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FIGHT! スクィーザー!

去年の話の続きです

 鹿児島市、九州最南方の都市、かつて日本文明の終着点、鳥刺しはスーパーで買える、豚カツは少し生でも食べれる、グルメの街、よかとこ。

 それが今、渾沌の様相を呈している。

「ゲェーッ!」「ケゲーッ!」鹿児島中央駅前の広場上空をソアリングしている怪鳥バーピーの大群!輪郭が人間に似ているものの、全身が羽毛に覆われ、手足に鋭いかぎ爪が生えており、顔の鼻と口の代わりにくちばしを備えている。その異形の姿まさに神話上の怪物その物だ。

「いやぁぁぁー!!」「ぎゃぁぁぁぁ!!」「ごわぁぁぁっす!?」逃げ惑う市民!「ゲーッ!」そこへハーピーの猛禽類めいたダイブからの滑空蹴り!「オワッ」背中が裂かれて俯きに倒れる中年男性!「ゲゲーッ!」パンチを繰り出すハーピー。「ウッ」鳩尾を殴られて苦悶する女性!「ゲェアーー!」「ヌッごわす!?」もう一匹のハーピーが足で着物男性の両肩を捕え、羽ばたいて上昇!「痛いごわす!やめろごわす!」暴れる着物男性、しかしハーピーは全く動じず、安定に飛行して、駅に直結したデパートの屋根に着陸した。

「ごわッ」無造作に放られたコンクリートを転がる着物男性。「一体何にごつ……ッ!?」

痛みを耐えて立ち上がる着物男性が見たのは、鈍色で縁に青と赤の線を塗装したバトルスーツを着込み、二列になして片膝ついてる戦士ハーピーたち、精錬された戦闘者の雰囲気、広場で暴れているハーピーたちと明らかに格が違う。そして列の先に、同じ色のスーツを着、雄々しい角を備えた雄牛を模したヘルメットを被った250㎝超の偉丈夫が歩み寄ってくる。

「フモー、いい身体だ。よい戦士になれる」と牛ヘルメットが言った。着物男は180m141kg、実際屈強な相撲力士であった。

「ウォォォー!GO WARS!!」本能で不穏を感じ取った力士はいにしえのサツマ・モージョーを唱え己を鼓舞し、四股を取って牛ヘルメットに向かって突進!両傍の鳥人戦士は止めに入るが間に合わない!力士瞬発力!

「フンンンーモーーーッ!!!」「GO WARS?!」

 力士は訝しんだ。軽トラの衝突に相当するぶちかましを、牛ヘルメットはほぼ直立の姿勢で受け止めたのだ。まるで大理石の柱にぶつかった感触だ。

「フォモモモ……生きがいい、良きことよ」

 牛ヘルメットはハッグみたいに右腕を力士の背後に回して首を押さえつけ、右手は腰のホルターに納めている拳銃に伸ばした。

「ご、ごわっ!」もがく力士。その時彼は気付いた。相手は牛型のヘルメットを被っているのではなく、牛の頭にフィットしたヘルメットを被っていることを。

「み、ミノタウロスごわす……?」「フモー」

 BASH!こもった銃声。力士の腹に黄緑色の弾丸が撃ち込まれた。

「カゥ……ゴ……グフ……!」力士は苦しみだし、ツルツルの肌に緑色の細い羽毛が生え、手足の爪が瞬間に延びて爬虫類じみた鋭いかぎ爪に、口と鼻に角質の板に何重も重ねてを形変えてゆく、30秒後、力士だったものは立ち上がった。

「ポカガーッ!」

 おお、何ということか!?そこに居たのはもはや人間の面影もなく、緑色羽毛に覆われたカカポハーピーとなったのだ!?

「フモモモー!ようこそ、新たな兄弟!ワシの名はティーボン、お前の主人だフモー」「ポカガッ!」

 カカポハーピーが牛人の前に片膝ついて忠誠をしめした。

「フモー、共に行くぞ!」

 ティーボンの呼びかけに応じて、戦士ハーピーたちは一斉に立ち上がった。

「この世のすべての者に、つばさを授けよう!」

「「「ゲゲーッ!!!」」」

 鹿児島は今、牛人とそのパーピー軍団の侵攻を受けている!

