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婦人科医のシズ先生:悪魔転生編 上

以下の文章には:
半端ところか、へぼな医療知識。
暴力描写。
中絶。
汚い言葉。
などが含まれています。駄目な方は今すぐ逃げてください!

「メーリー メリークリースマース ミザーブル クリースマース みんながパーティ 私は仕事 るーるるー」

 即興のクリスマスソングを口すさみながら、シズはプローブを妊婦の腹に当てて前後に動かしていた。今日はクリスマス・イヴ。外では人々がハムやターキーを楽しみ、ビール呷ってクリスマス特別番組で笑って家族団らんしているその頃、シズは病院の、ツリーを飾ったホールから奥に進んで、クリスマスソングが響く廊下を進んでからID認証が必要なドアを抜け、さらに奥に進んでID認証が必要なエレベーターに乗り、地下8階に降りて、クリスマス雰囲気が全く感じない防空壕めいた廊下を通り、さらにID認証が必要な手術室にいる。

 手術室は極めて殺風景な空間だ。とにかく四角く、床と壁は樹脂材質でできている。その真ん中に機材、手術台がある。その上に寝ている者は、妊婦と呼ばれるにはおよそそぐわない、若い少女なのだ。施術内容はもちろん、腹の中にある胎児の中絶である。先程麻酔を施したため静かに寝息を立っている。

 彼女の年齢は15、便宜上は彼女のことK子と呼ぼう。ほかの情報は本人のプライバシーを守る人道的見地から伏せておく。

 さらに彼女の名誉のために言っておこう。K子は思春期ゆえの思慮を欠けた行為をした末にここに運ばれたのではない。彼女は処女で、親しい男友達もいない。処女膜も健在だとシズの診察で証明された。なのに妊娠。腹の中の胎児はすでに通常の妊娠がら4ヶ月ほどの大きさがある、ただ二ヵ月の間で。

 処女妊娠、かつての聖母マリアのように、場合によって宗教的奇跡として扱われ、奉る集団が殺到するだろう。しかしK子は自分の身に起こった異変にただ恐怖し、受け入れずにいた。だからこのSt.G病院の婦人科に訪れた。診察の結果、胎児は高確率で異界転生体とシズが判断し、即中絶手術が決定され、今に至った。

「らーららー ターキー食べたいなー ぶっ厚いももにがぶりー」

 歌いながらシズはK子の産道にローションで濡らした膣鏡を挿入し、ネジを捻って産道を広げた。

「ダン君」「はい」「コーヒー」「はい」

 シズの呼びかけに、ダンという名の男ナースはストローをエココップを彼女の口元に運び、マスクの隙間に差し込んだ。シズはストローを咥え、適温の黒糖カフェラテをズズっと吸った。

「ふー、ありがとう。それじゃ、始めますか」「はい」

 シズは表情が変わった。マスクと帽子に覆われたためほとんど見れないが、その下の顔は一瞬にして凄まじい迫力を帯び、ダンとほかのナース二名がその気迫を触れて、思わず唾を呑んんだ。

「この予期せぬ命を苦痛なく終わらせましょう。吸引器を」「はい」

 ダンから電動式吸引器を渡され、シズはその先端を産道に差し込み、子宮に侵入した。プローブによる超音波画像を頼りに、辛うじて人間の形になっている胎児に迫る。

 吸引器の先端がついに胎児の前に到達した。これから吸引器を起動したら、胎児の脆弱な構造が破壊され、クズ肉にして吸い出される。これで仕事が終わる。誰もがそう思った、シズ本人もそう思った。ボタンを押し、バキュームを起動する。

「なっ」

 しかし胎児は吸い込まれなかった。それところか、信じられない力で吸引器をの先端をまた成長途中の手で掴み取り、止めたのだ!

「先生、心電図が!」

 一人のナースが叫んだ。心電図を表すモニターの数値が跳ね上がり、K子の新陳代謝が速まっていると示した。それだけではない、超音波画像では、胎児は一秒ごとに成長しつつある!

「ア……アァ……」麻酔されたはずのK子は目が開いた。困惑と恐怖に満ちた視線でシズを見つめた。

「アレが、出たがっている……アアアアアーッ!!!

 絶叫!陣痛が始まっている!

