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テイスペクター、燃えあがれ!

テイスペマシン、それはテイスペバトルに特化した競技用PCのことである。

前回のあらすじ:
少年、大場 ヒートは同級生の桜斗 ナシにテイスペバトルを挑むが、試合開始前にヒートのテイスペマシンが炎上!ヒートは初戦不戦敗の屈辱を背負ってしまうか!?

「クギ、クギギギ……ギャーーヒャヒャヒャヒャッ!!!フヒ、フヒヒャヒャヒャヒャこほっ!?えっほ、えっほ!うぇええけっほ!びるげっつぉほっ!」

笑いすぎて盛大に噎せてしまう桜斗。その顔は楽しい60%苦しい40%という微妙な表情を呈している。

「マシンがポ、ポンコツすぎて、燃えちまった!こりゃ傑作だ!テイスペバトル史上たぶん初めてじゃねえか?おめぇある意味天才だぜ、大場!おめぇのことは未来永劫語り継がれるだろうーー伝説のマヌケとしてなァッ!クギャギャギャギャギャギャギャ!」
「ぐぬぬっ……チクショー……!」

煽られても言い返すことができず、ヒートは悔しさに拳を握りしめていた。同年齢男子の平均もより発達した腕の筋肉がこわばり、血管が浮かびあがる。

その時、燃えているPCから”ディドゥン”の音が鳴った。

「ん?」「えっ」「ウソだろ?」

3人は訝しんだ。燃えているノートPCがついてUSBメモリを読み取れたのだ。

「ば、バトル継続可能です!速やかに開始の準備を!」
「お、おう!」
「マジかよおい!?こんなに燃えてんのにまた動けるってのか!?」

ヒートは急ぎにPCを操作する。手の皮が分厚いため多少の高熱なら我慢できる。タッチパットはまた生きている。ダブルクリックでUSBメモリを開く。中にあるxlsxファイルをCtrl+Cでコピー、Ctrl+Vでデスクトップにペースト。転送バーが走る。

(とーちゃんの怨念がPCに限界を越える力を与えた……きっとそうだ!)

今にも溶けつつある液晶モニターに、亡き父の顔が浮かんだ、そんな気がした。そしてようやく転送バーが100%に走り切った。

「両選手、準備はいいですね!?」

いよいよテイスペバトルが始ま流。メガネくんは両手を広げて選手に最終チェックを求める。

「応ッ!」

力強く応えるヒート。髪の毛が炎のように揺れ、肩から陽炎じみた闘気が登る!

「しぶてー野郎だ。いいぜ、オレ様が徹底的に潰してやるぁッ!!」

桜斗は自分のワカメヘアを手で梳いてオールバックに整える。彼が本気を出す時の仕草だ。背後からに黒紫の邪悪な気が蠢く!

「スルー・ザ・ボトム、テイスペバトル!レディーー」

メガネくんが右手を高く掲げる、そして、

「FIGHT!!!」

振り下ろす、両選手が動き出す!

「ハァァーッ!」

ターン!ヒートは人差し指でEnterキーを力強く押す。

「シャリァーッ!」

桜斗は人差し指、中指、薬指を束ねて、空手の貫手じみた形でEnterキーを叩く!両者のタイミングがほほ同時、これからは各のテイスペマシンを見守るしかない。

(ケッ、素人がイキリやがったせいで、ついカッとなってペルセウス突き使っちまった)

説明しよう。ペルセウス突きとは、桜斗ナシが独自開発したテイスペスキルである。貫手のように三本指でキーを叩くことで、各指の微妙な長度差で傍らから一回押したように見えて、実は一瞬で三連撃を叩き込んでテイスペマシンのCPUに物理的負担をかける高度テクニックだ。まるで神話の冥界を守護りし三頭犬の如く、一匹が噛みつき、もう一匹が引き千切り、最後の一匹が噛み砕く......と彼はノートで自慢っぽく書いた。

(まあいい、これでオレ様の勝利は盤石となった。そんなPCじゃ、ファイルが開く前にモニターが溶けるだろうな)

冷笑を浮かべる桜斗。モニターに緑色のブロックが現れる……Excelのタイトルの下に白い点が左から来て右に消える……画面が止まる……また動く……ブロックの下にExcel起動中(0%)の文字が表示される……これまですでに60秒以上経過。職場なら悪夢めいた光景、これがテイスペバトルだ。

「さっきの一戦でオレ様のマシンがワーミングアップ済みさ。この様子だとあと3分いけるだぜ。ヘヘヘッ」

桜斗は余裕綽々な態度を見せる。対してヒートは歯を食いしばり、じっと自分のモニターを見つめる。テイスペマシンはPCとしては低性能だが、ギリギリ使えるこその競技用機体。試合中にハードウェアの不具合で続行不可能と判断された場合、即敗北となる。

「とーちゃん……頼むッ!」

ヒートは嚙み締めるように言った。まるで彼に応えるように、ノートPCのバッテリーがポン!と膨張し、機体を高く跳ねさせた。燃ゆるノートPCは放物線を描き、桜斗ナシのテイスペマシンに激突!

「アアー!何すんだてめぇ!?こんな反則だろジャッジ!?」
「あっ、いやっ、不可抗力のため、反則じゃありません!」
「チックショー!でもオレの勝利に揺るぎは……うん?あぁ?アアアアアアーッ!!?」

打ち所が悪かったか、それともよかったというべきか。Excelの起動%数が急速に増加!25%、64%、97%……桜斗のマシンの画面にExcelが正常起動した。

「ゲームセット!桜斗ナシは先にファイルが開いたことにより、大場ヒートの勝利!」
「ヤッッタァァァーーッ!!!」
「バカナァァァァーーッ!!!」

勝どきを上げるヒートと崩れ落ちる桜斗。その時、ノートPCがついに限界を迎えた。KABOOOOOM!ノートPCが爆発し、パーツ類がグレネード破片のように飛び散る!

「あぶねッ!」
「うわっ!?」

ヒートは野生児の反射神経でメガネくんを庇って伏せることで破片を回避するが、桜斗ナシは敗北のショックで反応が取れず、パーツをの雨を浴びてしまう!

「ぎにゃあああああああ!!!」

L!O!S!E!R!5つキーが桜斗の顔面に直撃してLOSERの印が焼き付く!桜斗は白目を剥き、気を失った。

「ふぅ、大丈夫か?」
「はい、何とか……ありがとう」

ふたりは立ち上がり、ノートPCの爆発跡と倒れている桜斗を見て、思わず「うわぁ……」と嘆いた。

「その、残念だったね、ヒートくんのお父さんのパソコンが……」
「うん、でも大丈夫。生前さんざん苦しまれたPCで生意気なガキに目にもの見せたから、きっととーちゃん喜ぶよ!」

立ち上るPC燃焼煙を見上げる。まるで父の魂がようやく低スペックPCの呪縛から解き放たれたのようだ。

「あの、ヒートくん。テイスペバトルのルールに則り、勝者は敗者からパーツをもらう権力があるけど……」
「そういえばそうだった。でもまぁいいや!元々奴を懲らしめる目的だったし、マシンはもう無いもんね!」

ヒートの表情も何か振り切って感じだ。

「あっ、もうこんな時間!弟の迎えに行かないと!じゃあな!」

ヒートは手を振って校庭の方へ走った。彼は今日が最初で最後のテイスペバトルにするつもりだった。けれど運命がそう簡単に彼を手離さなかった。校舎の5階、双眼鏡を構えている人影がいた。

「ほほお、面白いもんを見せてもらったわい」

(続く)

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