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炎天下の聖戦旅 4日目


連休が終わり、労働が始まる。多くの市民がスーツに着替え、出社に向かって朝の街を歩んでいた。

だけど俺の休みはまだこれからだぜ!優越感を覚えつつ、レジャーの象徴であるアロハシャツを着て駅へ向かった。

今日は佐賀に行く。ナビケートに従って特急列車を待つ。特急列車とはつまり特に急な列車のこと。そして普通の列車より乗車料が高いこと。

前回の北海道旅行の屈辱な経験から学習して抜け目なくホームの券売機から特急券を購入。これで万全。

自由席だけど思いのほか空いていた。

博多駅から発って40分ほど、SAGAにたどり着いた。ここより先はICカード改札がないらしい。文明の終着点だ。

ホームから一階に降りて、改札の前で人を待たせているはず……いた。灰色の豹頭獣人、彼に間違いない。

「ドーモ、お初目に掛かります。アクズメさんです」
「Grrr.......あなたが、アクズメさん......」

獣人は歯を露わにして、笑顔とも威嚇ともとらえる表情で手を伸ばした。

「ようこそSAGAへ!待ってましたよ!」
「ああ、今日はよろしく頼む」

毛むくじゃらの手を握る。掌の肉球部分はしっとりしている。彼の名はタイラダてん、俺と同じく逆噴射小説大賞のファイナルリストで、成年異常者プリおじだ。

「では行こうか、長崎へ!」

☀️

晴天の下、我々は乗っている軽自動車が佐賀のカントリーロードを駆けていた。

ハァートォキャッチッ! プリキュわぁ〜 Alright!
ハートキャッチ プリキュア さあ みんなで~(ハイ!ハイ!)

「おっ、この曲は」
「へへっ、ハートキャッチプリキュアのOP曲、Alright!ハートキャッチプリキュア!/ハートキャッチ☆パラダイスですよ!」

よくも舌を噛まずに長いタイトルを言えたものだ。プリキュア箱推しおじさんだけある。

「ハートキャッチは素晴らしかった作品だった。俺の中では全シリーズ暫定一位よ」
「お目が高い。ハートキャッチは今でも人気が根強い派閥なんですよ」
「派閥、なにそれ?」
「はい、僕が知っている限りではプリキュアファンには鉄板の初代派、2年間で育った結束の強い5派、ハートキャッチ派、そして百合豚から支持が厚い魔法つかい派の4大派閥がありますね」
「へー、そういうものがあるのか、初耳だぜ。にしてもプリキュアで派閥を組むとか、なんか不毛だな。異常者どもは自分の異常さに弁えたうえに金だけ払ってグッズ買ってコンテンツを支えてればいいってんだ」
「まったく仰るとおりです!」

会話終了。閉口するふたり。車内に陽気なプリキュアソングだけが流れ続ける(彼は信仰上、プリキュアの関連音楽以外は聞かない獣人だ)。せっかく会えたしもうちょっと色々話したいところだが、どうも話題が長く続かない。こいつ本当は俺と話したくないのでは?親切のふりをして俺を山奥の非合法BANDAIプラモ工場に売り飛ばそうと考えていないか?

油断せず警戒しよう。不穏な動きがあったら俺の神拳が炸裂する。

今の状況を説明しよう。佐賀駅で落ち合った俺はタイラダとおちあい、そのまま彼の車に乗って長崎へと出発した。すこし前に彼に長崎バイオパークに行きたいと話したら、快諾してトライバーを買って出てくれた。話が美味すぎる。最初から俺を油断させ非合法BANDAIプラモ工場に売るのが目的だと考えれば辻褄が合う。

車が依然カントリーロードを進める。高速の入り口があったけどタイラダ歯無視してスルー。

「そいえばタイラダさん、高速は使わないの?」
「いやぁこの車、年季が入ってね、高速を走るのちょっと怖いです」

なに?逆噴射小説大賞のファイナルリストは高速を恐れるだと?ますます怪しいぞこれは!その獣面の下はなにを企んでいるんだ?油断せず警戒しよう。不穏な動きがあったら俺の神拳が炸裂する。

🦀

出発から2時間ほど、車がバイオパークの駐車場に到着した。また入園してないけど既に動物の姿あり。

カニだ。道路沿いの岩の隙間にカニは身を潜めている。
急に人が来て急いで壁を登る奴もいる。
バイオパークの看板。Youtubeで何度も見た。

入り口にいるラマちゃん。傘を差している婦人にちょっかい出されて、ブチ切れて唾を吐きかけた。有蹄類動物に詳しいタイラダによると、馬などの動物は傘を嫌う傾向があり、広がった傘が近くあると驚いてパニックになることもあるそうだ。