「Shit!分娩に移行します!」シズは膣鏡を抜くと、K子の右手を握った。

「先ぇぇぇ生ぇぃぃぃ!いっっったぁいいいよぉー!!!」
「シーッシシ、怖がらなくいいですよ。デカイうんちを出すイメージして、いいですか?」
「うぅん、ちぃぃぃぃん!?」
「そうですよ。うんちを出す時と同じ要領でおしりに力を入れて!」
「ぐううううう!!!」

 凄まじい握力でK子がシズの手を握り返す!シズは顔色一つ変わらず。

「いいですか?3と数えれば力を込めるんですよ!」
「イィィッイイィイイィ!」
「1、2、3!」

「ARRRRRRRRGH!!!!」

 とても少女の喉から出たと思えぬ獣じみた咆哮!K子は顔に血管が浮かび、あらゆる穴から体液が噴き出す!

「いいですよ!もう一度お願いね!」
「まだ……出てないんですかぁアアアアーッ!!!?」
「あと一息です、せーの、うんちぃー!」
「チィィッィィィー!!!」
「出ました!赤ん坊が出ましたよ!あっ、うんちも少し出ましたぁ!」

「ヴェアアアアア!」

 産道から出て、第一の声をあげた赤ん坊を、シズは素早く臍帯をハサミで切断しダンに渡した。

「先……生……私は」脱力状態に陥りつつ、K子が頭を起こして、シズの方を見た。「私は……欲しくない……」

「大丈夫。あとは任せて。心配が要りませんわ」

 二人のナースがK子をホイル付き病床に移し、手術室から退出させた。

「せ、先生、いつまで持っていればいいですかっ?」未だに赤ん坊を抱いているダンは尋ねた。その声は震えている。「このベイビーなんか変です!どんどん重くなっています!」

「ヴェアアアアアア……WARHAHAHAHAHA!」

 オウマイサンタマリア!赤子の鳴き声が、禍々しい哄笑に変わっていく!

「ヒッ」

 怖じ気ついたダンは赤ん坊を手放してしまった!しかし赤ん坊は空中でくるりと身を翻し、両足で着地する否や、再び跳躍!

「ぶごっ」

 小さな手がダンの顎下の骨に守られていない柔らかい部分を貫いた。赤ん坊はウィンナーを想起させる肉感のある手に力が漲り、ダンを舌を、根元、まで引っこ抜いた!

「おご……おごごごぼぼぼ……」

 ダンは不思議そうに自分の顎下から滝の勢いで垂れて出る血液を手で受け止め、白目むいて倒れこんだ。

 僅か4秒間のできことである。

「ガガガ……ビッチどもが、儂を眠りから起こすとは罪が重いぞ」

 赤ん坊……の形をした何かが、手に握っている肉塊を齧り、嚥下した。すでに歯が生え揃った口で獣の唸りめいた声を発した。

「お前はそこで待っていろう、ビッチ。これを食ったら次にお前をヤル」「……ビッチとは、私のことですか?」
「他に誰がいる?ナインチンゲールよ。しかしモノを吸い込む管とはビッチどもの分際でよく考えたものだ。17世紀にそんなものはなかった」
「誰がナイチンゲールですか。私はシズ、ちゃんとしたドクターです」
「ガガガガ!ビッチがドクターと名乗りよる時代とは!面白い!ナインチンゲールよ、儂のビッチになれ。そうすればすぐには殺さぬ」
「そうはいきません」

 シズはダンの死体を一瞥した。彼との思い出が脳裏に行き来する。遅くまで残業に付き合ってもらい、夜更かしのテンションのままで朝を迎えた二人が病院近くのタコベルでタコス20個買ってオフィスで貪り、その後胃が重くなって丸一日苦しんだ。そしてまた別の日、二人で飲みに行った時、ダンは酒の勢いで「バラバラになった人間の肉塊を合法かつ安全な所で見たいという特殊嗜好を満たすため看護師の資格を取り、シズ先生の助手を志願した」とカミングアウトした。彼は仕事熱心で、腕も申し分なく、実にいい助手だった。

「今日の施術内容は、貴方の中絶でした」怒りの色が脳を染め上げる。怒れば怒るほど、シズの心が冴えわたり、残酷になる。「それが失敗しました。なので責任をもって貴方を夭折させます」

「ガーガーガー!いいぞ、強情のビッチめ!昂ってきたわ!」

 肉塊の栄養を吸収したためか、今の赤ん坊はすでに一歳児ほどの大きさになった。手に付いた血を舐め、邪悪に笑った。

「儂の名はスーゼ、茨の原公爵であり、キリストの敵である!たっぷりいたぶってやるぞ!」

(つづく)

シズ先生の初登場はこちらになります。


 

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