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メッセージ性のあるドラマ

「メッセージ性」という言葉があります。音楽の分野でいえば、分かりやすい例だと「反戦歌」。送り手に強く伝えたいメッセージがあり、受け手側からすれば「心動かされる」といったタイプの音楽。自由への希求、命の大切さ、人生への応援歌など。もちろん、苦手な人もいるでしょうけどね。

「メッセージ性」は様々な表現に存在し、ドラマにも当然あります。「リアルサウンド」の記事にこんな言葉がありました「『35歳の少女』の強烈なメッセージ性」。主人公が25年後に目を覚ましたら、夢に描いた理想の未来ではなく、温暖化や差別や原発やら色々あったというドラマでした。

「メッセージ性」という言葉は、「社会性」とか「政治性」にもニュアンスとしては近く、反対語は「娯楽性」や「エンタメ」ということになるでしょうか。「MANTANWEB」の言葉を引用するなら、「“ドラマのTBS”の存在感 メッセージ性と娯楽の両輪」という使い方にもなるわけです。

先日のTBSラジオ『こねくと』で、町山智浩さんが映画『ソウルの春』を紹介する中で、韓国映画は「社会性」と「エンタメ」を上手く両立させているという話をしていましたが、むろん日本のドラマにもそうした成功例はあり。『アンナチュラル』『MIU404』の脚本家・野木亜紀子さんはその代表格。「東洋経済」はまずこう書いています。

「特徴的なのは、時事ネタや社会問題を取り込みながら、社会的弱者やマイノリティなどの声なき声を優しく拾い上げ、決して声高にではなく、さりげなくエンターテインメントのなかにメッセージとしてにじませるところだ」

『アンナチュラル』第2話における自殺サイトを利用した犯罪、第4話におけるブラック労働、第6話における暗号通貨詐欺。『MIU404』第5話では、外国人技能実習生問題が取り上げられました。

野木さん自身は、「社会性」と「エンタメ」の関係について、「東洋経済」の中で次のように述べています。

「ニュースやドキュメンタリーは観ないけどドラマや映画は観るという人はたくさんいます。エンターテインメントの形にすることで世の中に伝える、知ってもらうのは意義のあることであり、必要なことです」

「そもそも社会性とエンターテインメントは切り離せない気もします。犯罪は社会の状況があって起こるもの。事件ものをやるうえで社会と無縁ではいられません。事件を描けば社会を扱わざるをえないので、エンターテインメントと社会性はむしろ無縁であるほうが難しいのではないでしょうか」

同じ内容のことを発言しているのが、朝ドラ『虎に翼』の脚本家・吉田恵里香さん。「朝日新聞」のインタビューにこう答えています(「crea」の記事から引用」)。

「エンターテインメントと社会性は両立すると思っています。というより、切っても切れないものです。どんな作品も作り手の思想がのるもので、思想がないようにみえるものは『思想がない』という思想です」

『虎に翼』への感想でよく言われるのが「攻めている」という言葉。関東大震災における朝鮮人虐殺、総力戦研究所、原爆裁判など、近年避けられがちな話だったり、これまでほとんど取り上げられなかったことを、真正面から描いているからでしょう。まあ、吉田さんに言わせれば、「攻めている」といわれるような、今の日本の状況こそが問題なのでしょう。

近年、メッセージ性のあるドラマを書いている脚本家と言えば、映画『ジョゼと虎と魚たち』『天然コケッコー』や朝ドラ『カーネーション』の渡辺あやさんがいます。『今ここにある危機とぼくの好感度について』はそんな一本で、制作統括・勝田夏子さんは「リアルサウンド」でこう答えています。

「渡辺あやさんと前々から『最近、言葉が破壊されているよね』『日本語が壊れていっているよね』という話をしていたんです。つまり、何か言っているようで何も言っていないような言葉や、はぐらかして何も答えないみたいなことが世の中で罷り通っていると」

「20年くらい前だったら許されない振る舞いだったことが、今は政治や行政の世界でも企業社会でもたくさんあって、それで逃げ切ったもん勝ちみたいな世の中になってしまっている現状に、私も渡辺あやさんも非常に強い危機感を持っていたんです」

「忖度」と「隠蔽」が罷り通り、「公」で使用される言葉ですら、余りにも軽んじられている今の日本。『今ここ』最終回では、大学総長(松重豊さん)が立ち上がり、「必ずや名を正さんか(『論語』)」と、組織の膿を出し切り、信頼回復への茨の道を選びます。

我々は組織として腐敗しきっています。不都合な事実を隠蔽し、虚偽でその場をしのぎ、それを黙認し合う。何より深刻なのは、そんなことを繰り返すうちに、我々はお互いを信じ合うことも、敬い合うこともできなくなっていることです

渡辺さんのもう一つの作品『エルピス-希望、あるいは災い-』は、企画から実現までに数年かかり、プロデューサーの佐野亜裕美さんが、転職してまで実現させたドラマ。権力とテレビ局の癒着や、現実にあった事件を彷彿とさせる冤罪をテーマにするなど、これまた「攻めている」と評されました。

『虎に翼』も残すところ、あと一月半。これからさらにどんなメッセージを発するでしょうか。「共亜事件」では権力から司法の独立を守り、寅子の父を救った桂場(松山ケンイチさん)による「ブルーパージ」は描かれるのか。そしてその時、寅子は「はて?」と物申すでしょうか。注目です。

余談①:今期ドラマですと『海のはじまり』(生方美久さん)、『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(大九明子さん他)、『あの子の子ども』(蛭田直美さん)、『新宿野戦病院』(宮藤官九郎さん)もメッセージ色が強く。女性脚本家がほとんどなのも、今という時代の、何かを反映しているのでしょう。

余談②:小学生の頃から最高裁の判決は政権寄りで、「司法の独立」なんて「嘘っ八」だと思っていましたが、『虎に翼』で「ブルーパージ」が描かれるとすれば、米国による原爆投下の一般市民「大量虐殺」と共に、日本の「司法の闇」が明らかにされるのでしょう。

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