🍺

旧き時代、英雄テセウスによって討たれたと思われたミノタウロスとその眷属のごく少数の生き残りがポセイドンのマンタ型潜水要塞を奪い、エーゲ海から脱出した。海を彷徨い、太平洋のとある島にたどり着いた彼らは原住民である鳥類人間の間にイクサが始まった。飛行能力を有する鳥類人間は強敵であったが知性が乏しく、ボセイドンが残したテックと軍事力で最終的牛人は最終的に戦争を制し、鳥類人間ーーパーピー族を服従させた。再び土地を得た牛人たちは文明を築き、島を発展させた。しかし彼らは忘れていない、人間に王が殺され、土地を奪された屈辱を。ポセイドン・テックをもとに、島を磁器バリアで覆い隠す装置と、生物を強制に鳥人化する遺伝子改変カフェイン『紅OX』を開発した。彼らは潜伏する、再び表の世界に現れ、全生物につばさを与え、支配するその日まで。

🍺

「ケエストーッ!」「キェビッ」「ケエストーッ!」「クワッ」「ケエストーッ!」「ごわァ」

 天文館アーケード、ぼっけもんハーピーがカタナで市民を斬りつける!古来からこの地を守ってきた彼らは牛人が侵攻する際に真っ先に立ち向かったが、鳥人に変えられて、今やその刃は本来守るべき市民に向かっている。

「モーフ、惰弱の霊長人ばかりだな。もうここら辺に戦士にできそう奴はいなさそうか……」後ろでアサルトライフルを提げている指揮官牛人のフィレがつまらなそうにに呟いた。「あと半日で制圧できそ……」

「チエストーッ!!!」

 突如背後から貫禄がある示現流シャウト!ジャージの上に骨董品と言わんばかりのサムライ胴当てを乗せて、鰹節めいた褐色肌の老ぼっけもんがカタナを上段に持ち、通常ハーピーどもを切り倒し、突き飛ばしながら一直線に突っ込んでくる!

「牛鬼め!ワシの弟子を天狗にしおって!覚悟にごっ!」

「ハッ、師匠さまが自らお出ましか。銃を使えば一発だが、あえてあんたの流儀に乗ろう。行け!」「ケォワス!」「ケェストーッ!」

 フィレが指差し命令を下すと、三匹のぼっけもんハーピーは鳥人示現流を構えた。

「退けィ!弟子だろうと魔に落ちた者はチエストする!」

「「「ケェエストーッ!」」」「チエストーッ!」「ゲェーッ!?」「チエストーッ!」「ガァアア!」「チエストーッ!」「キュエッピー!」

 吹き飛ばされるぼっけもんハーピー!なんたる剣圧!「GO WARS!」フィレに目掛けて跳躍斬撃を繰り出す老ぼっけもん。

「ケェエストーッ!!」「どぅわー!」

 新手のぼっけもんハーピーの滑空蹴りに遮られ、地面に叩きつけられた老ぼっけもん!

「終わりだモーフ、弟子どもと仲良く我らに仕えるがいい」「ぐっ……ぅ……悔しか……!」

 フィレは紅OX弾を装填したライフルで老ぼっけもんを狙い定めた。

「つばさを授けてやろ」トリガーを、引……ZAAP!「モウ!?」他所から奇妙発射音、トリガーにかけている右手が衝撃を受け、白い粘質の液体が泡立ちながら膨脹し、グリップごとフィレの右手を包み込んだ。

「これは!?」銃声の方向に見やると、そこに灰金色の丸みを帯びた、胸に「KIRIN」の文字と神獣麒麟のマークが描かれたアメフトギアめいたパワーワードスーツを着た者と、その後ろに似た姿の白いスーツを合計4人が居た。

「コホン、私はKIRINのファースト・スクィーズ隊隊長、スクィーザーである!」灰金色から意外と若い女性の声で宣言した。「これより市民を救助し、および秩序を害するスッ、存在をォ!排除する!ミッションを、開始するッ!」言葉がちょっとぎこちない!「隊長、また噛んでしまった」「ドンマイ」「次はきっと上手くなりますよ」後ろで隊員がフォローに入る。「ガァァ……」隊長のスクィーザーはバックパックとホースで直結したSMGらしき武器を構えた唸り声をあげている。ヘルメット下の顔は真っ赤!

