、保証された公的基金がそれをサポートしないことを確証し、宣伝を禁止し、法的不履行と個々の主張を探求し、犠牲者にリハビリテーションを受ける権利を含むあらゆるかたちの賠償にアクセスするメカニズムを作ることを含まなければならない。

 a.児童や若い人々を「コンバージョン・セラピー」の実践から守る手段を早急にとること、
 b. 「コンバージョン・テラピー」が無効で効果がないこと、実践によりダメージをおよぼすことに関する、親、家族、共同体の意識を高めるキャンペーンを実行すること、
 c.性的指向および性自認の自由な発達と肯定を探求する、ヘルスケアや他の関連するサービスを採用し、促進すること、
d.健康の専門家組織、信仰に基づく団体、教育機関、地域組織を含む、中心的な利害関係者との対話を培い、人権侵害と関連のある「コンバージョン・テラピー」の実践に関する意識を高めること、

以上を、報告者は提案している。

 ボルロズ氏は、2022年にも国連ニュースのインタビュー記事に登場し、コンバージョン・セラピーの害悪について書いています。この中で次のように述べています。

「マドリガル・ボルロズ氏は、いくつかの国への実務訪問中に、教会や宗教的矯正者による悪魔払い、「矯正」のためのレイプ、心理的治療を受ける義務これらの実践の犠牲者であったレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランス、ジェンダーバリアントの人々から多数の証言を収集しました。」

 そして、コンバージョン・セラピーは拷問の一種であるとまで述べています。国連独立専門家は3年の任期です。ボルロズ氏は2016年に任命され、その後2019年、2022年に再任されています。
 国連全体で採択されたものではないものとはいえ、国連ではコンバージョン・セラピーを人権侵害と認め、これを禁止する方向に動いているものと言えます。

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