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【春休み世界史講座】バイデン大統領とトランプ前大統領の外交政策の違いを読み解く

セカコ:2024年度、始まりました。よろしくお願いします。

先生:よろしくお願いします。今年はアメリカ大統領選挙がある年ですね。世界史の授業でも、大統領選挙の年には、話題になります。

セカコ:選挙は今のところ、現職のバイデン大統領に、トランプ前大統領が挑む形になっています。新聞やインターネットでは、「もしトラ」という言葉が出てきたり、トランプ前大統領を危険視し、バイデン大統領を支持する論調が目立ちます。

先生:日本ではそうですが、アメリカでは、支持は拮抗しており、州ごとに傾向も違います。

セカコ:「もしトラ」は、現実になるのでしょうか。

先生:それはやってみないとわかりませんが、日本のマスコミは少しトランプに冷たすぎる気もします。それはそれで理由があるのですが、忘れてはならないのは、アメリカは民主主義国家で、トランプは民主主義のもとで支持されて大統領や大統領候補になっている点です。バイデン大統領もそうですし、トランプ前大統領にも、支持される理由がちゃんとあるので、支持されているのです。世界史、現代史の授業では、その辺りをちゃんと客観的、公平に伝えていきたいですし、皆さんにも、それぞれが支持される理由を考えてもらいたいと思っています。


セカコ:バイデン大統領の外交政策について伺います。どのような点が支持されているのでしょうか、また、どのような点が非難されているのでしょうか。

先生:バイデン大統領の2021年から2024年までの外交政策と国際政治に対する肯定的および否定的な評価を見ていきましょう。

 バイデン政権は多国間主義の復活を掲げ、世界保健機関(WHO)やパリ協定に再加入するなど、国際的な枠組みでの協力を重視しました。

 また、NATOやG7などの伝統的同盟国との関係を修復、強化し、国際的な信頼を再構築しようと努めました。

 気候変動対策の強化にも取り組み、パリ協定への再加入や気候変動サミットの開催を通じて、国際的なリーダーシップを発揮しました。

セカイシシ:一方で、否定的な評価もある。特に、アフガニスタンからの米軍撤退は混乱を引き起こし、タリバンの迅速な権力掌握を許した。また、中国との競争を強調し、台湾への支持や人権問題での批判を通じて緊張が高まっておる。さらに、国内政治の深刻な分裂が外交政策に影響を与え、アメリカの国際的な立場を弱めているとの指摘もある。

先生:バイデン大統領の外交政策と国際政治に対するこれらの評価は、見る角度や価値観に大きく依存します。多国間主義の復活や同盟国との関係修復、気候変動への取り組みを支持する声がある一方で、アフガニスタンからの撤退の混乱、中国との関係悪化、および国内の分裂が国際政治に与える影響に対する懸念も存在します。

セカコ:トランプ前大統領はどうですか。「もしトラ」などと言われていますが、トランプ前大統領は2017年から2021年までの四年間、外交を担っていたので、その外交姿勢はある程度、予測できるのではないですか。トランプ前大統領時代の外交に関する評価についても、教えていただけますか。

先生:トランプ前大統領の外交政策は、強烈な「アメリカ第一主義」の下で展開されましたが、その評価は人によって大きく分かれます。

 トランプ政権は経済的利益の強化を優先し、NAFTAの再交渉や中国との貿易戦争を通じて、アメリカのためのより良い取引条件を求めました。

 これはよく、意外と言われますが、新たな軍事介入を避け、北朝鮮やアフガニスタンでの和平交渉を試みることで、一部では地域の緊張緩和に貢献したと見なされています。

 さらに、NATO加盟国に対して、防衛費用の公平な分担を求め、これによっていくつかの国が防衛予算を増加させました。

セカイシシ:否定的な評価も忘れてはならない。トランプ政権のアメリカ第一の姿勢やNATOへの批判、気候変動協定からの撤退は、伝統的な同盟国との関係を緊張させたと見なされておる。

 また、トランプ政権下での外交政策は、世界中でアメリカのイメージを損なう結果となった。移民政策や人種差別的な発言は、特に批判されておる。

 さらに、パリ協定からの撤退やイラン核合意からの離脱など、トランプ政権が取った一方的な行動は、国際的な協調と信頼を損ねたと見なされておる。

先生:トランプ大統領の外交政策と国際政治に対するこれらの評価も、視点や価値観に大きく依存しています。肯定的な視点を持つ人々は、主にアメリカの経済的、政治的利益を最優先とするアプローチを評価しています。一方で否定的な視点を持つ人々は、同盟国との関係、国際的な協調と信頼、そしてアメリカの国際社会におけるイメージとリーダーシップの損失に焦点を当てています。


