信頼回復への物流現場の挑戦　第１話

2024年6月14日 17:04

あらすじ

物流会社に勤める高橋和也は、誤出荷や在庫ズレの問題で荷主の信頼を失いかけ、新システム導入を提案する。
上司や現場作業者の意見を取り入れた提案書を作成し、システム開発企業を見つけるが、現場ではフォークリフトと作業者の接触しかけるヒヤリハットが発生してしまう。
新しいシステムの導入には時間がかかるため、その前に荷主の信用回復のため、適正在庫の採用と長期保管在庫の整理を提案し、現場改善を進める。
システム導入の予算が予定よりオーバーするが、高橋はベンダーに現場の情報提供を提案し、予算内に収めることで上層部の承認を得る。
システム導入が決定し、現場作業者と共に信頼回復に向けた取り組みを続ける。

新たな始まり

プロローグ

株式会社トータルロジスティクスの倉庫は、いつも通りの静かな朝を迎えていた。
この会社は、従業員数約500人、保有トラック台数180台を誇り、愛知県に本社を構え、大阪、東京、九州、東北に支店を持つ中規模の3PLの物流企業。年間売上高は5000億円に達し、主に事務用品（机、商品棚、ロッカーなど）を扱っている。

高橋和也は、倉庫の入り口付近で仲間たちと挨拶を交わしながら、今日のスケジュールを頭の中で確認していた。
彼は、今年で34歳で、この倉庫の現場のリーダーとして、現場での経験を積みながら、日々の業務を円滑に進めるために試行錯誤を行いながら仕事に取り組んでいた。
今までは、自分のペースで試行錯誤をしながら、仕事に取り組んでいたが、嫌でも新しい事に挑まなくてはならない出来事が起こることをまだ知らない。

始業前の倉庫

朝日が倉庫の大きな窓から差し込み、広いスペースを柔らかく照らしていた。時計は7時40分を指している。
まだ、始業前の時間だが、従業員たちは各々の持ち場で準備を進めていた。

中村太一は、荷物を載せるためのパレットを整頓しながら高橋に向かって声をかけた。

「おはよう、和也。今日も忙しくなりそうだな。」
高橋は頷きながら答えた。

「おはようございます、太一さん。今日は午前中に荷受けと検品、午後からはピッキングと梱包ですね。順調に進めばいいんですが…。この現場では、まだ自動倉庫やAGV（自動搬送車）の活用が難しく、アナログ作業がメインだから大変ですよね。」

フォークリフトオペレーターの斎藤直樹は、フォークリフトの点検を行っていた。
彼は作業全体の流れを考えず、目の前の仕事を淡々とこなすタイプだ。
斎藤のフォークリフトの点検を終えるのを待って、高橋は近づいて行った。

「直樹さん、おはようございます。フォークリフトの調子はどうですか？」

「おはようございます、高橋さん。問題ないですよ。今日も安全運転で頑張ります」
と斎藤は落ち着いた声で答えた。

一方、事務所では佐藤美咲が今日のスケジュールを確認していた。
PCの画面には今日の出荷予定が表示されている。
美咲はスケジュールを確認しながら、顧客からの特別な指示や注意事項を再確認していた。

高橋が事務所に顔を出して、
「美咲さん、おはようございます。今日の出荷リスト、問題なさそうですか？」と声をかけた。

「おはようございます、高橋さん。今のところ問題はなさそうです。
誤出荷や商品の破損に対するクレームが多いので、気をつけましょう」
と美咲は微笑みながら答えた。

朝礼ミーティング

7時50分になると、倉庫の中央にあるミーティングスペースに全員が集まった。
ここで毎朝のミーティングが行われる。

高橋はホワイトボードの前に立ち、今日の予定を説明し始めた。「皆さん、おはようございます。午前中はトラックからの荷受け作業と検品、そして入ってきた荷物を指定の場所へ移動・格納します。午後からは出荷指示書に従い、ピッキング作業と梱包作業を行い、荷物を集荷に来たトラックに積み込みます。最近、ミスが多く荷主から厳しい対応を求められているので、注意してください。今日も一日頑張りましょう。」

