見出し画像

うなぎ絶滅キャンペーンは中世からあった

 我々考察班は遂にうなぎ絶滅キャンペーンに関する最古の史料を見つけたのです。

 12世紀、現在のポーランドとチェコの地域で活動していた吟遊詩人エイク・アジュエム=スカンバが残した手記から、このような記述がありました。

~ ~ ~

 今日は妙な一行が村に来た。ローブを纏った牧師風の男、同じローブを纏い、バスケットを背負った青年、布鎧を着込んでハルバードを持った二人の戦士。巡回牧師の一団かとわたしは思った。

 彼らは広場に着くと、青年がバスケットから七輪を取り出し、火を起こした。牧師は何らかのまじない唱えると、青年はバスケットから黒い縄のようなものを取り出した。縄がうねっているところを目にした筆者は生理的不快感を覚えた。縄の正体は一匹のイール(Eel)であった。あの細長い不気味の体、ヘビを想起させる。

 まじないが終わり、牧師が青年に頷くと、彼は手際良くイールの頭に釘を打ち付け、ナイフで捌いた。行き交う村人は好奇な視線を一行を投げた。捌いたイールを、今度は何本の串で突き刺し、七輪の上に移して炙り始めた。まさか、食うというのか?

「ビホールド!皆の者よ!寄ってくれ!聞いてくれ!オヌシらは、イールというの魚をご存知かね?」牧師の呼びかけに、村人たちが集まった。「知っとるよ!あのヘビみたいな気味わりぃ魚だろ?小骨が多くて食えるもんじゃねえし篭の隙間からエサ取っちまうから参ってるぜ」漁師の男が言った。「ほう、ではイールが尻穴から身体に入り、腹を食い破ることも知っているかな?」「し、知らねえ……本当かよ……」魚師は青ざめた。他に何人が尻を押さえた。

「そう、イールは油断した者の穴という穴から体内に侵入し、内臓を貪り、殺すのだ!」「ひーっ!怖い!」「なぜこんな酷いことするのです!?教えてください教士様!」

「答えは明白だ。イールは水中のヘビ、つまり人間を騙し、堕落させたヘビとは同様、悪魔の手先だからだ!」「おお、なんということ!?」「どおりでこのあいだ川に入った時お尻がムズムズしてた!」群衆が騒ぎはじめ、牧師は咳払いした。

「コホン!では、皆の者よ。悪魔の手先に対し、我々が取るべき行動はなんだ?」「殺せー!」蝋燭屋の息子が叫んだ。「悪魔を殺せー!」「ひ、火炙りにしろ!」誰かか彼に追随した。

「殺せー!」「焼き殺せー!」「「「こ!ろ!せ! こ!ろ!せ! こ!ろ!せ!」」」

「静まれい!!」牧師が一喝し、群衆を黙らせた。「皆の者が悪魔を憎む気持ち、わしは十分に理解している。だが邪魚を甘く見てはならぬ。彼奴らを手当たり次第殺しても、その血が川を沿い海に運ばれ、春になると佐谷多くのイールが川に戻ってくるのだ!」

「嗚呼!なんて恐ろしい!」「なにが方法がないんですか!?」

「無論、ある。イールを、我々がイールを食らえば、その魂が信心深い神の子羊である我々の腹の中で消滅し、もう二度と甦ることがない」

「ひっ!悪魔を食べるのですか!?」「腹を壊して死んでしまいます!」

「待たれい!オヌシらが動揺するのは当たり前のこと。じゃが我々は邪魚を安全に食べれる方法を提示する。これを見よう!」牧師は壺を高く掲げた。「この壺の中にあるのは、祝福されし聖豆より精製された聖水である!これを焼けたイールにかけるのだ!」

 牧師は慎重に、壺を青年に渡した。壺を受け取った青年は柄の長いブラシを中に入れた。再びブラシを引くと、黒くて粘質の液体がついていた。その禍々しい液体をみた村人は再び騒然とした。

「迷える子羊たちよ!その目でしかっと見届るがよい!これからは聖水の力によって邪魚を浄化する儀式を執り行うのだ!」

 青年が聖水と呼ばれた液体を付けたブラシをイールの切り身に何度も擦り付けた。聖水とイールの脂が炭に落ちてジュー......と音が聞こえた。広場に香ばしい匂いが広がる。筆者を含めた村人たちは唾をのんだ。「いい匂い……」「奇跡じゃ……」さっきまで白いイールの切り身があめ色に焼けて、とても美味しそうに見えてきた。

「出来上がりました」

「うむ」牧師は焼けたイールをみて、頷いた。「浄化の儀式が完成されたし!さあ、これを食べて見せる勇敢な者がこの中におらんかね?」でも牧師の呼びかけに対して村人の反応は薄かった。またイールを食べることに拒んでいるようだ。「めっちゃいい匂いだけどよ……」「でもやはりこわいわ、ディーモンの肉なんて……」