「KRINだ……」「KIRINが助けに来た!」「ならば安心にごわす!」

恐怖していた市民の顔は今や希望に満ちている。一年まえ、宇宙から侵略してきた「スター☆ディアス」の一団を退けたのは他でなく、KIRIN社の企業ヒーロー、キルリンなのだ!

「とにかく、全員、斉射!」「「「「ラジャー!」」」」

 ZAPZAPZAPZAPZAP、ZAAAP!マルチプルファンクションスロアー「サーヴァー」から拘束弾を連射!

「ガァーッ!」「ゲゲーッ!」「キュエピー!」フィレを守るべく、盾となって発泡拘束弾に固めたれるぼっけもんハーピー!

「モーフォフォフォ!待ちわびたぞ、KIRINの企業戦士たち!」ナイフで発泡剤を削りながら不敵に言い放ったフィレ。「諸君らに、とっておきの相手を用意したぞ!来い!」

 パッシャーーン!アーケードの天井の突き破り、新手のハーピー、黒い羽毛、黒い目、くちばし至って真っ黒、烏のような外見、袖を引きちぎられた、辛うじて19世紀英国風のスーツと認識できるズタズタの服を着いてる。まさか、あの姿は!

「児羅夫……先輩!?」スクィーザーは訝しんだ。完全に変貌しているが、服の特徴、そして右手に装着しているスチームパンク風の変身ギアがKIRIN所属の企業ヒーロー、キルリンことタイセイ・児羅夫そで間違いなし。

「モーフ!その通り。こやつは無謀にマスター・ティーボンに一騎打ちを挑み、無様にハーピー化されたキルリンだ!」

「カカー……」KRASH!ハーピーキルリンは道に設置したKIRIN自販機に蹴りを入れて破壊!スクラップになった自販機から午後の紅茶ストレートティ―500mlを取り出し、変身ギアに差し込んだ。

『テイスト、グゥゥーッド』変身ギアから禍々しいデスボイス!同時に赤黒い蒸気が噴出し、ハーピー・タイセイの体表に凝縮した、錆びたスチームパンク風装甲を纏った鳥人戦士、キルリン・レイブンの完成だ。

「そんな、こんなことが……!」憧れの先輩が人外に変えられ、自販機を破壊して奪った紅茶で変身した。その光景がスクィーザーにショックを与えた。

「モーフォフォフォー、そいつらは任せたぞ」「カックァー!」

 キルリンRが地面を蹴り、翼を広げて字面擦れ擦れに高速低空飛行!

「隊長!」「どうしますか!?」「おっ?おう!」

 部下の呼びかけがスクィーザーを現実に引き戻した。

「散開!あんた達は市民を安全場場所へ!先輩は……」サーヴァーを握りしめる。「私が何とかする!」

「カックァー!」「グワーッ!」

 衝突!キルリン装甲で強化された鳥人体当たりはミサイルのようにスクィーザーに突き刺し、組み付いたままアーケード内を飛行。

「クソ!大人しくしてなよ先輩!ワッ」近距離で拘束弾を打ち込もうとするスクィーザーをキルリンRが体を丸めてから蹴りを放った!「ウグァッ!?」スクィーザーがワイヤーアクションみたいに飛ばされ、止まっている路面電車に激突した。CRAAASH!

「ウゥ……!」軋んだ車体から体を剝き出し、体勢を立て直すスクィーザー。その時キルリンRは上空340メートルまで上昇し、鳥人視力で豆粒大のスクィーザーを狙い定め、ダイブ!その手にあるストレートティーソードはすでにもう一本の午後の紅茶が差し込んでいる。〘ブラット・ティー!〙血液めいた赤黒い刀身が生成!KIRIN科学力と鳥人身体能力を合わせたスカイダイブ斬撃だ!一方、キルリンRの狙いを勘付いたスクィーザーはザーヴァ―をライフルモードにフォームチェンジした。銃口が伸び、畳まれた銃床が展開し、より長距離射撃に適した形となった。

「サック、網弾!」〘イェス、マンマ!〙スクィーザーのサポートAIが軽快な英語音声で返事した。ドゥン、ドゥン、ドゥン!発射された三発のグレネード空中で炸裂して捕縛網を展開。キルリンは身を翻して一発めを回避、二発目を回避、三発目を……「カカーッ!」ソードで切り裂き、そのまま一直線突っ込む!