先生:アメリカでは、トランプ前大統領と、バイデン大統領が、過去のどの大統領と多くの共通点を持っているかが、しばしば議論されています。

セカコ:面白そうですね。トランプ前大統領と共通点のある大統領って誰だろう。

先生:誰だと思いますか。当ててみて下さい。ワシントンの時代までさかのぼると大変なので、20世紀以降にしましょう。

セカコ:そうだな、ブッシュ大統領。

先生:お父さんの方でしょうか、子供の方でしょうか。

セカコ:子供の方です。

先生:どうしてそう思いますか。

セカコ:アフガニスタン攻撃やイラク戦争など、単独行動主義をとったところが共通しています。

先生:そうですね、的確です。他にもいますか。

セカコ:ちょっと古いですけど、いいですか。

先生:どうぞ。

セカコ:セオドア=ローズヴェルトです。

先生:どうしてそう思いますか。

セカコ:棍棒外交をやっていました。キューバにプラット条項を押し付けたり、フィリピンを植民地化したりしていました。

先生:なるほど。面白いですね。

セカコ:どうしてですか。

先生:確かにトランプ前大統領は、ブッシュ大統領やセオドア=ローズヴェルト大統領と共通点を持っていると言われることがあります。ただ、トランプ前大統領は、棍棒外交やイラク戦争のような、威圧や武力行使をほとんどやっていないんですよね。

セカコ:そういえば、そうですね。

先生:それなのに、そういうイメージを持たれているのは、不思議というか、彼自身のイメージ戦略なのかもしれません。

セカコ:イメージ戦略ですか。

先生:本当は、全然ブッシュやセオドア=ローズヴェルトじゃないのに、あえてそう見せようとしているのかもしれません。

セカコ:トランプ前大統領のことが、ますます読めなくなりました。先生はどうですか、誰がトランプ前大統領と共通点を持っているとお考えですか。

先生:私は、ニクソン大統領がトランプ前大統領と多くの共通点を持っていると考えています。

セカコ:ニクソン大統領ですか。それはどうしてですか。

先生:二極化から多極化への転換を目指し、中国やソ連と積極的な対話を行いました。特にニクソン訪中は、世界秩序を大きく転換させ、冷戦から多極化への足掛かりとなりました。

セカコ:北朝鮮やロシアとも交渉するトランプ前大統領と、確かに共通点がありますね。

セオドア・ローズヴェルト(共和党、任1901-1909)

 ローズヴェルトの外交政策は、「棍棒外交」として知られ、「穏やかに話し、大きな棍棒を持て」という格言で象徴されます。これは、アメリカが国際的な影響力を行使する際には、軍事力や経済力などの強力な後ろ盾を持つべきだという考え方です。トランプもまた、貿易や安全保障の問題で強硬な立場を取り、アメリカの力を前面に押し出す姿勢を見せました。

リチャード・ニクソン(共和党、任1969-1974)

 ニクソンの外交政策は二極化を是正し多極化を目指すものでしたが、特に中国との関係正常化やソヴィエト連邦とのデタントを通じて、国際政治において柔軟性を見せた点でトランプと共通しています。トランプは北朝鮮との直接対話や、NATO加盟国に対する防衛負担の増加要求など、従来の枠組みに囚われないアプローチを採りました。

ジョージ・W・ブッシュ(共和党、任2001-2009)

 ブッシュの外交政策は、特にイラク戦争における単独行動主義や、「テロとの戦い」における国際協力の再定義で知られています。トランプもまた、パリ協定からの撤退やイラン核合意からの離脱といった一連の行動で、アメリカの国益を最優先し、多国間協定や従来の同盟関係に疑問を投げかけました。

セカコ:バイデン大統領はどうですか。バイデン大統領と共通点を持っている大統領というと、副大統領だったので当然ですが、オバマ大統領が思い浮かびます。

先生:そうですね。バイデン大統領はオバマ大統領の副大統領でしたから、基本政策を継承しています。他には誰が思い浮かびますか。

セカコ:難しいですね。ロシアや中国との敵対姿勢を見ていると、トルーマン大統領かな。

先生:どんな点が共通していますか。

セカコ:NATOなどの同盟を重視して、中国やロシアに対抗していこうという姿勢が共通しています。

先生:ご明察。NATOを作ったのはトルーマン大統領ですからね。

セカイシシ:バイデンはオバマの副大統領だったが、トルーマンはフランクリン=ローズヴェルトの副大統領だった男だ。トルーマンの姿勢は、フランクリン=ローズヴェルトを継承していると言えるだろう。

セカコ:フランクリン=ローズヴェルトって、ロシアや中国と仲良くやっているイメージです。

先生:当時は中国は共産主義の中華人民共和国ではなく、中華民国でしたので事情が異なります。また、日独伊の枢軸陣営と戦うために、ソ連も含めた同盟を重視していました。同盟の組み合わせは違いますが、確かにバイデン大統領の姿勢と共通しています。

セカコ:そうですね。

先生:他に、クリントンの姿勢も、バイデンと共通点があるように思います。経済的なグローバリゼーションと国際協力を推進し、NAFTAのような貿易協定を支持しました。

セカコ:授業で色々習いましたが、スキャンダルの話で全て吹き飛びました!

