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リーダー・フォロアー・ランダム (#041)

今日はサクッと行くぞ。

高校生の時、交換留学でアメリカ・オハイオ州・シンシナティに行った。その時の話。

どういう経緯だったか忘れたが、私が滞在していたホストファミリーのお宅の近所に住んでいた名前も忘れた同い年の男の子との思い出だ。

私はプリンストン・ハイスクールという公立の学校に通っていたが、彼は、仮にジョージと呼ぼう。ジョージは私立の良い学校に通っていた。彼の学校で、学生による舞台演劇があって、そのためのポスター作りを手伝うということで、ジョージの家に行ったのだ。

ジョージはちょっと小太りで体格が大きく。スポーツよりも勉強ができるようなタイプ。喋りも動きもゆったりしていて、人を安心させるところがある。そして、何よりも深いことを考えていそうな顔立ちと雰囲気が溢れていた。その頃の私といえば、深いことを考えるというよりも、感性と直感でつかみ取った良いものを片っ端からポケットにつっこんでいるような荒削りな女子だった。

結果的にジョージはうまいこと、私の特徴を活かして、アイディアを出させ、1日の終わりには良いポスターのデザインが決まった。演劇はミステリーだったので、「襲ってくる人の手を特徴としたデザインにしよう」という私のアイディアを採用して、それを活かしたデザインができたのだ。

二人でそういう作業をしている間、彼がこう言った。

「僕はね、将軍にとても興味があるんだ」。
「ふうん」と私。
「人間にはね大まかに分けて3つの種類があるんだよ。リーダーとフォロアーとランダム」。

「それってどういう意味?」

「リーダーは文字通り、リーダー。僕は美術系のリーダーなんだ。誰かが僕をリーダーに決めたわけでも、僕がそう名乗りあげたわけでもない。昔から自然にそうなるんだ」。

私は興味しんしんで聴いていた。
「じゃあ、リーダーってどんなことをするわけ?」と私がきく。
「正確にいうと、フォロアーが周りについてくるんだ。だからリーダーの周りにはフォロアーがいて、彼らが何かことあるごとに僕の意見を聞いたり、相談に来るんだ」。

私は彼のいうことが信じられた。きっとフォロアーはジョージに相談することで、安心感と確信が得られたのだろう。ジョージには確かに人を安心させる知性と雰囲気がある。

「じゃあ、3番目のなんだっけ、あれ」

「ランダム。ランダムはね、リーダーでもフォロアーでもない。彼らはあっちのリーダー・こっちのリーダー・フォロアーとも仲良くする」。

「あ、それは私だ。私はランダムだ」と直感で私は即答した。

ジョージは低い声で続けた。リーダーは孤独なんだと。他のグループのリーダーと心を開いて付き合うことはできない。フォロアーにはみんなに平等に付き合ってあげないといけないから、ある程度の距離を置く必要がある。ランダムはあっちこっちに動いているので、自分が必要な時にそばにいてくれるとは限らない、と。

こ、こいつ17歳で、ずいぶん孤独なんだな。深いこと考えてるんだな。と私はびっくりした。と同時になんだか気の毒になった。そんなにがんじがらめに考えなくてもいいんじゃないかとも思った。そして私は早く家に帰りたくなった。ジョージはいい人だけど、きっと美術の才能もあるだろうけど、私が一番苦手な「袋小路の恐怖」のにおいがした。ランダムの私にはリーダーの孤独の片棒を担いであげられる器量はない。将軍のことだってよく知らない。教えてあげられない。

それ以降、ジョージと一緒に作業することも話すこともなかった。ときどき彼のことを思い出す。あの思慮深い孤独な17歳の若者は、その後どういう人生を歩むことになったのだろう。彼の孤独を癒してあげられる、伴侶を得たのだろうか。相変わらずフォロアーが家に訪ねてきては、まるでゴッドファーザーのように、みんなの抱える問題に対応する人生を続けているのだろうか。どうかジョージが楽しく絵を描いていますように。

あなたの想像力がわたしの武器。今日も読んでくれてありがとう。

えんぴつ画・MUJI B5 ノートブック

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