「カクァァァァー!!!」「ウォオオー!!!」

 迎撃すべくライフルをバットのように構えたスクィーザー、その時である!

KABOOOM!

 キルリンRの横からミサイルが着弾!「ゲッヘェエエ!?」撃墜されてアスファルトに二回バウンドしたキルリンR。一秒後、市街地の上空にスター☆ディアスのマークが付いたアーミーグリーンの戦闘機が通過するさま、腹部から黒い棺桶状の着陸艇が投下された。着陸艇が地面から高度20mの距離で逆噴射を行い減速、「コン」と着地した。シュー、高圧気体が排出され、中から紺色のミリタリースーツを着た長身の鹿人間が降りて出た。千年桜を想起させる壮麗な二本角、一年前に地球侵略を征服しかけた鹿人間の首席戦士、今や世界最大手のコーヒーショップ「スター☆ディアス」のCEO、キャプテン・ディアその者である。

「アォン、運が良かったなKIRINの者よ、この俺がちょうど東京に出張していた時に……」

「タイセイ先輩!」

「カァ……ゲァ……」

 スクィーザーはキャプテンに構わず、倒れているキルリンRの元へ駆けつけた。キルリン装甲は既に赤い霧と化して散っていった。ハーピータイセイは辛うじて意識を保っているが、くちばしから血液が流れながらも、鳥類のまるい目に敵意が満ちている。

「先輩、私のこと覚えてないんですか!」

 スクィーザーはサーヴァーと連結しているホースを抜き、変身を解除した。パワーワードアーマーが泡となって散っていき、オーカー色のツナギを着ている短髪女性の素顔が露わになった。彼女はノドカ・名天(なあま)、21歳になった途端スクィーザーの変身者に抜擢されたKIRINビール工場の元作業員だ。

「カーッ!」「痛っ!」

 助け起こそうと伸ばした手を、ハーピータイセイは爪で払いのけ、血が滲む三本線を残した。

「タイセイ・児羅夫。俺を一度倒した男が牛人の手先になったとは情けない話よ」「ちょっとあんたその言い方ないじゃない!先輩は無謀を知った上で強襲偵察を……」

 と言いながら歩み寄るキャプテンにノドカは感情に任せてぶつけた。鹿人はフッと息を吐き、瞼に長いまつ毛が生えた目で見降ろした。

「おい小娘、この俺がわざわざ助けに来てやったんだ。感謝されても罰が当たらんはずだぞ。まあいい、お前たちに必要なのはこれだろ」

 キャプテンはポーチを探り、一本のアンプルを取り出した。

「それは?」「鳥人化カフェインの中和剤だ。急ぎに作った物だから有効とは言い切れない、持ってサンプルがあれば……っておい!」

 キャプテンの説明を待たず、ノドカはアンプルを奪い取り、躊躇なくハーピータイセイの胸に打ち込んだ。「ガッ、ゲェー!?」青い液体が流し込み、タイセイが苦しみだして激しくのたうつ!

「何ということだ!?最悪の場合、あいつは死ぬぞ!」

 訝しんでいるキャプテンに、ノドカは振り返って言い放つ。

「タイセイさんは本物の英雄です。そして英雄は、いかなる逆境に置かれようと必ず立ち上がる。私はそう信じている」「娘ぇ……映画の見過ぎか?」

 苦しそうに転がっているタイセイを、二人は静かに見守った。やがてタイセイを覆っていた羽毛が散って人間の滑らかの肌が表れ、元の青年姿に戻った。

「先輩!良かった……!」「ケホ、コッホ……!長い悪夢から覚めたようだぜ。ありがとうな、ノドカ、キャプテン・ディア」「アォン、思った以上しぶとい野郎だ」

 ノドカの肩を貸して立ち上がるタイセイ。しかし彼が休息する暇もなく、高見橋の方向から凄まじい存在感が迫ってきた。

「ゲェー!」「キッキーッ!」「ポロッポ!」「ケーッホッキッキョ!」「ポカカー!」「キェーッ!」「ガーグァー!」「ケルエビー!」「バーカ!バーカ!」「ミァオー!」「ギゴグァーイ!ギゴグァーイ!