先生:その話はもう忘れてあげて下さい(笑)

フランクリン・ローズヴェルト(民主党、任1933-1945)

 第二次世界大戦を通じて、ローズヴェルトは連合国と緊密に協力し、国際連合の設立に向けて尽力しました。バイデンもまた、多国間機関や同盟国との関係を重視し、トランプ政権下で弱まった国際的な協力関係の再構築に努めています。
 また、ローズヴェルトは戦後の国際秩序の形成に中心的な役割を果たし、自由と民主主義の価値を推進しました。バイデンも同様に、民主主義や人権の普及を国際政策の核心に置いています。

トルーマン(民主党、任1945-1953)

 トルーマンはNATOの設立やマーシャルプランを通じて、ヨーロッパ諸国との関係を強化し、ソヴィエト連邦の脅威に対抗しました。バイデンはNATOやその他の国際的な同盟関係を再強化し、共通の課題に対処するための協力を促進しています。
 トルーマンは冷戦期の初期にアメリカの外交政策を形成しましたが、バイデンもまた、ロシアや中国などの国際的な競争相手との関係を管理するために多国間の枠組みを利用しています。

クリントン(民主党、任1993-2001)

 クリントンは経済的なグローバリゼーションと国際協力を推進し、NAFTAのような貿易協定を支持しました。バイデンも国際協力の重要性を強調しており、特に気候変動やパンデミック対策などのグローバルな課題において国際的な取り組みを重視しています。

バラク・オバマ(民主党、任2009-2017)

 バイデンはオバマ政権で副大統領を務めた経験があり、その外交政策はオバマのアプローチを引き継いでいます。オバマはイラン核合意やパリ協定のような多国間協定を通じて国際的な課題に取り組み、バイデンもこれらの協定への復帰を優先事項としました。


セカコ:ちょっと待って下さい。ここまで見てきた、トランプ前大統領と共通点が多い大統領は、全て共和党です。バイデン大統領と共通点が多い大統領は、全て民主党です。偶然でしょうか。

先生:良いところに気付きました。偶然ではないです。共和党と民主党の、それが外交政策の違いです。

セカコ:つまり、バイデン大統領とトランプ前大統領の外交姿勢の違いは、二人の個人的な気質や性格の違いによるのではなく、所属している民主党と共和党の外交姿勢を反映しているということですか。

先生:その通りです。トランプ前大統領とバイデン大統領の論争は、彼ら個人の見解やスタイルの違いを超えて、アメリカの二大政党、共和党と民主党が長年にわたって持ち続けてきた外交政策および国際関係に対する根本的なアプローチの違いを反映しています。

共和党(トランプ)の外交姿勢

アメリカ第一主義
 
トランプはアメリカの利益を最優先し、多国間協定や国際機関に対して懐疑的な姿勢を取りました。彼の政策は、アメリカの経済的、軍事的独立を重視し、国際協力よりも二国間合意を好む傾向があります。

強硬な貿易政策
 
中国やNAFTA加盟国との貿易交渉では、アメリカにより有利な条件を求めるための強硬策を用いました。

限定的な国際協調
 
国際協調は、アメリカの国益に直接的に資する場合にのみ、重要視される傾向があります。

民主党(バイデン)の外交姿勢

多国間主義
 
バイデンは同盟国との関係強化や国際機関との協力を重視し、気候変動やパンデミック対応などのグローバルな課題に対する多国間の解決策を支持しています。

同盟とパートナーシップ
 
NATOや世界保健機関(WHO)などの国際的なパートナーシップを通じて、共通の課題への取り組みを強化しています。

外交と対話
 
敵対国とも対話を通じて解決策を模索し、外交的な手段を重視する姿勢を示しています。

 トランプとバイデンの間のこのような外交政策の違いは、アメリカの外交方針に関するより広範な議論の一部です。これは、アメリカの世界における役割、国際社会との関わり方、およびグローバルな課題への対応方法についての根本的な見解の相違を反映しています。歴史的に見ても、共和党と民主党は外交政策において異なる哲学を持っており、それが各大統領の政策として具体化されています。

セカコ:なるほど。今回はとても勉強になりました。バイデン大統領とトランプ前大統領の、個人的な意見や立場の違いだと思っていたことが、実はそれぞれが所属する民主党と共和党の外交理念の違いであるという考え方を学んだことで、視野が広がった気がします。ありがとうございました。


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