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『バーチャル地球を救え!』開発記 後編

ポパピスタジオ代表のアラスカ4世です。本記事では前編、中編に続き、私が公開したフルAI作画ノベルゲーム『バーチャル地球を救え!』の開発中に起こった事や考えた事を書き、読者の皆様と知見を共有したいと考えています。まだ前編や中編を読んでいない方はまず前編から順番に読むことを推奨します。

前編と中編の概要

前編では登場する全てのイラストをStableDiffusionというAIに生成してもらったノベルゲーム『バーチャル地球を救え』の開発に至る経緯と開発方針について書きました。中編では仕様を決めて開発を進め、完成度が50%ぐらいになるまでの様子を書きました。今回は完成までの様子と、完成後の振り返りについて書いていきます。

ノベルゲームを開発している友人に相談する

この頃、『ふりかけ☆スペイシー』というビジュアルノベルを開発している友人のバターン檜山(https://twitter.com/hiyanimation)さんに作品について相談し、多くの知見を得ました。相談に乗ってくれてありがとうございました。

この時点ではフォントがデフォルトのプロポーショナルフォントのままになっていて見た目がヤバかったので著作権を守りつつ適切なものに変えたほうが良いこと、広報の仕方次第でアクセスを増やせるかもしれないことなどのアドバイスを受けました。
効果音についても色々な話を聞きましたが、それなりのクオリティーのものを実装しようとすると手間がかかる(権利関係なども含めて)ことがわかったので今回は効果音を実装しないことにしました。折角アドバイスをもらったのにすみません。

シナリオの見直し

相談中、作品が完成したらノベルゲームコレクション様に投稿することに決めました。投稿されている作品の傾向を調べてみたのですが、想定していたよりも短い作品が多く、運営も短編の投稿を歓迎しているようだったので、シナリオを大きく短縮することにしました。
エルフ始祖連盟の正体』の時はサクッとストーリーが終わってしまった事を惜しむレビューを複数いただいたこともあり、なんとなくノベルゲームというのはある程度長いほうが良いものなのだと思い込んでいたのですが、方針を変えました。

実験的な表現をしてみる

テロリストとの最終決戦では、折角なのでAIにしか出来ない表現を模索してみることにしました。

人間と比べた場合、AIの強みは何か? それはもちろん、短時間で大量の画像を生成できることだ!

ということでStableDiffusionを使ってあまり厳選せずに大量の背景画像をドバドバ生成し、従来の手法で描くとすごい手間がかかるはずのイラストを雑に使い捨ててみることにしました。文章では伝わりづらいので実際の完成品をYOUTUBE動画で見せます。

これは映画『時計じかけのオレンジ』のルドヴィコ療法などに着想を得ているし、AIを使わずにこういう表現をしている人は昔から既にたくさんいるはずです。ただ、それらは個人がコーディングをしながら片手間で半日で実装できるような手軽なものではなかったはずです。

ちなみに、これを作る上でクオリティーの向上にはほとんど意識を向けていません。真面目にクオリティーを向上させる試みが上手く行ったとしても、恐ろしい精神的ブラクラが出来上がって心の準備ができていないユーザーを驚かせてしまうだけだからです。そういう表現を作ることに意義はあると思いますが、今ここでやるメリットは皆無です。なので、この手法でもっと良い表現を作る余地はあると思います。

サルバドール・ダリ風『死の勝利』

私見としては、AIの活用を前提とした、従来のノベルゲーム、映画、漫画、ゲーム、映像などとは大きく違った形の、今までなかったような表現が近いうちに誕生すると思います。

最初は演劇を録画するような形で運用されていた映画は、演劇とは大きく違った形で娯楽の王様になりました。そこには演者と観客の双方向性などの演劇の持っていた特性の一部が欠落していますが、だからといって映画に存在する価値がないと考える人は誰もいません。AIの長所に目を向け続ければ、それと同じような存在を生み出す事ができるかもしれません。

UIを改造する

シナリオを最後まで書き終えたので、次はメニュー画面などのUIを改造しました。デフォルトのティラノスクリプトのUIは見た目のクセが強い上に、画面サイズを変更した関係で配置がずれてしまいました。