 色と種類が豊富のホーピーの大群!その先頭に立っているのは牛人の司令官ティーボンとフィレ、後ろには14名の熟練戦士ハーピー!

「……ノドカ、紅茶を持っているか?」「その体調で変身する気ですか先輩!?」「質問を質問をで答えるな。午後の紅茶がないかと聞いている」「……はい、あります。予備の分なら」

 気圧され、ノドカはバックパックからぬるくなった午後の紅茶500ml瓶を渡して、タイセイはギャップを捻り、一口飲んだ。

「アァー……ティータイムとはいかないが、これで少々余裕が出来たぜ。敵さんが自ら出てくるとは逆に都合がいい」

 糖分とカフェインが全身を渡り、元気を取り戻したタイセイは獰猛に笑った。

「先輩、まさかアレをやっちゃう気で……」

「フモー!妙な騒ぎがして来てみれば、直立猿に媚を売った負け犬ならぬ負け鹿がおったとは!」

 スピーカーを用いずとも空気を揺るがす大声で、ティーボンが言い放った。挑発に対し、キャプテン・ディアは鼻を鳴らした。

「そして今や世界102国5000店舗の企業主だ。どうせ、暴力を振るうことしかできない鄙野な牛人どもは知らないだろうな、経済の力がどれ程素晴らしいか」

「フモー!猿のルールに委ねておって、それが惰弱だというのだ!そしてそのこに居るのは敗将キルリンではないか!惜しい事よ、ハーピーの姿で居続ければ吾輩と共に永遠に戦場を馳せるだろうに!

「ティータイムのない生活はごめんこうむりたいぜ。しかもくちばしで水を飲むだけでも難儀だ」と言いながら、タイセイは午後の紅茶ボトルを左腕のい変身ギアに差し込んだ。〘グーッアォフタヌーーンッ!〙イギリス訛りの紳士的音声が響いた。

「お前も変身だ、ノドカ!」「ハイ!」

 と言われたノドカもキリン一番搾りを取り出し、サーヴァ―に挿した。〘ドリンキアップ!ベイブ!〙軽快な英語音声!

〘ディーッリッシャース!ナイスサーブ、スァー!〙午後の紅茶を飲んだハンドギアは赤い霧を噴出し、タイセイの体表に凝縮。夥しい蒸気と共に、歩み出る者あり!その者は紅茶のような輝かしいスチームパンク的アーマーを纏い、その頭部は神獣キリンを模したフルヘルメットを被っている。彼こそが東洋において最高の製茶技術を持つKIRIN社が作り出した企業ヒーロー、キルリンである!

 そして隣に、キリン一番搾りを摂取したサーヴァーを天に向かってトリガーを引いたノドカ!〘スクィィィーズゥ!レッツ、ドリンカッッップ!〙音声と共に銃口から大量な泡が噴き出し彼女の体を覆った。泡がポポポポと破裂していき、アメフトギアめいた丸みを帯びた灰金色のパワーアーマー姿が現れた。東洋において最高のビール醸造技術を持つKIRIN社が作り出した企業ヒーロー、スクィーザーだ!

「かっこいいじゃないか、妬むね、俺はそういうギミックないからよ。せめてこれでガチャガチャやっとくか」

 キャプテン・ディアはわざとガチャガチャと声を立て、回転弾倉式のグレネードランチャに「FROST」「BLIZZARD」「LAVA」と書いたコーヒーカップを詰めた。

「フモー、どうやらここがクライマックスのようだな!者ども、ゆけぃ!」「ゲェー!」「キッキーッ!」「ポロッポ!」「ケーッホッキッキョ!」「ポカカー!」「キェーッ!」「ガーグァー!」「ケルエビー!」「バーカ!バーカ!」「ミァオー!」「ギゴグァーイ!ギゴグァーイ!

