見出し画像

テイスペクター、底を突き抜け!

テイスペクバトル、それはPC性能の低さで競い合う自虐的競技である。

「くっ、負けた……!」

放課後の体育館裏、メガネの少年は両膝が崩れた。

「ザコが、てめぇがオレ様に勝つなんざ、64kbpで100TBのHDをパンパンにした方が速えんだよっ!」

背の高い少年はメガネの少年の手からテイスペマシンを強引に取りあげた。

「約束通りパージは抜かせてもらうぜ!」
「お願いやめて!このテイスペマシンにお年玉全部使ったの!」
「るせぇッ!」
「ぐぇ」

背の高い少年はメガネくんを突き、尻餅させた。彼の名は桜斗 ナシ、この辺でちょっと有名なテイスペクターである。緑色のメッシュが入ったワカメヘア、三白眼の下に不健康な隈に蒼白の肌、口の中に覗かせるトカゲのようなギザギザ歯、黒一色のパンク服にウォレットチェーン、いかにもワルそうだ!

「ザコでも多少使える部位があんだろ。どれどれ……」

戦利品のテイスペマシンにトライバーを突き刺して解体しようとしたそこ時、

「やめろー!!」
「ぶぎゃーっ!?」

突然もう一人の少年が助走つけて桜斗を殴り飛ばした!少年はぐるぐると宙を舞うテイスペマシンをキャッチし、メガネくんに渡した。

「はいこれ」
「あ、ありがとう、ヒートくん!」
「もう軽い気持ちで大事なもんを賭けにだすんじゃないぞ?」

助太刀した少年は爽やかな笑顔でサムズアップした。彼の名は大場 ヒート。赤みがかかった黒いツンツンヘア、強い意識が宿る大きく丸っこい目、鼻梁には絆創膏、着ているTシャツは袖がストⅡのリュウの道着みたいに破っている、野生味が溢れる少年だ。

「大場てめぇッ!ざけんじゃねえぞオイ!!」桜斗は上半身を起こし、殴られた頬を触れながら怒鳴る。「そいつは正式のテイスペクバトルでオレに負けた!勝者のオレにはそいつからパーツひとつもらう権利がある!山猿のお前でもこれぐらいを知っているだろ!」
「ああ、ルールは一応知っている。だけど桜斗、お前は敗者に敬意を払わないところか、暴力まで振るったのが気に食わねえ。もっとこう、紳士的に戦えないか!」
「そういうてめぇの方がよほど暴力的じゃねぇか!オレの顔みろ顔!腫れてんぞ!それにテイスペクターでもない奴に説教される筋合いはねぇ!」
「テイスペマシンならここにある」ヒートはランドセルから傷だらけで薄汚れたノートPCを取り出した。「死んだとーちゃんが残したPCだ」
「うん?おやじさん死んだの?それはご愁傷さまだね……それはそれとしてボロいPCだな。完全に壊れてんじゃね?『ギリギリ使える』じゃないとテイスペマシンとは呼べんぜ?」
「とーちゃんのPCを侮辱するなッ!」

ヒートの目がギラと光った。髪の毛は赤みが増し、まるで燃えているようだ。
「とーちゃんは会社から与えたこのPCで毎日毎日仕事して、ストレスが溜まって、溜まって……発狂して、会社のビルから飛び降りた!このPCにはとーちゃんの怨嗟と無念が篭っている!お前のような私欲のためにテイスペマシンを使って人を傷つけるやつを許してはならないと言っている!オレとテイスペバトルしろ!桜斗ナシ!」

ヒートは父親の遺品PCを掲げて宣戦布告。対して桜斗は手で目を覆って笑っていた。

「クッ、クギギギギ……怨嗟?無念?プフッ……ヒャーハハハハハ!なっ、なにを言だすと思えば……素人風情が、イキリやがってよォッ!!」

笑っていると思えば急にキレだす、情緒不安定か。元から小さい瞳が更に細くなってギョッとヒートを睨みつける。

「あんなもんでバトルに勝てるなら、オレ様がとっくにテイスペクキングになってるわッ!この世界の厳しさを思い知らせてやらァ!オラァ!こいつを受け取れ!」

桜斗が一本のUSBメモリを投げ、ヒートがキャッチした。

「時間ねえから一本勝負だ。その中のxlsxファイルを自分のデスクトップにコビーしろ。そのファイルを同時にEnterキーを押して先に開けた奴の負けだ。山猿でもこれぐらいはできるだろ?そこのメガネもやし!」
「は、はいぃ!?」
「運がいいぜ。おめぇからパーツ取るのやめた。代わりにジャッジをやれ。そして大場ァ!お前を負かして、そのボロPCをバキっと二つに折ってやるわッ!」
「望むところだ!とーちゃんを死なせたPCの恐ろしさ、思い知れ!」

ヒートはUSBメモリを手の中でスピンさせ、逆さに持ってPCにカッコよく挿入!これは特に意味はない!

(見ててよとーちゃん、テイスペマシンで悪さをする連中はオレが……)

心の中で亡き父を想うヒート。じきに始まる戦いで空気が張り詰める……と思いきや、30秒たってもヒートからOKサインが出ない。

「おい大場ァ、ファイルのコピーまたかよ~?」桜斗が足をゆすりながら言った。「もしかしてアレか?PCがボロすぎてUSBメモリすら認識できねぇのか?」
「……るせぇ!少し待ってろ!」

桜斗の言うとおりだった。さっきからUSBメモリを何度も挿し直したが、PCがそれを一切認識しない。

「頼むよとーちゃんのPC、このままじゃ不戦敗になちゃう!」

焦るあまりに、ヒートはPCを叩いてしまった。テイスペバトルにおいてマシンを叩くことはバッドマナーと見なす行為である。まるでテイスペデウスの怒りに触れたかのように、PCはハードディスクがギゴゴゴゴッと恐ろしい音を発し、排熱口から火を噴いた!

「と、とーちゃんのPCが〜~!!!」

(つづく)

こちらの記事からインスピレーションをもらいました。

テイスペクターよ精神を強く持て。

当アカウントは軽率送金をお勧めします。