ちょうど季節か、紫陽花が咲き乱れている。みなみの国も紫陽花はなくないけどこれほど立派なのはなかなか見ない。

バイオパーク名物、アニマル課金システムだ。そろそろ正午になって動物は木の陰に寝転がっているが、コイン箱の前に立つ瞬間に目が色が変わって寄ってくる。

アルゼンチン原産、齧歯類のマーラちゃん。ウサギがキョンの大きさに成長したような感じだ。爪を使っておねだりする。掻かれたら痛い。意外とキンタマが大きい。

温室ドームではインドオオコウモリを近距離で観察でき。ぜひ鼻を近づいてにおいを嗅いでみよう。一日放置した洗濯物を思い出す。

これが伝説の蝙蝠拳の構えか。全く隙がないぜ。

コウモリを見ている最中にオウムがちょっかいを出す。

動物園で飼育されるアメリカンビーバーは巣にこもることが多く人前に滅多現れないとタイラダが云うが、この子が積極的に見せてくれた。仕事熱心だね。

数多くのフラミンゴの中でこの子だけが特にエサに積極的だった。色も格段に赤いし群れのボスポシションかな?

最近迎えたスナネコ。思ってたより大きくてがっしりしている。まるで家ネコがレスラーを目指して筋トレしたかのような風貌。

この角度からだと完全色に猛獣の表情。

哺乳類だけでなく、バイオパークは昆虫の展示も結構力を入れている。

どんでもない大きさのヒラタクワガタ。穴にハマっている姿が愛らしい。

コーサカス。まるでミニサイズの恐竜みたいでかっこいいだ。

アクティオンゾウカブト。生体はいなく標本のみの展示になっている。この重厚感がたまたん。個人的にかなり好きで小説の主人公にもなった。いつか飼育してみたい。

半身日焼けのヤギさん。

夏はカピバラ風呂がお休みになっている。俺はもうバイオパークの公式動画を観すぎてここで湯に打たれるカピバラを幻視できた。

日よけしているお猿さんたち。

写真はあまり伝わらないけどカピバラが大きい!キョンの2~3頭分の質量がある。課金すると寄ってくる。笹を持った小さい女の子がカピバラに追い回されていた。

水が滴るいいカピバラ。

サービス精神旺盛のコツメカワウソちゃん。かわいい。

サボテン、レールウェイ、そして丘の上にラマ、まるでメキシコだ。

ラクーンたち。通常時はこんな感じで寝転がっている。

課金すると雰囲気が豹変!皆が血眼になってガラスの方に群がって給餌口の隙間に手を突っ込んでくる!ゾンビアポカリプスじみた光景だ。グラスの前に寝ている同胞がいようが構わず踏む、踏まれた子は驚いたあとに戦局に加わる。その積極性はおろらくバイオパークで随一。

手を使って器用にエサをキャッチする。二足でホッピングしてエサくれくれアッピールする子すらいた。俺は楽しくてエサをあげながらもラクーンは食い意地と貪欲さ、そして器用さに恐れをなした。霊長類が地球から消えたら、次に文明を築くのは恐れく彼らであろう。

終了。雰囲気が和み、名残惜しくガラスを舐めだす子がいた。

おそらく野生の鶴

バイオパークは一通り回ったので、PAWの方に移る。PAWとは英語で動物の手や足を意味する単語だが、ここではPet Animal Worldの意味も兼ねている。いいセンスしている。

長崎バイオパークの公式チャンネルをフォローしている人なら何回も観たこある扉だ。ここから魔獣が出てくる。

これが先ほど言及した魔獣、ゴールデンレトリバーのきなこだ。観光客に全く興味なく、振り向くすらしない。隙あらば脱走を狙ったり、自力でドアを開けたりする天才犬ぶり。その元気溢れた姿全く8歳超えたアラサーには見えない。私は推しのアイドルを目前に萎縮するファンのごとく彼女の背中を崇めることしかできなかった。

きなことよく連んでいるボーダーコリーのメイちゃん。よく吠えて舎弟感を出している。

シェットランドシープドッグのさつき。もこもこでかわいいね。

マイペースの偏食家、柴犬のいなり。動画ではきなこハイになっているきなこたちを離れた場所で冷たい目で眺めるCOOLなレディである。

ここで突然肩に違和感が
「うわっ、アクズメさん肩が!」
「なんだ!?何があった!?」
「とりあえず動かないでくださいよ!」
タイラダがスマホを取り出して激写した。俺のマーモセットが肩に乗っていたのだ。

いい思い出をありがとう。マーモセットちゃん。

チンチラがお触りが可能。ふわふわすぎて無を触っているかと錯覚させる。

これは誰のお尻かな?