 ティーボンの命令を受け、ハーピーたちは一斉に動き出した。ある者は羽ばたいて上昇し、ある者は脚力を生かして疾走する。トゥーン!迫りくる鳥人の群れに向かってキャプテンはBLIZZARDチップフラペチーノ弾を発射、コーヒーカップが放物線を描い、KABOOOM!冷気の爆発で空気中の水分が凍結!

「ゲェー!?」「ガグァー!?」霜が羽毛にくっつけて飛行が困難になった空中のハーピーが次々と落下してゆく。飛行タイプには氷が有効、一般常識だ!低温に恐れず、まるで戦闘機の編隊を組んで飛来する熟練戦士ハーピーにスクィーザーは散弾連射で弾幕を張る、BRAKABRAKABRAKABRAKA!

「スクィーザー!ここはおれに任せてお前はプレミアムフライデーナイトの準備を!」「ハイ!」「よしじゃあ行ってくらァ!」

 バックパックと足の裏から高圧蒸気を噴射してキルリンは高く跳躍して戦士ハーピーを迎撃する。

「何を企んでいるかしらないが、もう一度ハーピーにすればこっちものモフ!」ライフルでスクィーザー狙い定めたフィレ。「もし巨乳の女牛人になれたらこの俺が嫁にしてやってもいいぞ!」トリガーを引……ZAPZAPZAP!多方向からの拘束弾がフィレを捉えた!「またか!?」忽ち発泡材が固まり、フィレを完全に無力化した。

「隊長、遅くなりました!」「みんな無事だぜ!」「市民の非難は完了しました。あれをやりますか?」

「ああ、勿論、一気に決着をつけよう!キャプテン!カバーをお願い!」

「アォオン!急げ!こっちも残弾がそんなに多くない!」

 キャプテンはナパーム・エクスプレッソを放ち、火の壁で地上のハーピーの進路を妨げた。後ろにファースト・スクィーズ隊員たちが背中のコンテナをスクィーザーのパックパックと直結し、中に収納されている業務用キリン一番搾り20L入り樽を合計4つが高速循環始めた。ビールが4倍、楽しさが20倍!プレミアムフライデーナイト!

〘プレェェェミィアーンム!フライデイーナィイイトッ!〙

 ハイテンションの機械音声ともに四人が持っているサーヴァーが榴弾砲の大きさがあるランチャーに変形した。

「FIRE!」「「「FIRE!」」」DDDDOOOOOOOOM!!!!

 四つの砲口が斉射!四つの金色の光球がハーピーの大群に向かって飛んで行く。

「まずいフモ!」拘束状態のフィレは唯一そとに露出している尻尾を器用に使って天文館アーケードないに転がって避難した。「……」迫りくる光弾に対し、ティーボンは無言で紅OX弾が入った拳銃を自分の側頭部に当てた。

SPLAAAAAAAAASH!!

 光弾が着弾し爆発!道路が瞬時に泡と琥珀色の液体のプールになった!上質のホップと一番流れ出たでしかなしえない麦汁の香りが辺りを充満した。ハーピーに変えられた者たちは潜在的日本人遺伝子が刺激され、ごくごくと液体を飲み始めた、そして。

「ゲェ……」「キッキ……」「ポロッポ……」「ケーコケーコ……」「ポカ……」「キィ……」「グァーグァ……」「バ、バーカ!バーカ!ハァ……」「ミァア……」「ギゴグァ……イ、グァイ……

 ハーピー達は、酔った!たたらを踏み、文字通りの千鳥足!もはや戦闘ところか飛行すらままならぬ状態に陥った。

「ヤッタ!」「いや、まだよ!」

 作戦成功に喜んでいる隊員を制し、スクィーザーは空を見上げた。雄大な影が翼を広げて咆哮をあげる!ハクトウワシの頭部に闘牛の二本角が生えた牛人ハーピー、間違いなくティーボンその者!

「フンモォオオ!霊長人らしい小賢しい真似を!だがいい気になるな。ワシ一人でも貴様ら惰弱者を始末するに、十分!」

「アォオオン!ビーフ野郎め、紅OXカフェインを自分に打ったのか!」

 キャプテンとファースト・スクィーズの四位がありだけの銃弾をばらまいて防空弾幕を張るがティーボンは哄笑する!

