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【尊い】『新しいカギ』のテレビらしさ

FANYチケット、すごい名前だ。
FUNNYでもFANZAでもFUNKYでもない、キャロルでもない。
吉本興業のオンラインチケットサービスなのだけど、例えば物語作品に「感動を売り物にしている」とぼやくことはあっても、「笑いをウリにしてます」と大上段に構えられてしまうと、またまたぁ~なんてふうに冗談にできない迫力を感じる。購入ボタンを押すときは漢方を買うときの心持ちに近い、調剤薬局のガラス窓の向こうに広がっているのは∞ホールか、いや、ムゲンダイも、と言い始めたらキリがない。

配信でお笑いライブを見ることがめっきり増えた。フリップ式に限定しないが大喜利っぽい企画ライブを好んで見ている。テレビの大喜利番組はそこまで好きじゃなかったのだけど、スマホで見るには大喜利企画の方がネタライブより見やすく感じる。
会場の空気感と疎外されているぶん、演者同士の目に見えない、呼吸を合わせるレベルのコミュニケーションでライブが進行する方がまだ奥行きを感じられるからだと思う。現場で起きていることやエネルギーはなるべく正確に味わいたい。ジェネリックの笑いは効き方が安定しない。

こんな書き出しだときっと『AUN』について書くのだろうと、自分でさえそう錯覚してしまうのだけど、だからこそ今日は圧倒的テレビ『新しいカギ』について書く。フジテレビのコント番組だ。
フジテレビ。正直『ラフアンドミュージック』で爆笑問題と松本が共演したことなんて、7年前の『いいともGF』を起点に感情を再生産することなんて、自分世代がどこに位置するかわからない伝言ゲームで「フジテレビらしい」を隣人に伝えることなんて、今更どうだっていい。

霜降り・せいやがイニミニチャンネルに投稿した「いいともの最終回1人で完全再現」で笑ったときから、あの番組を見ていたすべての瞬間も一つのあるあるにして、自分はこれからの番組を現在形で楽しもうと思うようになった。


なるべく真正面のものを期待したいことと同義だ。
それは「お笑いを語るBar」の逆で、賞レースでもネタ場番組でもなくコント番組だ。文脈も演出もなく、大人数が作りこんだものの完成品だけが続々と流れる最も手の込んだお笑いがコント番組だと思えた。
『キングちゃん』も好きだし『あちこちオードリー』も好きだしラジオも好きだ、お笑いは鯨くらい捨てるところがない、どんな部位もコンテンツにできてしまう。だからこそ、切り身にしない贅沢な丸かじり番組にアッと言わされる有難みを思い出させてくれるのが『新しいカギ』だ。

2020以降、若手芸人を起用してしっかりしたセットを作るコント番組の先駆けはテレ朝『東京BABY BOYS 9』だったと思う。その後、日テレ『笑う心臓』、テレ朝『脳天カルパッチョ』、朝日放送『関西コント保安協会』などが特番放送されて分かったのは、「芸人の脳内を、なんの演出もいれずにストレートに見せろ!」という好事家視聴者の気持ちだ。おそらくラジオのブームにも関係していると思うが、癖の強いコンテンツに対する抵抗感が薄れた状況がうかがえる。
様々なバラエティが制作される土壌として申し分ないと思うとともに、その結果最も難しいお笑いは結局ドリフに逆戻りしたのではないか。テレビの前にいる子供を中心に、老若男女に支持されるコント番組は、ニッチな番組が支持されることで余計難しくなったように思っていた。
そんな折、ひっそりとゴールデン帯で全世代相手に挑み始めたのが『新しいカギ』なのだ。正直、存在しているだけで尊いとすら思って見ている。

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こんなにストレートな社会をフリにしたコントが20時台に放送されていることを、おそらくお笑い好きであるほど知らないはずだ。(TVerの登録者は『激レアさん』と同じくらい、『座王』をギリ上回る数字しかない・・)

力みすぎてお客の荷物を破壊してしまう引越センターで働く力見力(りきみりき)、甘噛みだったからギリギリゾンビになっていないギリ田、幼稚園生のサカガミくんとオオタくん、すぐに舞い上がる飛美男(とびお)など、キャラクターコントはもちろん、座組コントバラエティの古き良きメニュー
<パロディ、ゲーム、リズム、モノマネ、流行>を取り入れたコントを、チョコプラ・霜降り・ハナコの3組が作っている。「ギリギリセーフ音頭」を見たとき、『ラフアンドミュージック』に懐かしさを抱いたテレビっ子全員それぞれにある「俺たち世代のコント番組」が下の世代にもできている嬉しさすら感じてしまった。

(パイロット盤で放送された下のコント以降、メンバー実際のパーソナリティをフリにするコントは意図的に避けているように思う)

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10月から(伝説とされる)土曜8時に放送枠が移動することや、
平成期の座組バラエティを紐解くうえで出てくる「恩義」という考え方、
メディアの多様化で漂白された「天下を獲る」仕事論、
そうしたものの延長線上に『新しいカギ』があるとは思えない。
外部の文脈に頼らないからこそ話題性が減っているジレンマも最近の放送からはうかがえるが(ゴリエ復活コラボ、焼肉ソシナの先輩ゲストトーク)、今のメンバーがこの番組でしかできないお笑いを突き詰めていく環境が残り続ければいいなと思う。

そして、なぜか過去との接続演出が打ち出された『ワンナイR&R』人気キャラ・ゴリエとのコラボ企画唯一の収穫であろう、『新しいカギ』の特異点としての丸山礼のフィーチャー。枠移動のタイミングで彼女がレギュラーに加わることを願っている。

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劇場で開催される企画ライブ、芸人の単独公演はもちろん、テレビ局主体の豪華セットが組まれたライブをオンラインで視聴する機会が激増したからこそ、画面を見て一発で“テレビ”だと分かる嬉しさは深まっていく。

(オケタニ)


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