病気の一枚　3

入院生活、はじまりはじまり。

昨年夏、右胸のしこりに激痛がはしり、もろもろの検査の結果、乳がん、悪性腫瘍と診断され、まずは第一段階の治療で腫瘍を取り除く手術に臨むことになった。そして１１月。入院する前日ギリギリまで仕事をして、入院当日を迎えた。

荷物は結局どれくらい持って行っていいのか見当がつかず、大きなバッグ３つ分になってしまった。大荷物を抱えて、入院病棟へ。そして受付を済ませていざ病室へ。４人部屋の窓側のベッドがしばらく私の住居になる。

荷物を下ろすと、病棟オリエンテーションが始まった。それが終わったら荷物を棚に収めていく。その間に検温や血圧測定や問診を受ける。手術を前に緊張しているのか、血圧がずっと高いままだった。そんな中、お義母さんが来てくれた。お見舞いにハーバリウムを持ってきてくれた。そして少し話をして旦那と一緒に帰っていった。

撮った！

光に当てるときれいよ、とお義母さんが言っていたので、２人が帰ったあと、窓際に置いて撮ってみた。確かに、光に当てるとガラス瓶の中に入っている花がキラキラする。ハーバリウムはコンパクトに収まっているので、シンプルでいいなと思う。

とにかく初日はすることがたくさんあって、あっという間に時間が過ぎた。早めにお風呂を済ませたり、実家に連絡をとったり、快適な入院生活にするためベッド周りを整えたり、意外と忙しかった。

手術当日。

朝６時起床。今日は手術、いよいよ右胸とお別れである。いざ別れるとなると寂しくなるかと思っていたが、手術の緊張の方が勝っていた。歯磨きをしていると、同室に入院している２人と会ったので、少し話をした。

一人はお向かいのベッドのおばあちゃん。放射線治療で自宅から病院まで遠く、高齢のため毎日通院が厳しいので入院して治療を受けているのだそう。もう一人は私と同じ昨日入院してきて、今日手術とのこと。年齢も近いし、話してるうちに緊張がだんだんほぐれてきていた。

昼過ぎ、旦那が到着した。この日の手術が順調に進んでいるらしく、予定よりも早く呼ばれるかもしれないとのことで、早めに来てもらった。たわいもない話をしているうちに、予定より早く看護師さんに呼ばれた。

いよいよ手術室へ

点滴を持って、徒歩で手術室へ向かった。っていうか、ベッドに寝たまま向かうとかじゃないのね、とまた昭和なことを思ってしまった。旦那とは手術室の前でお別れ。とりあえず、いってきます！

看護師さんと一緒に手術室の前にある受付みたいな場所へ入り、本人確認をする。確認が終わったら、手術室へ。手術室へ入ると、テレビでよく見る部屋の光景が目の前に広がっていた。うわあ、めっちゃ緊張してきた・・・。

手術室が準備で慌ただしくなる中、ＣＤがかかった。旦那に借りたB'zのアルバムだ。全身麻酔なので聴けないと分かっていたが、念のため持ってきていた。せめて２曲目の「兵、走る」は聴きたい。

そう思っていたら、先生がやってきた。「お待たせ！ん？緊張してる？大丈夫、大丈夫！」そう言って麻酔が効くまで手を握ってくれた。そして２曲目が流れてきた途端、「あ、これいいよね～。でも麻酔のＢＧＭにしてはちょっと激しいね～」先生ごもっとも。と思った次の瞬間、意識を失った。

手術終了。・・・痛い。

麻酔から目が覚めて自分が気づいたのは、病室に帰ってきてからだった。いや、いちおう手術が終わった後に手術室で目覚めたらしいのだが、その時の記憶は一切ない。唯一覚えているのは「痛い！痛い痛い！」そう言いながら運ばれてきたことだけだ。

ぼんやりと目が覚めてベッド横を見たら、旦那とお義母さんがいた。病院の夕食の時間はとっくに過ぎていたので、コンビニで何か買ってくるから何がいいかと聞かれたが、なんて答えたか覚えていない。とにかく痛くてそれどころではなかった。

でも何か私がリクエストをしたらしく、２人は買い出しに出かけて行った。出かけたあと、よくよく自分の状況を見ると、点滴は刺さっているし、心電図もつながっているし、鼻に管は入っているし、足には血栓予防の長靴みたいなのを履かされてるし・・・これがまな板の上の鯉かと思いながら、眠ってしまった。

えーっと、うちのご家族の方は・・・？

数時間経って目が覚めて、頭が少しすっきりしてきて、様子を見に来た看護師さんに聞いた一言目がそれだった。この頃には身体が痛い以外は、意識ははっきりしていた。そしてやっと目覚めたのに身内が誰もいない・・・と気づいてとっさにそう聞いたのだろう。

テーブルの上にざるそばとおにぎりがありますよ、と看護師さんが教えてくれた。そして書置きもありますよ、と。「寝ているので帰ります。ＣＤも持って帰ります。」置いて帰られた・・・。少しショックだったが、まあ寝ているのをじっと見ててもどうにもならないか。

それからしばらくして、いろんな機械が身体から解放されていった。そしてベッドを起こして、おにぎりを二口ほど食べてみたが、そこから先が進まない。気持ち悪い。吐きそう。そして痛い。痛いったら痛い。もうだめだ。今日はもう寝よう。

痛いけど・・・眠れるかしら・・・。

追伸：病気の一枚は連載モノです。よかったら２もご覧ください。