ティラノスクリプトのデフォルトのメニュー画面。多くの画像ファイルを
HTMLとCSSで調整しながら表示するスタイルになっています。

他の有志が制作してくれたボタンなどのUI素材画像をお借りする事もできるかもしれません。しかし、折角ここまでStableDiffusionで生成した画像ばかりのゲームを作ったので、なるべく人間の手の入った画像は使いたくない!ということで、テキストベースでUIを作ってcssを使って見た目をなんとかすることにしました。

完成したメニュー画面。画像はAIが生成した背景以外は使っていないのですが、
フリーフォントは積極的に使ってしまったのでダブスタかもしれません

ちなみに、StableDiffusionは文字を意図した通りに生成してくれないのでStableDiffusionにボタンを作ってもらう案は最初から検討しませんでした。

StableDiffusionの描いたムーラン・ルージュ(Moulin Rouge)というパリの有名なキャバレー。
文字の表示がおかしいことがわかる

完成と投稿

こうして(バグ取りや推敲などを経て)完成したので、作品をノベルゲームコレクションに投稿しました。ノベルゲームコレクションは審査に時間がかかりそうだしこちらは一日でも早く公開したいので、審査が早く終わりそうなふりーむ!にも投稿しました。
投稿の際のファイルの圧縮の仕方に疑義があったり、スクショを撮る必要があったり、著作権表記などのドキュメントを用意したりする必要があったので、この段階で何時間か時間がかかってしまいました。
それでも後は待つだけで公開できる状態に持っていけたはずなので、こうしてnoteを書いたり広報の準備をしたりすることができるようになりました。

振り返り

着手してから約8日間ぐらいでノベルゲームを完成させ、投稿することができました。想定していたより早かったです。
早く完成させることができた要因はスピードを優先して開発し、実装が難しい部分はどんどん妥協していった事とシナリオを短縮した事、そして一人で開発した事にあると思います。
「早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け」ということわざがありますが、今回は遠くへ行く事よりも早く行く事を優先し、一人で独裁的に(一人なのだから当たり前だ)色々な意思決定を次々と下し、短期間で完成させることができました。
もしも何人かで開発していたら、仕様を決めて合意を形成する度に長い時間がかかり、完成までに何倍もの時間がかかっていたと思います。
もっとも、一番重要なのは意思決定プロセスではなく、StableDiffusionが短時間で絵を描いてくれた事です。開発者の皆様ありがとう。

みんなへの感謝、そして……

意思決定は一人で下しましたが、その一方で多くの人の知恵とインフラを借りたおかげで作品が出来上がったのもまた事実です。相談に乗ってくれたバターン檜山さん、ティラノスクリプトを開発したシケモクMK様、StableDiffusionの開発者様、ダリとゴッホは当然として、他にも数え切れないほど多くの人々がいなければこの作品は成立しませんでした。私は巨人の肩の上に乗る矮人です。圧倒的感謝っ……!

制作に直接関与する人員の話に戻ります。もっとクオリティーの高いノベルゲーム、もしくは何かの創作物を作ろうとすると、他の人の手を借りる必要が出てくると思います。
具体例としては、私は音楽の出来の良し悪しをうまく判断できないはずなので、仮に作曲をするAIが今後登場したとしても(すると思う)、適切なプロンプトを指定したり生成された曲の出来を判断したりする人が必要になると思います。
なので今回の独裁的で乱暴な手法は特殊な状況下でしか有効に機能しないはずです。ただ、これからはAIのおかげで今までより少人数でゲームやアニメを作ることが簡単にできるようになっていくはずなので、そうした環境下で尖った作品が誕生しやすくなるんじゃないかと期待しています。

他の記事の案内と予告

長文を最後まで読んでくださりありがとうございました。これから、自己紹介に特化した記事を執筆予定です。
あと、まだ『バーチャル地球を救え!』をプレイしていない人はよかったらリンク先からプレイしてみてください!リンク先ページ下部の「ブラウザ版を遊ぶ」ボタンを押すとプレイできます!

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