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[国際]言語聴覚士の読書~世界のニュースを日本人は何も知らない〜

病院ST(言語聴覚士)が読んだ本を咀嚼し嚥下する。リハビリセラピスト×ビジネス、時々短歌、自己啓発本の読書感想文。

[流れ行く雲の速さもディマンドも見ようとしないと見えないもの]

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はじめに[私とニュース]

令和の時代、新聞を取らずテレビをほとんど見なくなってしまった私が触れる主なニュースはスマートフォン越しだ。yahoo、LINE、Twitter、様々なアプリをクリックすれば最新情報が目に飛び込み、ニュースに触れることができる。情報収集も効率化の時代だ。父が朝一番に新聞を広げ夜の10時になると母がニュース番組を視聴する、そんな平成初期をあたりまえに過ごしていた子どもの頃の私は、大人になったら自分もこうなるであろうと考えていた将来の予測がいかにあやふやであったかを、大人になった現在、知るようになる。
そうして大人になった私は言語聴覚士という医療系専門職に就くことになるのだが、医療系専門職は大学および専門学校で各領域の知識をひたすら吸収し、国家試験の合格を目的に学生生活を過ごす。正直、資格の取得さえ確定されれば内定はあっさいと得られ、就職活動の際就職先である病院や施設の経営状況や社会情勢を考慮してその種別を選ぶ学生はあまり多くないだろうと思う。就職後は学校で学んだ知識は業務に直結し、臨床でさらに専門知識を深めていくという縦方向の成長。そのためか、政治経済情勢、社会動向に疎い医療系専門職は少なくないのではないだろうかと感じる。例え疎くても、この限られた領域での知識や技術があれば、就職し、業務をこなし、病院や施設内で昇進することができるからだ。

[世界のニュースを日本人は何も知らない 谷本真由美著]

著者は日本生まれ現在イギリス在住の元国連専門機関職員である。Twitterでは鋭い視線で日本人のあり方や問題点に切り込み、その舌鋒に触れることができる。本書でも、日本人がステレオタイプ化した海外への見方や、そもそも興味を持とうともしない姿勢に切り込み、海外における政治経済、社会情勢についてニュースとしての情報だけでなく、実際に現地で見聞きした体験が述べられる。リベラルだと思われがちな欧州では難民に反発する勢いが増していること、一方カナダでは積極的に難民を受け入れに経済成長に成功していること。イギリスの大学でイスラム教徒が男女別講義を主張しているという宗教の自由と男女同権の対立、公立の小中学校ではイスラム過激派により学校教育の乗っ取りを企てていたという事件。製造業が斜陽化しているにも関わらず、日本では製造業中心だった時代の教育をされていること。難民問題、宗教問題、差別問題、格差と貧困問題。知らないわけではないが表面的な知識としてつい浅はかな良心で考えてしまいがちなこと、思考から切り捨ててしまいがちなことに、興味深いエピソードを交えながら惹きつけられ、無知を恥じる間もなく感嘆してしまう。

ーすでに経済成長が終わり、世界で最も早く高齢化と少子化という問題に直面する大変厳しい状況におかれた先進国である

世界から見た日本の印象はこう表現される。これを読んで、誰かは頷き、誰かは嘆くのだろうか。政治経済・社会情勢に疎いまま大学を卒業し、医療系専門職としてリハビリテーションに従事する私は、これを読み、やはり臨床へと奮い立つことしかできないのだけれど。

考察[少子高齢化の"先進国"として]

2020年問題と言われていたことがある。団塊の世代が後期高齢者を迎え、雇用や不動産へさまざまな問題が起こると言われていたが、医療従事者として最も敏感になるにはやはり医療、介護の問題であろう。隣国の中国を始め、後進国であった東アジアの経済成長が目覚ましい中、日本の抱える少子高齢化の問題は深刻だ。しかし、経済成長が一息をつき、国民皆保険という制度のもと医療が供給される日本において、出生数の減少・高齢者人口の増加というのは必然であったのだろう。そして、それはこれから経済発展を遂げる国々においても訪れる必然の未来かと思われる。だから、現在の日本は世界に先んじて、少子高齢化への対策に乗り出しているといえる。医療介護に従事する私たちリハビリテーションセラピストは今まさに世界の最先端の現場にいるのではないのだろうか。
誰もが歳を重ねても、障害を抱えても、自分らしい豊かな生活を送る、その実現を目指しながらリハビリテーション計画は行われる。効率化の徹底、コストの削減による業績アップ、そんな一般企業の当然の視点に無頓着でありながら、でもその先にある大切なもの。経済発展を遂げだ国の人間が望むものと、私たちは常に向き合っている。日々臨床で重ねていく成果は、この国だけでなく、世界中に広がる希望になるのだと、社会情勢と各国の現状、日本の立場を鑑みて、そんなことを思わずにはいられない。だから、私はただ臨床へ奮い立つのだった。





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