プレーリードッグちゃんでした。またPAWに就職して間もなく人を噛むこともあるそうなので要注意。

ネコたち家は休憩中になっているが猫は猫なので休憩しないで他のスペースを歩いたり狩に出る奴もいる。この子がカマキリを捕まえきていたぶっていた。

一方俺はカニを捕まえて逃した

長崎バイオパーク、とても楽しかった。片道2時間で来る価値は12分にあった。アニマル課金システムによって動物たちの積極性を引き出して刺激な体験ができて楽しいし善行欲求が満たされる。ここでエサやりの楽しさを覚えた子供が家に帰ったら軽率に野猫や鳩にエサを与えてしまわないかと俺は懸念する。教育が大事。

🦀

バイオパークを離れて、また2時間がかかる佐賀への帰路に発つ。体力が結構消耗しているが、目を閉じて仮眠を取るわけにはいかない。来たときは何ことも起きなかったが、となりで運転している獣人が俺を非合法BANDAIプラモ工場が僅かも残っている限り、警戒を解いてはいけない。不穏な動きがあったらすぐさま俺の神拳が炸裂する。

天高ーく 羽ばたいーて 最上よりたかく
さあ行こう ひろがる世界へぇーと プリキュッア~~

「うん?この曲、プリキュアか?」
「そうですよ。ひろがるスカイのOPです」
「そうか。ひろがるは観てないから知らなかった。プリキュアの曲にしてはバトルアニメ感が強いな。リリカルなのはかと思ったぜ」
「ひろがるスカイは観てないんですか?なんで?面白いのに」
「放送の時期はDCDアイカツプラネットのサービス終了やアイカツ10th、グリッドマンユニバースの上映と被っていてBANDAIヘイトが頂点に高まってな、さらに『無限に広がる青い空』というおま国に苦しんでいる人を揶揄するようなセリフ、俺は完全にキレてプリキュア卒業まで考えたぜ」
「そこまでBANDAIのことを憎んでいるんですね……それよりグリッドマンじゃ関係なくないですか?」
「いいや、大いにある。電光超人グリッドマンのカラーリングを言えば赤と銀がメイン、そして銀は時に白とも見えなくもない。つまりBANDAIのイメージカラーだ。電光超人グリッドマンは全身でBANDAIを表現していると言っても過言ではないのだ!」
「そうですか。でもひろがるスカイは相当面白いですよ。ぜひ見てほしいです」
「うむ、再来月は久しぶりオールスター映画があるし、それまでに履修するか考えている」
「余裕があればぜひ見てください」

会話が終了。車内にまたプリキュア曲しか響かない静寂が訪れる。佐賀シティはまたはるかカナタ。

🐟

警戒した甲斐もあって非合法BANDAIプラモ工場に売られず無事に佐賀駅に戻り、チェックインや駐車を済ませたあと、俺たちは今日最後の戦いに挑む。

蔵KURA、有明海の幸を使われたメニューが豊富な居酒屋だと聞いている。俺がワラスボの活け造りを食べたいと要望に応じてタイラダが2週間前に予約を取ってくれた。こればかりは感謝しないといけない。ありがとうよタイラダ。これで俺はやっとワラスボをやっつけられる。

しかし注文用のタブレットを見ると、ターゲットのワラスボの活け造りはどこにもなかった。どういうことだおい?

仕方なく干物を注文した。食えなくはないけど、こんな物じゃ聖戦とは呼べない。俺は頭がまた動いて悶え苦しんでいるワラスボを眺めながらそいつの肉を食べたいんだよ!

ムツゴロウのかば焼き。醬油と沼の味がする。

ウミタケという貝類。淡泊。

ワラスボの活け造りはなかったのでイカさんに犠牲になってもらった。頭がまた生きており箸で突くと苦しそうにもがく。イカは殲滅対象ではないので普通に哀れでしまう。これがワラスボだったらなぁ。味は新鮮で美味しいが所詮はイカ、想定内の味。

実を食べたあとにウェイターが来て、ゲソをどうなさいますかと尋ねたのでそのまま刺身にしてもらってイカさんの苦痛を終わらせた。

有明もん、珍しいっちゃあ珍しいけど所詮は珍味の枠を越えられていない。長く商業利用されてきたメイジャーな海鮮には敵わない感じだった。

ここまで来て疲弊したか、互いが口数は少なくなり、スマホを見始める始末。これじゃ普段の家飲みと何ら変わらない。やはりタイラダとは性に合わないかも。さっさと〆をつけて解散としようぜ。

と、注文してから数十分ほど待ってやっとお茶漬けが運ばれてきた。きっと格別に美味いだろうなと期待してたがそんなことはなかった。締まらねぇ。

(5日目に続く)



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