「モォハハハ!そんな豆鉄砲が有蹄類と鳥類最強の種を融合した、牛につばさを得た如しのワシに効くものか!」「鉄砲はダメならキックはどうだ?」「ナッ」

 ティーボンは目を見開いた。次の瞬間、上方からの鋭い蹴りがティーボンはの鎖骨に刺さった。ティーボンは姿勢が崩れ、失速して墜落。パァン!道路にもう一つのクレーターが生じた。その横に、背中に一体の黒いつばさが生えたキルリンがピタッと軽やかに着陸した。3秒後、切り傷を受けた戦士ハーピーも次々と墜落した。

「バカな……なぜつばさが生えている……?」

 クレーターの中に、辛うじて立ち上がりながらティーボンはキルリンに問った。

「あぁ?知らねえよ。おたくの手下と苦戦しててももし翼があればいいなと思ってたら生えた。どうやらあんたが打ったカフェインのせいで身体かわちまったらしい。原理は知らんがね」

「こんなご都合なッ!認めんぞ!」

 拳銃に手を伸ばすティーボン、ドゥン!そこへキャプテンと・ディアが放ったFROSTチップフラペチーノがインターセプトし、ティーボンの首以下を凍結させた。

「油断は禁物だぞタイセイ・児羅夫」「先輩!大丈夫ですか!?」「ああ、済まない。こう見ても結構しんどい……ぅ」

 タイセイはハンドギアのレバーを倒すと、〘ティータイムオァップ〙の紳士音声と共に装甲が赤い霧に化して散っていった。

「ノドカ、仕上げ、頼めるか?」

「……ハイ!」

 スクィーザーはクレーターに跳び下りて、身動き取れぬティーボンのの前に立った。

「牛人類の指揮官ティーボン、テロリズムおよび拉致、傷害、破壊行為など容疑で貴様を拘束する。審判結果がでるまで日本政府に与えられた権限により、貴様はKIRINの管理下に収監、保護する。わかったか?」

「フッモモモ……これで終わりだと思うなよ直立猿、そして鹿ども。ワシは先遣隊だ。間もなく本隊が上陸し、ハーピーが貴様らの空を覆いつくし」「話はラボで聞く」

 スクィーザーは渾身の右フックを放ち、牛鳥人の頭を「ゴッ」と殴った。脳が揺さぶられ、ティーボンの目に星が行き来った。

「動けぬ状態で殴るとは、卑怯な……」

 ティーボンは昏倒した。

🍺

「まずい、これは非常にまずいモーフ!」

 なんとか拘束を解けたフィレはティーボンの敗北を目にして、商店街にある牛丼屋のトイレに駆け込んで母艦との通信を試みた。

「モーモー、こちらは先遣隊、副隊長フィレもす。偉大なる母ケオタル号、応答をお願いもす」

『こちら偉大なる母ケオタル号ブリッジ。その様子じゃ、作戦は失敗もすか?』

「ええ、そうもす。KIRINの一団とキャプテン・ディアに邪魔されて、指揮官ティーボンは捕縛されもした。仕方ないもすね彼は、いつも派手な作戦を立ち上がって……私はもっと穏便にやるって言ったけど全然聞き入れてなくて……」

『言い訳はいいもす。交戦記録を持ち、早めに帰艦されもし。ビッグシスターは直々に聴取する』

「ほい、了解しもした。しかぁしビッグシスターかぁ~二つ目の胃が痛くなる……」

 ブガーブガー!通信機向こうでサイレンが響いた!罵声混じりの喋り声が聞こえてくる。

『なに!?』

「おい、向こうはどうなってんだ!?」

『私が知るか!とにかく、早めに帰艦されもし!OXER!』

「本当にどうなってんだ……?」

 トイレの中に立ちつくしたフィレであった。

🍺

「第三ブロック浸水!」「営室に火災発生!」

 ブガー!ブガー!フィリピン海某所、マンボウ型潜水艦偉大なる母ケオタル号、牛人たちの国における国母ケオタルの名を冠したこの船は今混乱に陥った。震動する船体、時々聞こえる爆発音、罵声、浸水、走り回る船員。その中に艦長および今回の作戦総指揮官「ビックシスター」のカエデアオをはいつも通り、ブリッジの艦長席に沈んでいる。彼女は胸(四つ)が豊満で、四肢はまるで鋼鉄のような厚い筋肉に覆われている。