高橋の説明を聞きながら、小林裕子は小声で隣の渡辺美和に
「今日はどれくらいの量が来るんでしょうね？」
と囁いた。

美和は「さあね、でも昨日の感じからすると結構多いかも。しっかりやらないとね」
と応じた。ミーティングが終わると、それぞれが自分の持ち場に散り始めた。

高橋は太一に
「太一さん、午前中の荷受けと検品は順調にいくといいですね。気を引き締めていきましょう」
と声をかけた。

太一は
「もちろんだ、和也。今日も頑張ろう」
と返した。

8時になると、いよいよ始業の鐘が鳴り響き、倉庫全体が動き始めた。
最初のトラックのウィングを開けて、フォークリフトオペレーターの斎藤直樹が、荷台に積まれた荷物の載ったパレットを慎重に下ろし始めた。
彼は慣れた手つきでフォークリフトを操作し、荷物を次々と所定の場所へ下ろし始めた。

「斎藤さん、いい調子ですね。次のパレットもお願いします」
と高橋は声をかけた。

斎藤は無言で頷き、作業を続けた。
彼の集中力は高く、無駄な動きが一切なかった。
その頃、中村太一は検品作業を進めていた。
パレットに載っている商品名、品番、数量をリストと照合する。

そして、彼は破損がないかを細部にまで確認をしていた。
「問題なさそうだな。次の荷物を頼む」
と太一は斎藤に声をかけた。

渡辺美和は、1つの検品が終わると明るい声で
「次は、どの荷物を検品しましょうか？」
と太一に尋ねた。

太一は
「次は、この荷物の検品を頼む」
と指示を出した。

美和は「了解です！」と元気よく答え、迅速に作業を進めた。
彼女は周囲とおしゃべりを楽しみながらも、手際よく仕事をこなしていた。

午後の作業：ピッキングと梱包

昼休みを終え、午後1時。
今度は出荷指示書に従い、ピッキング作業が始まった。

小林裕子は、新人作業員たちに優しく指導しながら、正確なピッキングを心がけていた。

「ここからは慎重に、ミスがないようにね。あ、そこの棚にある商品をピッキングしておいて」
と裕子は新人に指示を出した。

新人作業員は緊張しながらも、
「はい、わかりました！」
と応じ、指示された商品をピッキングし始めた。

その間、渡辺美和はピッキングされた商品を梱包作業に回す準備をしていた。
彼女は手際よく作業を進める一方で、周囲の作業者とおしゃべりをしながら、周りを和ませていた。

「今日の梱包作業も大変そうですね。でも、みんなで頑張りましょう」と美和は周囲に声をかけた。

すると、一人の作業者が
「そうですね。でも、もう少し効率的な方法があればいいのに。毎日同じ作業ばかりで、飽きてきますよね」
と愚痴をこぼした。

美和は笑いながら
「まあ、そう言わずに。おしゃべりしながらやれば、あっという間に終わりますよ」
と応じた。

その隣では、中村太一が一人黙々と作業を進めていた。
彼は新しいやり方には興味を示さず、現状維持を好み、目の前の仕事を淡々とこなすことに集中していた。
「太一さん、少し休憩したらどうですか？休憩も大事ですよ」
と美和が声をかけたが、太一は首を振って
「いや、今はこのまま進める。時間がもったいないから」とぶっきらぼうに返事をした。

緊急事態の発生

午後3時、出荷された商品を集荷トラックに積み込み終えると、高橋はほっと一息ついた。

その時、事務所の電話が鳴り響き、佐藤美咲が電話に出ると、顧客からの怒りの声が聞こえてきた。
「注文した商品と違うものが届いたんですが、どういうことですか？」
顧客の声は明らかに怒っていた。
美咲は冷静に、
「申し訳ありません。すぐに確認して、正しい商品をお送りします」
とマニュアル通りの対応をする。

高橋は電話のやり取りを聞きながら、心の中で頭を抱えた。
誤出荷がまた発生したのだ。
「またか…」と高橋は呟いた。

ここまで続くと石田真司に報告し、対策を考える必要性を感じていた。
こうして、平穏だった一日は、いつもの問題が発生して崩れ去っていった。そして誤出荷の原因を明確にして、今後の対応策を考えるという逃れることが出来ない高橋たちの挑戦が始まる。

第２話：https://note.com/preview/n39ca787af211?prev_access_key=e2055b7e3475511c7de9cc9886f44c5b

第３話：https://note.com/preview/n847d414336f4?prev_access_key=2214bb29110fda66304ee356f1fc8cc5

第４話：https://note.com/preview/nf96a47f129b0?prev_access_key=4246d4817d834e87962b795641b1c2ab

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