「……では、そこの少年!」牧師は群衆の中に一人の少年に指差しした。たしかに牛飼いの息子だった。「来たまえ!オヌシが神の力よって清められたイールを食べるという栄誉を得たのだ!」

「えっ、ぼくがですか!?」指名された少年が不安に身を縮めた。

「怖がる必要がない、神の力を信じよう」

 少年が恐れ恐れに前に出た。青年が微笑みながら彼に向かって言った。

「大丈夫ですよ、きみは神に仕えし戦士となり、邪霊を滅するのです。これ以上の誇れることがありません」彼はナイフでイールを小さく切って少年に渡した。

「うぅ……」牛飼いの息子が泣きそうに顔をしかめてイールを見つめた。

「さあ、少年よ、食べるのだ!」牧師が促す。

「がんばれボウズ!」「神を信じるのよ!」「悪魔を駆除しろ!」周囲から応援の声。少年が思いっきり、イールを、口に入れた!

「食った……」「嗚呼……」「もう見てられないよぉ……」

 群衆が静まり返って牛飼いの息子がイールを咀嚼する様を見守った。少年がイールを嚥下した。その目はキラキラ輝いている。

「おいしい……とてもおいしいです!牧師様!」

「ホホホー!そうであろう、そうであろう!」牧師は少年の頭を撫でた。「儀式はこれにて円満せり!」

「「「「「ワフ――ッ!!!」」」」」村人たちは歓声をあげた。

「少年よ、神に代わって邪魚を懲らしめた気分はどうだ?」

「はい!ともて誇り高いです!」

「ホホホー!そうかそうか。でもオヌシは体になにが変わったことを気付いたか」

「えっ!?」牛飼いの息子が慌てて自分の腹を触った。「そんな、悪魔は滅んだはずではないの?」

「ホホホー!そうではない。説明より見せた方が早いだろう。ガード!この勇敢な若者に剣を!」「はっ!」

 戦士のひとりが剣を抜けて戸惑っている少年に渡した。片手剣とは言え、決して子供の腕力で扱えるものではない。少年は今にも剣の重さに負けて転びそうだ。戦士は少年に言った。

「その剣で、わたしを斬れ」「えっ?」

 少年だけでなく、牧師の一行以外、その場にいる者はみな困惑した。いったい何がしたいんだ?

「どうした?悪魔の飲み込んだのにただの人間が恐れるか?」戦士はハルバードを構えた。「それとも信仰が弱いゆえに悪魔に取りつかれたのか?なんならここで切り捨てるほかないぞ?」

「うぅ……ウオオオオー!」少年が泣きそうになりながらも剣を高く掲げて、大の男に斬りつけた!誰もが戦士がハルバードで攻撃を軽くいなすと思った。だが剣とハルバードがぶつかった途端。

「嗚呼ー!なんと!?」ハルバードを落とし、戦士は右手首を押さえた。「なんという剣さばき……!この者は完全に力を我が物にしている!」

「今、なんと言った?」「力をなんだって?」

「わしが説明しよう、コホン!」牧師は咳払いした。「イールを食べたことによって、この若者は悪魔の力を神の力に変え、行使することができた。いまのはその一部の力に過ぎない」

「ほかになにができるんですか?」と漁師が尋ねた。

「無論、ある。だがこの場ですべてを明かすのはよくない」牧師はもったいぶって言った。「興味がある方は、夕方に酒場に集まるといい。イールを持ってくれるなら少しの布施で焼いてあげよう。聖水の販売も行う!」

「どうよ、行くか?」「行くに決まってら!見ただろイールのすばらしい妙用。他に何かできるか知りたいぜ!」

 野次馬が談笑しながら散っていった。残るのは七輪の収拾をする牧師一行といまだに呆然としている牛飼いの少年だけとなった。

「剣、返してもらおうか」「あっはい」

 少年が差し出し剣を、戦士は右手で受け取った。ははーん、そういうことね。

~ ~ ~

 これ以降の内容はうなぎのたれらしきものに汚れて解読不能となりました。でもこれで中世ヨーロッパでもうなぎの邪悪性と滋養強壮効果を知っていると判明しました。今年の土用の丑、あなたも神の尖兵となり、邪魚うなぎを食べて悪魔の駆除に貢献しませんか?

~~

~~~

~~~~

~~~~~

このnoteの内容はすべてねつ造です。作者は本心、うなぎの絶滅をみたくありません。けれど食べるかどうかはあなた個人の判断に委ねます。

当アカウントは軽率送金をお勧めします。