「騒動の原因はまだわからぬか」

 絶体絶命の状態なのに、カエデアオはまるで遠い国のでき事のように緊張感のない口調で聞いた。

「すみもせん、通信が混雑で、船員たちも混乱しているようで、多く者は巨大なワニかトカゲの怪物が船内に侵入したとの報告が」

「ワニ?500mの深度だぞ?」

「それは……」

 パァン!その時ブリッジのドアの勢いよく開かれ、戦闘服を着た牛人海兵が入った。

「報告しもす!艦長、侵入者がぁぁぁぁー!!!」

 報告の途中、大きな顎口が牛人海兵の喉にかみつき、引きちぎった。「モォモォォォー!!?」女性の牛人通信兵が悲鳴をあげた。

「皆は先に避難しろ」

 カエデアオは立ち上がり、顔に真剣の色を帯びた。ブリッジクルーは一瞬に躊躇したが、頷いて向こうの入口から退出した。艦長、特に国母ケオタルの血を引いたカエデアオの命令は絶対だ。

 最後の一人が退室し、カエデアオは艦長席の後ろに飾っているトライデント手に取った。ただのトライデントではない、失われたポセイドン・テックの残滓、「ケオビーの嵐槍」なのだ。彼女は槍先を闖入者ーー未だに死体を貪っている深緑色の鱗に覆われた怪物に向けた。なるほど、確かにワニやトカゲに似ている部分がある。

「おい、いつまで食っている気だ?」

 話しかけられて、怪物は死体を放り、カエデアオを見つめ、「SSSAAAAAH……」と爬虫類めいた声で唸った。

「言葉わかるか?なぜ我々を襲った?どこから来た?」

「アァー……アイ……モンスタァ」

 怪物は拙い英語で発話した。質問したカエデアオは少し驚いた。

「アァー……アイ……モンスター……ユー……ビーフ……」モンスターと自称する怪物は鋭利な牙が生えた口を開け、舌なめずりした。「モンスター、イーツ、ビーフ」

「ほう、そうかい。我を食う気か?」「シャースッスッスススス!」「気持ち悪い笑い声だ、なァ!」

 カエデアオは咄嗟に踏み込み、突きを繰り出した!

🍺

 酔いからさめたハーピーたちは牛人のコントロールから脱したらしく、困惑そうに変異した自分の体を見る者、地に伏せて泣いている者、状況を受け入れて飛行を楽しむ者すらいた。怪我人の手当をKIRINの救助隊に任せてキャプテン、タイセイ、そしてファースト・スクィーズの四人がティータイムをとるべく、鹿児島中央駅に直結したデパートにあるスター☆ディアーズに来ていた(店長はCEOの来訪に喜んで泣いていた)。タイセイはホットティーの啜り、満足そうにため息した。

「フー、やれやれ、これからは大変だぜ。キャプテン、おれに使った中和剤はまたあるか?」

「あるちゃああるが、お前みたいに打てばすぐに利くとは限らないぞ。もっと実験とデータが必要だ。大体なんなんだお前の身体は、あんな状態で翼を生やしてパワーアップとか、どこに収納していたんだ?質量保存の法即違反にも程がある」

「それはまあ、先輩は唯一無二のヒーローですからね!常識の外のいる存在です」

 ノドカは背後からタイセイの両肩を掴み、マッサージするように揉みだした。大胆なボディタッチ。大仕事を終わらせた解放感で相当調子に乗っている。

「お前相当だぞ娘!常識ある者はいきなり大切な人間に死亡するリスクのある薬を打つか?」

「いや、そんな……大切だなんて。私と先輩はまたこんな関係じゃ……」「アォオオーン!面倒くぇーぞお前ら!」「ハハハ」「キャプテンさん。お代わりしていいですかぁ?」「こどもか!飲みたければ自分で頼め!」

(終わり)

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